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2025年7月、ブラック・サバス最後のライヴが実現。“出演しない”アーティストを検証する
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2025.3.21
tagged: 音楽ライターの眼, ブラック・サバス, Back To The Beginning
1970年に『黒い安息日』でアルバム・デビュー、ヘヴィ・メタルのオリジネイターとして崇拝されるブラック・サバスが、いよいよその歴史に幕を下ろす。2025年7月5日、バンドの原点である英国バーミンガムの“ヴィラ・パーク”で行われる“ザ・ファイナル・ショー「Back To The Beginning」”は、ひとつの時代のターニング・ポイントといえるロック史の重要イベントだ。
ブラック・サバスのオリジナル・メンバー4人であるオジー・オズボーン、トニー・アイオミ、ギーザー・バトラー、ビル・ワードが集結するのに加えて、ヘヴィ・メタルと呼ばれる音楽を代表するアーティスト達が総登場。メタリカ、ガンズ&ローゼズ、スレイヤー、トゥール、パンテラ、グラミー賞のメタル部門を獲得したGOJIRAなどの豪華ラインアップに加えて、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)がミュージカル・ディレクターを務め、ビリー・コーガン(スマッシング・パンプキンズ)、ジョナサン・デイヴィス(KoЯn)、サミー・ヘイガーらが個人参加することが発表されている。
これだけ大勢のアーティストが出演すること、またオジーの体調が優れないことから、ブラック・サバスがフル・コンサートを行うことはなさそう。オジー自身が自分の出番は「little bits and pieces あちこち、ちょっとずつ」と語っており、メンバー達との共演も交えながら、ゲスト・アーティスト達によるオールスター・セレブレーションという、1992年のフレディ・マーキュリー・トリビュート・コンサートに近い形式になるのでは?……という予想もできる。
これだけ凄い顔ぶれのライヴ・イベントとなると、むしろ気になるのが“出演しない”アーティストだったりする。本記事では彼らとブラック・サバスとの関係、彼らが出演しない理由について、憶測を交えながら考察してみたい。
●アイアン・メイデン
世界最大のヘヴィ・メタル・バンドのひとつであるアイアン・メイデンだが、シンガーのブルース・ディッキンスンとオジーの奥方でマネージャーのシャロン・オズボーンとの不仲により、出演は期待できなさそうだ。
アイアン・メイデンは2005年、北米“オズフェス”フェスティバル・ツアーに参加したが、両者は最初からソリが合わなかった。特にブルースはライヴ中のMCで「俺たちはただの再結成バンドじゃない」「リアリティTVに出てまで注目されたくない」(オジー一家が出演した『オズボーンズ』に言及したもの)などと発言。それに対してシャロンは観客に命じて生卵などをステージ上のブルースに投げつけさせ、またメイデンのライヴ中に電源を引っこ抜くなどの報復をしている。
なおメイデンは“オズフェス”終了直後、イギリスの“レディング・フェスティバル”のステージで『オズの魔法使い』挿入歌『鐘を鳴らせ!悪い魔女は死んだ』を歌っていたが、これは明らかにシャロンへのアテコスリだった。
シャロンは近年でもブルースへの批判を口にしており、和解は難しいかも知れない。
●ボブ・デイズリー
オジーのソロ転向後の作品で歌詞を書いていたのがボブ・デイズリーだった。だが彼は正当なクレジットをされておらず、印税を巡って裁判になったこともあって、声はかからず。本人は海外メディアで「まあ、呼ばれないと思っていたよ」と発言している。
ただ嬉しいのは、同じく印税関係で揉めていたギタリスト、ジェイク・E・リーの出演が発表されたこと。2024年、犬の散歩中に銃で撃たれてファンを心配させた彼だが、元気な姿を見せて欲しいところだ。
●ディープ・パープル
ブラック・サバスにはイアン・ギランとグレン・ヒューズが加入したことがあり、デヴィッド・カヴァーデイルも噂に上るなど、ディープ・パープルとは縁浅からぬ関係がある。だが今回のイベントにはパープル勢は影も形もない。これは公な声明があったわけではないが、出演ラインアップはサバスの遺伝子を受け継ぐアーティストを揃えるため、デビューが自分たちより早いパープルは除外したのではあるまいか。
●ジューダス・プリースト
同郷バーミンガムの出身で、共演や交流も行ってきたジューダス・プリーストはもちろんヘヴィ・メタルの巨人のひとつであり、その名前がないことを意外に思ったファンもいるのではないだろうか。
これは思い切り妄想だが、プリーストはサプライズ・ゲストとしてスタンバイしているのではないだろうか。たとえば当日、オジーが何らかの理由で出られなくなったとしたら、ファンは落胆するだろう。そこにプリーストが登場したら、観衆は凄まじいヒートアップを見せるに違いない。
これはまったくあり得ない話ではなく、似たような例がこれまで2回ある。1992年、オジーの“引退コンサート”のサポートをサバスが務めることになったとき、当時のシンガーだったロニー・ジェイムズ・ディオが「オジーの前座なんてやってられるか!」と脱退。プリーストのロブ・ハルフォードが助っ人参加したことがあった。また2009年、日本の“DOWNLOAD JAPAN”フェスに出演する予定だったオジーが直前で出演をキャンセルしたため、急遽プリーストがヘッドライナーとして出演している。
たとえサバスの4人が無事であっても、MCのジェイソン・モモアが「ジューダス・プリーストです!」と紹介したら、会場は大歓声で爆発するであろう。
なおバンドの元メンバー、K.K.ダウニングの参加は既に発表されている。
●ハイ・オン・ファイアー
ゴースト、ライヴァル・サンズ、スリープ・トークンなど、(比較的)新しめのアーティストも参戦する当日のライヴだが、サバスから多大な影響を受けているドゥーム・メタルやストーナー・ロック系のバンドはまったく名前が挙がっていない。その多くがアンダーグラウンド規模で知名度が低いという厳然たる事実はあるものの、ほとんどパクリ?……とすら思わせるオマージュぶりも見せているドゥーム勢が完全無視というのも寂しい。
もし、そんな中から代表バンドをひとつ選ぶとしたら、ハイ・オン・ファイアーだろうか。彼らはアップテンポのスラッシーな曲もあり、純然たるドゥームとは一線を画するものの、ギタリストのマット・パイクは大のサバス・フリーク。彼のもうひとつのバンド、スリープではEP『Vol.2』ジャケットで『ブラック・サバスVol.4』トリビュート、またEP『Iommic Life』や楽曲『Giza Butler』などのタイトルもサバスのメンバー名から取ったものだ。グラミー受賞経験もあり、“格”としてはまったく不足がないだろう。
近年ポピュラー音楽の主流から外れつつあるともいわれるヘヴィ・メタルだが、このイベントへの参加アーティストを見るとまだまだその時代が終わっていないことが判る。これからもサバスの遺伝子は受け継がれ、大轟音と共に鳴り響き続けるだろう。
開催日:2025年7月5日(土)
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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