Web音遊人(みゅーじん)

没後25年、アイルランドのギター・ヒーロー、ロリー・ギャラガーの魂の炎は燃え続ける

アイルランド出身の熱血ギター野郎、ロリー・ギャラガーが世界的な再評価を受けている。

1995年6月14日、ロリーが47歳で亡くなってから、2020年で25年の月日が経とうとする。だが、その音楽は今もなお世界の音楽ファンの心を揺さぶり続ける。

ロリーの音楽は、虚飾と無縁のものだった。ボロボロに塗装の剥げたフェンダー・ストラトキャスターから弾き出されるブルース、ロックンロール、フォークなど、ありったけの魂を込めた生のサウンド。「いれずみの女」では旅するサーカスの曲馬団、「フィルビー」ではソ連に寝返った英国諜報部高官、「コンチネンタル・オプ」ではレイモンド・チャンドラーの私立探偵、「キッド・グラヴズ」では八百長の負け役を命じられたボクサーなど、男の哀感が描かれてきた。そのファッションもチェックのシャツとジーンズ、作業靴という、洒落っ気のない素朴なものだった。

そんなロリーが絶大な支持を得たのは、そのライヴの凄さによるものだった。1960年代、彼の率いるバンド、テイストは、クリームやジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの後継バンドとして絶賛された。ソロに転向した彼のワールド・ツアーは行く先々で熱狂を呼び、ライヴ・アルバム『ライヴ・イン・ヨーロッパ』(1972)はヒットを記録している。母国アイルランドやイギリス、ヨーロッパ、アメリカなどに加えて、ロリーは日本でも人気を誇ってきた。彼は1974年・1975年・1977年・1991年と来日公演を行っている。

ロリーは自分のファンに対し、常に誠実だった。1975年1月、ザ・ローリング・ストーンズのオーディションを受けるべくオランダのロッテルダムに向かった彼は数日ジャムを行ったが、「ジャパン・ツアーがあるから」という理由で途中離脱。“ストーンズを蹴って日本のファンを選んだ”と、日本で男を上げることになった。

1980年代には一時人気が低迷、作品リリースのペースも落ちて、中古レコード店の“ロック:ラ行”のコーナーでロビン・トロワー、ロイ・ブキャナンと共に常連となってしまっていたが、1991年、久々の日本公演では白熱のステージ・パフォーマンスを見せつけた。いよいよ完全復活に向けた 狼煙のろし が上がる!……と期待させながら、彼はこの時点で体調を崩しており、「また日本に戻ってくるよ!」とステージで宣言しながら、その約束は果たされることがなかった。彼は肝臓移植手術に伴う合併症でこの世を去っている。

それから25年、ロリーの音楽が愛され続け、新たなファンを生んでいるのは、愛情と敬意に溢れるリリース・プログラムに負うところが少なくない。1970年、彼がソロ・アーティストに転向してから、マネージャーを務めてきたのは実弟のドナル・ギャラガーだ。ジミ・ヘンドリックスやブルース・リーの例を挙げるまでもなく、人気アーティストが亡くなると、生前の音源や映像を掘り起こした作品が発表され、その中には質の高くないものも含まれる。だがロリーの場合、血の繋がったファミリーがしっかり管理しているせいか、その没後にリリースされた作品はいずれも最高品質のものばかりだ。

近年ではドナルの息子(ロリーの甥)ダニエル・ギャラガーがロリー関連の作品を監修、彼のブルース・サイドの集大成といえる『Blues』(2019)、1977年の未発表ライヴ音源を集めた『Check Shirt Wizard: Live In ’77』(2020)など、未発表音源を中心としたアルバムを世に出している。どちらも長年のオールド・ファンから初めて彼の音楽に触れるリスナーまで納得の、時に血湧き肉躍り、時に涙なしには聴けない、ハートを揺さぶる作品だ。

(ちなみに『Blues』は“チェス・レコーズ”、『Check Shirt Wizard』は“カデット・コンセプト・レコーズ”という、ブルースの名門レーベルからのリリース扱いというさりげない小ネタも、ファンをニヤリとさせるものだ)

そして日本でもロリーの音楽と人生のセレブレーションとして2020年6月下旬、書籍『ロリー・ギャラガー アイリッシュ・ロックの原像』が刊行される。バイオグラフィ、ディスコグラフィからロリーへの生前のインタビュー、関係者への最新インタビュー、ギター・コレクションなど、多角的に迫る1冊は日本の音楽ファンの心に、ロリーの魂の炎をもうひとたび燃え上がらせることになるだろう。

■ブックインフォメーション

『ロリー・ギャラガー アイリッシュ・ロックの原像』

発売元:シンコーミュージック
発売日:2020年6月30日
料金:2,600円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:亀田誠治さん「音楽は『人と人をつなぐ魔法』。いまこそ、その力が発揮されるべきだと思います」

7753views

セイント・ヴィンセント

音楽ライターの眼

セイント・ヴィンセントが切り開くギター・ミュージックの明日

728views

楽器探訪 Anothertake

存在感がありながら他の楽器となじむシンフォニックなサウンドが光る、Xeno(ゼノ)トロンボーンの最上位モデル

5457views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

13466views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4818views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

弦楽器の“健康診断”から“治療”、健康アドバイスまで/弦楽器の調整や修理をする職人(前編)

14631views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13763views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6941views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10190views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

5035views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8269views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25414views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

9226views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

14008views

藤田真央

音楽ライターの眼

クララ・ハスキルの覇者が魅せる古典派作品の世界/藤田真央 ピアノ・リサイタル

4879views

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

オトノ仕事人

一期一会の音楽を生み出すガイド役/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

15208views

ゲッゲロゾリステン

われら音遊人

われら音遊人:“ルールを作らない”ことが楽しく音楽を続ける秘訣

1685views

楽器探訪 Anothertake

ナチュラルな響きと多彩な機能で電子ドラムの可能性を広げる、新たなフラッグシップモデルDTX10/DTX8シリーズ

4603views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11850views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

5506views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

54161views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7563views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25414views