Web音遊人(みゅーじん)

小曽根真

トップミュージシャンが奏でるビッグバンドに満員の聴衆がエキサイト/「Makoto Ozone No Name Horses ~20年目のthe Day 1」ツアーレポート

今を遡ること21年。日本を代表するジャズボーカリスト、伊藤君子のアルバム『Once You’ve Been In Love 一度恋をしたら』の制作のために、小曽根真、エリック・ミヤシロ、中川英二郎らをはじめとする日本のトップミュージシャンたちがスタジオに集められた。小曽根のプロデュース&ビッグバンド・アレンジによって行われたそのレコーディング・セッションで意気投合した彼らは、誰からともなく「このバンドのアルバムを作ってみたいね」と語り合い、翌2005年に正式にバンドを結成。小曽根真 No Name Horses(以下NNH)が誕生した。当初、アルバムを1枚発表して終えるはずだったそのバンドは、リリースツアー中にメンバーたちからあがってきた「次はいつやるの?」の声をバネに活動を継続。ラテン・ジャズを盛り込んだアルバム『JUNGLE』、壮大なオリジナル組曲やガーシュウィンの『ラプソディー・イン・ブルー』を含む交響詩作品『ROAD』、プログレッシヴロックとビッグバンド・サウンドの融合に挑んだ『Until We Vanish 15×15』など新たなサウンドを開拓し続けてきた。小曽根は、結成20周年を迎えるにあたり、松井秀太郎、小川晋平、陸悠ら3名のライジングスターを登用。ビッグバンドの王道であるスウィングと豊かな響きにフォーカスし、新たなスタートを切るという意味を込めた『Day 1』というタイトルの新作を2024年11月20日に発表した。そのリリースから約1か月半を経た2025年1月11日にスタートしたアルバムリリースツアー第1弾。その6日目の会場となる厚木市文化会館は、この日を待ちわびていたファンでぎっしり満員だ。

個性に彩られた楽曲と、豊かなピアノの響きとを味わう

一足先にステージに姿を見せたドラムの高橋信之介とベースの小川晋平。ふたりが刻むアップテンポのスウィングビートに導かれるようにして、小曽根と12名のホーン奏者が登場した瞬間に大きな歓声が湧きあがる。小曽根の軽やかなピアノイントロが添えられた演奏は、トランペットセクションとサクソフォンセクションが交わすコール&レスポンスがゴージャスなテーマを描き出す『Day 1』へと連なっていく。トランぺットの奥村晶が張りのあるハイノートでソロの先陣を切ると、続くアルトサクソフォンの池田篤は、16小節にわたるロング・トーンでスタートする大胆なソロを披露。二人の個性豊なブロウに会場から大きな拍手が送られる。

小曽根真

その後ステージでは、バストロンボーンの山城純子とベースの小川という低音楽器二人にスポットを当てた『ムール・マニエール』、抜群のスピード感を誇るマーシャル・ジルクスと、抑揚と陰影に富んだプレイで名高い中川英二郎の日米2大トロンボニストをフィーチャーした『T・フォー・2』、岡崎正典の美しいソプラノサックスとエリック・ミヤシロのふくよかなフリューゲルホルンが典雅な世界を描きあげる『インフィニティ』という、それぞれに味わいの異なる楽曲が披露されていった。

小曽根真

その中で極めて印象的だったのが小曽根のタッチの豊かさだった。1曲目『Day 1』を華やかな音色で飾ったあとの2曲目『ムール・マニエール』では、バストロンボーンとベースのアンサンブルに合わせたまろやかなタッチを披露した。今回のツアーは、総勢15名のメンバーのほか、コンサートを支える音響や照明、舞台進行のスタッフだけでなく、ヤマハのコンサートグランドピアノ「CFX」とコンサートチューナーの曽我紀之氏も帯同している。ベストの状態に保たれたピアノと、それを知り抜いた小曽根のコラボレーションによって、ピアノの豊かな響きを堪能することができるのも大きな魅力だ。第1部最終曲『ファン&ゲームズ』では、そのピアノMidi機能を活かしたエレクトリックピアノ的なサウンドも登場し、演奏をカラフルに彩った。
ハイブリッドピアノDisklavierの機能を実装したコンサートグランドピアノCFXです(非売品)

小曽根真

起伏に富んだセットリストとエキサイティングなフィナーレ

アルバム『Day 1』の楽曲を中心にして、実力者揃いのメンバーのソロをフィーチャーしながらオーディエンスを楽しませた第1部。それに続く第2部は、さらに多彩な演奏で魅了した。クラシック音楽のような華やかな金管サウンドと濃厚なジャズフィーリングが溶け合う『マイ・ウィーナー・シュニッツェル』、ストリングスを思わせる柔らかなアンサンブルをバックに三木俊雄のテナーが切なげなソロを綴る『オーディナリー・デイズ』、ピアノとベース&リズムで始められたコール&レスポンスがダイナミックなホーンアンサンブルへと連なっていく『スリー・ウィッシズ』と次々に演奏されていく。

小曽根真

小曽根ファンにとって大きな贈りものとなったのが、4曲目に披露された『デヴィエーション』だった。小曽根の最新ピアノ・トリオ・アルバム『TRiNFiNiTY』で初演され、アルバム『Day 1』でビッグバンド演奏された同曲をソロピアノで織りあげる小曽根。その情感豊かな演奏からは、曲に込められた強い想いと同時に、小曽根のピアノの音色をじっくり味わいたいと願うオーディエンスへの温かな配慮が伝わってきた。そのあとは小曽根の超人気曲『ガッタ・ビー・ハッピー』を披露。この日のフィナーレがエキサイティングに飾られた。
今回のNNHのツアーを終えたあとも、小曽根はソロ演奏やオーケストラとの共演などによるさまざまなコンサートに出演する。2025年12月にはNNHのツアー第2弾も予定されているとのこと。これからも小曽根から目が離せなくなりそうだ。

小曽根真

■小曽根真No Name Horses
20年目のthe Day 1 全国ツアー(第2弾)

2025年
12月10日(水):札幌コンサートホールKitara
12月12日(金):金沢市文化ホール
12月13日(土)~14(日):Bunkamuraオーチャードホール
12月16日(火):兵庫県立芸術文化センター
12月18日(木):熊本県立劇場
12月19日(金):福岡市民ホール
12月20日(土):三原市芸術文化センターポポロ
12月21日(日):滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
No Name Horsesオフィシャルサイト

■IZUMI JAZZ NIGHT 2025 小曽根 真

出演:小曽根真(pf)
日時:2025年5月22日(木) 開場 18:30/開演 19:00
会場:住友生命いずみホール(大阪府)
料金:一般 6,500円、フレンズ 5,800円、U-30 2,000円(税込・全席指定)
詳細はこちら

■小曽根真 スペシャルコンサート solo&trio TRiNFiNiTY

出演:小曽根真(pf)小川晋平(b)きたいくにと(dr)
日時:2025年6月21日(土) 開場 15:15/開演 16:00
会場:日田市民文化会館 パトリア日田 大ホール(大分県)
料金:一般 6,000円、友の会 5,500円、高校生以下 3,000円(税込・全席指定・未就学児入場不可)
詳細はこちら

■春日市ふれあい文化センター開館30周年記念&第25回弥生の里音楽祭
「小曽根真ソロ&デュオ guest 壷阪健登」

出演:小曽根真(pf)壷阪健登(pf)
日時:2025年6月22日(日)開場 15:30/開演 16:00
会場:春日市ふれあい文化センター スプリングホール(福岡県)
料金:一般 6,000円、友の会 5,400円(税込・全席指定・未就学児入場不可)
詳細はこちら

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:下野竜也さん「自分を楽しく表現できれば、誰でも『音で遊ぶ人』になれると思います」

4817views

穐吉敏子 Solo Live

音楽ライターの眼

93歳の世界的ジャズピアニストが日本のファンを大いに魅了!/穐吉敏子 Solo Live

5947views

長く使い続けてもらえる電子ドラムを目指して──電子ドラム「DTX6K5-MUPS」

楽器探訪 Anothertake

長く使い続けてもらえる電子ドラムを目指して──電子ドラム「DTX6K5-MUPS」

1229views

ヤマハ製アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぶ、ヤマハ製アコースティックギター

22887views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

10619views

地代所悠/コントラバスヒーロー

オトノ仕事人

「コントラバスヒーロー」として音楽と三浦半島の魅力を伝える/音楽で活躍するご当地ヒーローの仕事

2669views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

10290views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

12398views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

14524views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

6867views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

9357views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28118views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

19815views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

16766views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#042 BGMに芸術性と大衆性を共存させた確信犯的カヴァー集~ウェス・モンゴメリー『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』編

1239views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

舞台上の小さなボックスから指揮者や歌手に大きな安心を届ける/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(後編)

15575views

ONLYesterday

われら音遊人

われら音遊人:愛するカーペンターズをプレイヤーとして再現

2217views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

15163views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

17115views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

6141views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

51605views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

11178views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34874views