今月の音遊人
今月の音遊人:武田真治さん「人生を変えた、忌野清志郎さんとの出会い」
17204views
自分の音を探し求めた日々、それがあったからこそ今は演奏が楽しくて仕方ない/小沼ようすけインタビュー
7935views
2016.2.19
2016年の小沼ようすけは、新境地を開拓するライブで幕を開けた。日本を代表するフラメンコカンタオール&ギターの石塚隆充と、ベース弦を張った変則チューニングギターを操る美声の持ち主のカイペティートの、3ギター2ボイスというユニークなトリオに付けられた名前は、「Allende(アジェンデ)」。大航海時代によく使われた言葉で、“向こう側”という意味があるそうだ。それぞれの音で新しい世界に漕ぎ出そうとする思いが込められたネーミングでもある。
「リズムや曲のテイストの違いさえ共有して楽しめるというか、それぞれの心の奥底にあるものが音楽となって表に出てくる瞬間の素晴らしさを感じられたライブでした」
二晩だけの予定だった「Allende」のステージは2016年3月末に再演が決まった。そのリハーサルの様子が小沼のウェブサイトで公開されているが、その映像から伝わってくる“真っ直ぐな楽しさ”は必見必聴と言えるだろう。
再演と言えば、2016年1月末から東京~大阪間6箇所で行われた“炎のオルガントリオ”も強力だった。かつてオハイオの神童と呼ばれたジャズオルガンプレイヤーのトニー・モナコと、ハービー・ハンコック・バンドに10年在籍したドラマー、ジーン・ジャクソン。彼らと小沼のトリオが結成されたのは2011年の東京。その久々の復活に当たって今回は新曲も用意した。そんなパワフルなスタートを切った今年は、これまでにない何かが起こる期待に満ちていると小沼は言う。
「いろいろ経験し、考え、年齢的なことも含めて一巡して、ジャズに対して改めて気付けたことがありました」
「一巡」というキーワードは、小沼が40歳を間近に迎えた2014年10月にリリースされた4年ぶりのアルバム、『GNJ』のライナーノーツにも登場している。
「そもそもアメリカで生まれたジャズを日本人の僕が表現しきれるんだろうか?本当の自分の音って何だろう?それをずっと探していたんです。20代の頃はアメリカやヨーロッパの音楽を吸収することに費やしました。ところが30代になった途端、僕が求めていたのは好きなミュージシャンの音なのかと悩み始めてしまって……。フレーズじゃないんです。ポロンと鳴らした瞬間に出る響きが僕ならではの音であること。それが欲しくて仕方なかった」
自分の音を探すために海のそばで暮らし、サーフィンなどをして自然からの刺激を求めたが、それでも100パーセントに満たなかったのが30代だったという。
「でも、それも無駄じゃなかった。というのは、日常の中で自然にあふれてくる音が僕らしい音だと悟ることができたから。思い出したんです、ジャズにハマった最初の楽しさを。すべて進行形なんですよね。過去を振り返らず今だけを表現する。人も歳を重ねれば枯れてくるけれど、その瞬間のジャズを奏でればいいと気づけた。だから今は演奏が楽しくて仕方ない。たとえば15年前のデビューアルバムの曲を弾いても、表面的な音は当時と違っても自分の内側でワクワクする感じは何も変わっていないんですよね」と小沼は語る。
2016年3月初旬には、ジャズやポップスの世界で活躍する渥美幸裕とのギター対決ライブが4公演あり、中旬には都内のジャズクラブで、松本圭使(ピアノ)、小牧良平(ベース)、田中徳崇(ドラム)を迎えた、2016年初のカルテットライブ『小沼ようすけセッション』が控えている。その翌日には帯広に飛び『プレミアムジャズナイト』に参加。その翌晩は厚木でソロライブと、全国を飛び回る多彩かつ意欲的な演奏活動に臨む。
「やる気満々です!そんな言葉、なかなか言えないですよね(笑)。でも、そういう思いが自然と沸いてくる今が本当に楽しい。今年はおもしろくなりますよ」