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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#067 楽器のように声でジャズを奏でた歌姫の代表作~アニタ・オデイ『アニタ・シングス・ザ・モスト』編

ジャズのみならず音楽のドキュメンタリー映画としても名高い『真夏の夜のジャズ』。1958年に米・ロードアイランド州ニューポートで開催された第5回ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのステージを記録したこのフィルムに、ひときわ華を添えているのがアニタ・オデイだと、ボクは思っています。

シカゴのクラブで歌っていたところ、評判を聞きつけたジーン・クルーパによってスカウトされ、彼の楽団の専属歌手の座を得ます。その後、ウディ・ハーマン楽団、スタン・ケントン楽団といった名だたるビッグバンドの専属となり、“ケントン・ガールズ”のひとりと称されるまでの、スウィングを象徴する“歌姫”となったのが1940年代後半のこと。

1950年代になると、プロデューサーでコンサート・プロモーターのノーマン・グランツが設立したノーグラン・レコードやヴァーヴ・レコードから次々とアルバムをリリース。

本作はアニタ・オデイがレーベルの看板アーティストのひとりとして活躍していた時期の、代表作とされる1枚です。ジャズ・シンガーとしてのエッセンスを詰め込んだ内容について、解読してみましょう。


‘S Wonderful / They Can’t Take That Away From Me

アルバム概要

1957年に米・ロサンゼルスのスタジオでレコーディングされた作品です。

オリジナルはLP盤(A面5曲B面6曲全11曲)でリリースされています。CD化は同曲数同曲順。

メンバーは、ヴォーカルがアニタ・オデイ、ピアノがオスカー・ピーターソン、ギターがハーブ・エリス、ベースがレイ・ブラウン、ドラムスがミルト・ホランドとジョン・プール。

収録曲は、すべてジャズ・スタンダード・ナンバーのカヴァーです。

“名盤”の理由

バックを務めるのは、ドラムレスのピアノ・トリオとして“右に出る者はいない”と(現在も)言われているオスカー・ピーターソン・トリオ。ドラムスの参加は、リズムの輪郭を強めるためといった、ヴォーカル・アルバムであることを意識した采配であると思われます。

“ヴォーカル・アルバムであることを意識”するというのは、器楽的と評価されていたアニタ・オデイの歌い方を際立たせながら、猛烈にグルーヴするオスカー・ピーターソン(・トリオ)と“対決”するイメージに陥らないようにとの配慮があった──と言えばいいでしょうか。

とはいえ、オスカー・ピーターソン(・トリオ)は暴れまくっているのですが、アニタ・オデイもまったく臆することなく暴れまくっていて、それが本作を“名盤”にしたと言えるでしょう。

いま聴くべきポイント

アニタ・オデイは、アフリカン・アメリカンのフィーリングを身につけた最初の白人シンガーだと言われています。

そして歌唱テクニックもまた、チャーリー・パーカーが一目置くほどの理論と柔軟性に富んだアドリブ(=スキャット)を展開できる腕前でした。

彼女が短い音符を途切れさせずに連ねる独特の歌唱法を体得したのは、子どものころに受けた喉の手術のためのロングトーンとヴィブラートをうまく操れなかったことがきっかけだったそうです。

そうした歌唱法は1940~50年代のビバップとの親和性があり、スウィングを歌うシンガーでありながらビバップのアプローチでバンドと一体になることもできるという、ジャズの二大要素を両立できたところに注目が集まっていたのだと思います。

音程が不安定であるという評価もあるのですが、本作を聴けば、それが彼女ならではのフラットな“アフリカン・アメリカンのフィーリング”を表現したものであることがわかるはずです。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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