Web音遊人(みゅーじん)

日経スペシャル 招待席

歌舞伎とエレクトーンのコラボレーションで描く「女の情念」

エレクトーンの可能性を探求し、オペラやアコースティック楽器との協奏曲など、さまざまなジャンルのアーティストと積極的に共演してきたエレクトーン奏者・清水のりこが、今回新たに挑んだのは、歌舞伎とのコラボレーションだ。BSジャパンのテレビ番組『日経スペシャル 招待席~五代目 中村雀右衛門 女方の神髄~』の収録において、2016年3月に女方の大名跡を襲名した五代目 中村雀右衛門と『切支丹道成寺(きりしたんどうじょうじ)』を競演した。戦国武将柴田勝家の娘、朝子が切支丹の修道士となったかつての恋人への想いから狂気を発する“女性の情念”を描いた作品だ。

通常の演奏会では、演奏だけでなく編曲もこなす。だが、今回は「しっかりと積み重ねた邦楽の知識がないままで編曲をするのは、作品に対しても失礼になると考えました。そこで、邦楽器にも精通され、邦楽と西洋音楽のコラボレーション作品を多く作曲されていている作編曲家のMAKI code“M”さんに編曲をお願いしました」
今回清水は、再構成された楽譜からサウンドを作り、演奏することだけに力を注いだという。
平井澄子の作曲による原曲は、古典の中にあって、当時は革新的な楽曲。鍵盤楽器の音はもちろん、管楽器から打楽器、そして横笛やといった邦楽器の音まで、多彩な音色を自在に出せるエレクトーンの特性を発揮できる曲と言える。とはいえ、ただ必要な音色を作るだけでは、聴く人の心を動かす演奏にはなり得ないと清水は話す。

エレクトーン奏者・清水のりこさん

エレクトーン奏者・清水のりこ

「これまで、さまざまなジャンルの方々と共演させていただいた中で、電子楽器であっても、人が演奏するその息づかいを大切にしながら音楽作りすることで、共演者や周囲の皆さまに受け入れられるのだと感じてきました。特に今回の作品では、後半部で感情を赤裸々に表すことがとても大事だと思っています。まず、作品についての勉強をしてストーリーを自分の体の中に入れる。音にはすべて意味がありますから、この鐘はどういうシーンで鳴る音なのか、このフレーズは喜びのフレーズであるのか、または哀しみなのか。エレクトーンでドラマを作ることを心掛けてきました」
実は、今回の演奏では当初、ミスのないきれいな演奏をと考えていた。ところが、監修者から「情念とか狂気を表すのはきれいごとではない。あなたの感性のまま、情熱をぶつけてください」とアドバイスされたという。「以前、三枝成彰さん作曲のオペラ『Jr.バタフライ』で演奏させていただいたのですが、戦争に向かう狂気の場面で三枝さんがオーケストラに同じことを強く切望されていたことを思いだしました」

「最初は邦楽らしさを出そうと、横笛やなど、それぞれの楽器の音やピッチ、揺れなどを意識して、本物の音に近づけようとしていました。ですが、それよりも流れや場面を意識することを重視しました。音色的にもっと懲りたいと思う部分もありましたが、前半は『上等な武家の娘』のイメージを求められていたので、原曲に手を入れず、シンプルに「朝子像」に合う音楽を目指しました。音色では特異なことはせずに、どの場面でも朝子に寄り添い、または突き放し、最後はその死を見守るマリアのような気持ちで演奏しました。皆様にはぜひ、すべての場面をとおして“あふれでる感情の表現”を聴いていただきたいと思っています。特に後半で女の情念を表現する部分。打楽器から入る流れや、鍵盤を揺らすテクニックなど、エレクトーンならではの演奏も楽しんでいただきたいですね。今回の共演を経験して、エレクトーンの可能性がより広がったと感じています」

日経スペシャル 招待席

(写真左)清水のりこさん(写真中)五代目 中村雀右衛門さん(写真右)MCの観月ありささん

通常は邦楽合奏に打楽器、ビブラフォン、オルガンなどの大編成に唄が入る演目を、一台のエレクトーンで表現。共演者の女方、五代目 中村雀右衛門からも「やさしい音色で音に表情があった」と評された見事なコラボレーションをぜひ、お楽しみください。
この模様は、BSジャパン『日経スペシャル 招待席~五代目 中村雀右衛門 女方の神髄~』で2016年3月13日(日)14:00~15:30分放送。

■BSジャパン『日経スペシャル 招待席~五代目 中村雀右衛門 女方の神髄~』

放送日時:2016年3月13日(日)14:00~15:30
オフィシャルサイトはこちら

 

特集

前橋汀子

今月の音遊人

今月の音遊人:前橋汀子さん「同じ曲を何千回、何万回演奏しても、つねに新しい発見や見え方があるのです」

3235views

音楽ライターの眼

連載21[ジャズ事始め]空前のジャズ・ブームの陰で“新しい発見”を求める同志が出逢っていた

2462views

YEV104PRO/YEV105PRO

楽器探訪 Anothertake

音色と響きを磨き上げたステージ仕様の上位モデル、 エレクトリックバイオリン「YEV104PRO/YEV105PRO」

2095views

ヴェノーヴァ

楽器のあれこれQ&A

気軽に始められる新しい管楽器 Venova™(ヴェノーヴァ)の魅力

3036views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

9750views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7732views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

9007views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3484views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12449views

Red Pumps BIGBAND

われら音遊人

われら音遊人:出自がさまざまなメンバーと、誰もが楽しめる音楽をビッグバンドで

1258views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8333views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31990views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

12162views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20623views

音楽ライターの眼

連載18[多様性とジャズ]政治的なテーマを直截に音楽へ注ぎ込んだミンガスの遺志

2128views

オトノ仕事人

芸術をとおして社会にイノベーションを起こす/インクルーシブアーツ研究の仕事

7194views

われら音遊人

われら音遊人:大学時代の仲間と再結成大人が楽しむカントリー・ポップ

4797views

楽器探訪 Anothertake

新開発の音響システムが表現力のカナメ。管楽器の可能性を広げる「デジタルサックス」

4202views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

9007views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5991views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

1706views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

7278views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10749views