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今月の音遊人:谷村新司さん「音がない世界から新たな作品が生まれる」
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リッチー・コッツェン、シンディ・ローパー、ガンダムを1本の線で繋いだ『哀 戦士・Z×R』
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2025.5.13
tagged: 音楽ライターの眼, リッチー・コッツェン
2025年4月下旬、シンディ・ローパーが来日公演を行った。“Girls Just Wanna Have Fun FAREWELL TOUR”と題されたこのツアーはタイトル通り、日本のファンにさよならを告げる最後の大規模なツアー。日本武道館3回公演が行われるなど、その人気の高さを窺わせた。
その1か月少し後、6月上旬にはリッチー・コッツェンの来日公演も行われる。Mr. BIGやポイズン、ザ・ワイナリー・ドッグス、そしてソロ・アーティストとして活躍する彼はそのギターとヴォーカルで絶大な支持を獲得。先日“サウンドガーデン再結成。シンガーはリッチー・コッツェン?”という噂が流れたときも「まあ、あるかもな……」と思わせた実力者だ(根拠のないデマだったようだ)。
そして現在、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』が放映中だ。オリジナル・シリーズの世界観を一部踏襲しながら、新解釈と現代のアニメーション技術でリ・ボーンさせた本作は年季の入ったファンはもちろん、初めてガンダム・ワールドに入門する層からも高評価を得ている。
2025年の春に行われるという以外まったく共通項のないこの3つのイベントだが、実は1枚のアルバムによって繋がれている。それが『哀 戦士・Z×R』だ。
2006年に発表されたこのアルバムは、リッチー・コッツェンが『機動戦士ガンダム』シリーズの楽曲をロック・カヴァーするという企画盤だ。初代TVシリーズの主題歌『翔べ!ガンダム』や『哀 戦士』『水の星へ愛をこめて』『Metamorphoze〜メタモルフォーゼ〜』などが大胆にハード・ロックにアレンジされている。リッチー自らが英語ヴォーカルで歌い、ギターのテクニカルなリード・プレイもふんだんにフィーチュアされるなど、アニソン・ファンも納得、独立したロック・アルバムとしてもクオリティの高い作品だった。
アルバム発売にあわせてリッチーは2006年3月、ザ・ローリング・ストーンズ日本公演のオープニング・アクトを務めており、事情を知らずに会場を訪れたストーンズ・ファンは、何だかリッチー・コッツェンが英語で『哀 戦士』を歌っているというシュールな光景を目撃することになった。
アルバムのプロモーションのためにリッチーは幾つかのインタビューを受けており、筆者(山﨑)も彼と話すことが出来た。
「志を持ちながら、強く激しく戦い、美しくも悲しく散った、戦士たち。(中略)このアルバムを、愛する者のために宇宙で戦死した彼らに捧げたい」とCDブックレットには記されている。「幾多の時代を駆け抜ける、白いモビルスーツの伝説を、ロックミュージックを通して世界に伝えたいと思った」という発言について聞いてみると、リッチーは微妙なスマイルを浮かべて「いやー日本のアニメはストーリーやキャラクターが複雑で興味深いねー」とか言っているので、ガチオタ勢ではなさそうなことが判明した。
(一応初代シリーズは「DVDで見た」そうである)
筆者はガンダム直撃世代ではあるのだが、日本に住んでいなかったこともあり、第1話をビデオで見た程度。「親父にもぶたれたことないのに!」「悲しいけどこれ戦争なのよね」などのセリフも情報として知っているだけなので、ディープな話をされたらどうしよう……と心配したのだが、杞憂に終わった。
ガンダムのことをよく知らず、実はすごく興味があるわけでもない2人が、それを口に出すことなくガンダムトークをするという不思議なインタビューだったが、なんとか約1時間の対話が成立してホッとした思い出がある。トリッキーなギター・プレイも難なくこなすリッチーだが、真っ正面からインタビューに応じる誠実さに、好感を抱いた経験だった。
実はこの『哀 戦士・Z×R』にはシンディ・ローパーが参加することになっていた。どうやら彼女は『哀 戦士』を歌う予定だったらしく、CDブックレットに封入されたインサート・シートにはこう記されている。
「私のバージョンの哀 戦士を完成させたかった……でもガンダムを知れば知るほど、その奥の深さ、複雑さが分かってしまったんです。本当にもっともっと時間が必要でした」
彼女の参加は各メディアで大々的に告知されたものでもなく、知らずにCDを買った人は何故かシンディ・ローパーに謝られてビックリするという不思議な経験をすることになった。
彼女は「この次に出るガンダムのCDにはぜひにと思っています」と誓ってくれているが、第2弾が出ることはなく、彼女の歌うガンダム・ソングを聴く機会は失われてしまった。
なおリッチーはアルバムにシンディが参加予定だったこと自体を知らず、「えっ本当?」と驚いていたことを付け加えておこう。
リッチーは2009年にはタマホームのTVCMソングでディープ・パープルの『紫の炎』を歌うなど、日本市場向けの仕事もこなしながら、ソロのシンガー/ギタリスト/ソングライターとして活動。近年ではアイアン・メイデンのエイドリアン・スミスとの双頭プロジェクト、スミス/コッツェンでアルバム『ブラック・ライト/ホワイト・ノイズ』(2025)を発表、2025年6月のソロとしての来日公演にも期待が高まる。
リッチー・コッツェン、シンディ・ローパー、ガンダムという3つの異なった個性が、日本企画の1本の線で繋がれた『哀 戦士・Z×R』。それから19年の月日を経て、彼らが再び日本で相まみえようとしている(本当に相まみえるわけではないが)。彼らもまたこの戦争で共に戦ってきた戦士なのだ。
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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