今月の音遊人
今月の音遊人:石川さゆりさん「誰もが“音遊人”であってほしいですし、音楽を自由に遊べる日々や生活環境であればいいなと思います」
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今月の音遊人:實川風さん「音楽は過ぎ去る時間を特別な非日常に変えるパワーを持っていると思います」
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2023.11.1
※記事は2023年11月1日に公開後、11月14日に更新いたしました。
2015年パリで開催されたロン・ティボー・クレスパン国際コンクールで第3位(1位なし)を受賞し、翌年イタリアで行われたカラーリョ国際ピアノコンクールで第1位を受賞した實川風は、ベートーヴェンから邦人作品の新作初演まで、幅広い活動を展開している。そんな彼に4つの質問を行い、ピアニストとして、また人間としての実像に迫ってみた。
小・中学校の教師をしている父親がクラシック音楽好きで、家ではCDやレコードの音が自然と耳に入る環境でした。オーケストラが特に好きで、チャイコフスキーやドヴォルザーク、マーラーなどをよく聴いていて、割りばしを指揮棒に見立ててオーディオに向かって振っているような父親でした。
小学生の頃、マーラーの交響曲第6番『悲劇的』の出だしがカッコよくて大好きで、その部分を抜き出して繰り返し、繰り返し聴いていました。最終的には目覚ましのアラームにセットして、その音楽で起床していました(笑)。 ピアノ曲では、アリシア・デ・ラローチャの弾くファリャの『火祭りの踊り』や、エミール・ギレリスの弾く、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番『月光』の第3楽章も好きでした。単純に言うと、テンポの速い曲が好きだったのですね。
大学生の頃によく聴いていたのは、オネゲルの『クリスマス・カンタータ』です。世界中のさまざまな聖歌が登場する、感動的な作品です。
音楽の魅力を言葉で表現するのはとても難しいですね。
何をしていても時間は過ぎ去っていきますが、音楽に浸る時間だけは、特別な非日常なものに変えるパワーを持っていると思います。
最初の質問の答えと被りますが、わたしが幼少期に聴いていたのはオーケストラでした。ですから、ピアノを弾く時にも、いろいろな楽器が立体的に重なるようなオーケストラのサウンドをイメージして弾いています。音や音楽には背景や前景があり、そこにコントラストや遠近感が感じられる立体的な音世界を追求することにおもしろさがあるのかな、と感じています。さらに、人の心がそこに反映されて、最後は聴く人の心にまで作用するのが、音楽の本当に素晴らしい部分だと思います。
「音遊人」という言葉、いい言葉ですよね。音楽家にとって、理想の状態を表していると思います。コンサートで「遊べる」次元にまで行けるのが理想ですが、そのために、結局はしっかりとした練習と準備をするしかないのだと思います。特にピアノの場合、同時にあつかう声部が多いですから、音楽を叩き込めば叩き込むほど、今までは聴こえてこなかった音のラインが、ステージ上で思わぬ瞬間に聴こえてくることがあります。そういう瞬間に、少し「音遊人」に近づけたような感覚があります。
現実の世界からしばし異なる空間に身を置くことができる、ということでしょうか。
お客様には、音からエネルギーをもらって、元気になって帰路に着いていただけたらと思っています。人間は生きていたら日常の生活でいろいろな気持ちを抱えると思うのですが、コンサートで音楽の世界に浸って、少しでもポジティブな気持ちになっていただけたら、演奏家にとってこれ以上のことはありません。また、現在まで弾かれてきた大家の作品は、心を動かすパワーを持つことを歴史が証明しています。それだけに、演奏家は謙虚にその音楽のパワーを最大限引き出して、聴く人に届ける責任がありますよね。
プログラミングは、アカデミックに時代や国でまとまるようにするのも良いですが、わたし自身は、意外な組み合わせや、続けて弾くことでお互いにプラスに活かし合う組み合わせというのを探るように意識しています。
音楽は「これがゴール」という完成形がないので、これからの自分の中の感じ方の変化も楽しみながら、日々精進あるのみです!
實川風〔じつかわ・かおる〕
2015年、パリのシャンゼリゼ劇場で行われたロン・ティボー・クレスパン国際コンクールにて、第3位(1位なし)、最優秀リサイタル賞、最優秀新曲演奏賞を受賞。2016年、イタリアで行われたカラーリョ国際ピアノコンクールにて第1位・聴衆賞を受賞。現在、日本の若手を代表するピアニストの一人として、国内外での演奏活動を広げる。
ソリストとしてバッハとベートーヴェンを核とした本格的なレパートリーに取り組む一方、邦人作品の新作初演などでも作曲家より信頼を寄せられている。海外の音楽祭への招待には、上海音楽祭、ソウル国際音楽祭、ノアン・ショパンナイト(フランス)・アルソノーレ(オーストリア)などがある。
東京藝術大学附属高校・東京藝術大学を首席で卒業し、同大学大学院(修士課程)修了。山田千代子、御木本澄子、多 美智子、江口玲の各氏に師事。グラーツ国立音楽大学ポスト課程を修了。2023年3月にはキングレコードより最新アルバム『Kaoru Jitsukawa plays BACH』をリリースした。
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