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今月の音遊人:上野通明さん「ステージで弾いているときが、とにかく幸せです」
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ジャンルレス時代に対応する多様で豊かな表現力──サイレントチェロ「SVC300シリーズ」
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2026.1.6
実に19年ぶりに登場したサイレントチェロの新作。クラシックからロック・ポップスまで、あらゆる音楽を演奏するチェリストに訴える幅広いサウンドとユーザビリティを備えたモデルとなった。
クラシック音楽の花形楽器のひとつであるチェロ。協奏曲や無伴奏の曲をはじめ、チェロが主役となる作品も多い。加えて、音楽のジャンルレス化が進む近年では、ポップスやロックなどのポピュラー・ミュージックでもチェロが活躍する場が増えている。その象徴ともいえるのが、2010年代を駆け抜けるように活動し、2022年に惜しまれつつ解散した2CELLOSだ。マイケル・ジャクソンやU2といったロック・ポップス界のアイコンたちの楽曲を2本のチェロで縦横無尽にカヴァーする彼らは、そのサウンドはもちろんステージ映えも含めて新しい時代の到来を感じさせた。
今回紹介するサイレントチェロ「SVC300シリーズ」の開発において、音作りを担当したヤマハの中山大輔さんは、プライベートでチェロを演奏し、学生時代には先生に就いて習い、オーケストラにも所属していたが、ちょうどその頃デビューした2CELLOSに衝撃を受けたのだという。
「ロックやポップスを、チェロを使ってこんなにもカッコよく演奏できるんだ、と思いました。それで友だちと2人で耳コピして真似して遊んでいたんですけど、当時は機材や音作りについての知識がほとんどなく、アコースティックのチェロだけでは味わえない表現の可能性があることを知りました」
当時からロックやポップスをスタイリッシュに演奏できる楽器が欲しい、と願っていた中山さんにとって、「SVC300シリーズ」の開発は、いわば念願のプロジェクトだったに違いない。もうひとり、今回話を伺ったのは設計を担当した宮崎交司さん。チェロのみならず、これまでサイレント弦楽器の開発に広く携わってきた宮崎さんは、20年近くにわたって現役だった完成度の高い先代モデルをいかに超えるかという過去への“挑戦”を「SVC300シリーズ」を開発するテーマに据えた。

本体の設計と全体のディレクションを担当した宮崎交司さん(左)と、音作りを担当した中山大輔さん(右)。
そのほか電気設計やソフトウェア開発などを担当するメンバーをコアとして、「SVC300シリーズ」は開発された。
そして、開発に協力したのはチェリストの柏木広樹氏。1980年代からアコースティック楽器を使ったインストゥルメンタル・バンドG-CLEFへの参加やソロ活動を通じて、ジャンルレスな音楽を作り続けている彼が「SVC300シリーズ」の開発に関わったのはいわば必然だったかもしれない。
今回の「SVC300シリーズ」のラインアップは、ステージ映えするシャープなデザインとエッジの効いた音色を持つ「SVC300C」と、アコースティックチェロのシルエットをイメージさせるフォルムと温かな音色が特徴の「SVC300F」の2種類。前者はロックやポップスの現場で本領を発揮し、後者はクラシック音楽の奏者が容易に持ち替えられるようにデザインされている。

どちらも幅広い音楽ジャンルで使えるが、「SVC300C」はロックやポップス、「SVC300F」はクラシックの奏者に特におすすめしたい。「SVC300C」は、ひざ当てを折りたたむことができるのでスマートに持ち運べる。
両者の違いは見た目だけにとどまらず、サウンド面でも異なるチューニングがなされているという。サウンド面の中核を担うのは、サイレントチェロに初めて採用された「SRTパワードシステム」だ。
「アコースティックチェロが持つ胴の共鳴をシミュレートして、ピックアップが拾った音、つまり自分が演奏した音に対して、自然な響きとしてリアルタイムで付加していくのが『SRTパワードシステム』です。先代モデルでも、楽器の構造が生み出す音の作り込みは、かなり高い完成度で行われています。その土台の上に胴共鳴をシミュレートした音も加えることで、より豊かな表現ができるようになりました」(宮崎さん)
ピックアップからの音と胴共鳴をシミュレートした音は本体側面のコントロールパネルでブレンドすることができ、例えばアコースティックな響きにしたい場合はシミュレートの音を多めに、逆にタイトな音が欲しいときにはピックアップの音を多めにするなどの調整が可能になった。
「SVC300用にチューニングされたリバーブやイコライザーも搭載しており、コントロールパネル上で『使える音』を作り込むことができるのもポイント。加えて、2種類の異なるサウンドタイプを搭載しました。ひとつは演奏者のポジションで聴こえる音、もうひとつはマイクを立てて録音した音、つまり客席やCDで聴くような第三者の位置で聴こえる音と思っていただけたらわかりやすいと思います」(宮崎さん)
「SVC300C」と「SVC300F」はボディ形状が異なるので、それぞれのピックアップが拾う響きも当然異なる。そのため、胴共鳴のシミュレーションもそれぞれの性格に合うように作り込まれているのが大きな特徴といえる。
「どちらのモデルでも幅広い音楽ジャンルに対応できるのですが、振り切った音作りをした場合に『SVC300C』はロック・ポップスに合った音が出せるように、『SVC300F』はクラシック向きに味付けをしています。どちらも演奏表現や演奏ジャンルを広げるお手伝いができるモデルになったと思いますので、チェロを演奏するすべての方に幅広くおすすめしたいです」(宮崎さん)
自身もチェロを演奏する中山さんにとって、「SVC300シリーズ」は「2CELLOSをコピーしていた学生時代に『こんな楽器があったら……』と思い描いていた通りの楽器にできました」と胸を張れる楽器に仕上がった。その開発に欠かせなかったのが、柏木広樹氏の存在だ。
「柏木さんは音作りの具体的なアドバイスはもちろんのこと、使う視点からどうしたらもっと良い楽器になるか、全体の方向性を決める力添えをしてくださいました。例えば、搭載するサウンドタイプの数について悩んでいた際は、『個性の感じやすさ』の観点から音色を絞る提案で、意思決定の背中を押してくださったことがとても印象に残っています」(宮崎さん)
「音に対しては、あらゆるポイントで『この音域の鳴りを良くしたいから、1.2キロヘルツを3デシベル上げてみよう』などと、具体的な数値でこと細かく伝えてくれたのがとても有難かったです。音楽家でありつつ技術者的な視点も持っていることに驚きました」(中山さん)
また、中山さんは柏木氏とのやりとりを通して、自分がチェロを習っていた当時のことを思い出したという。
「私の先生は『君の演奏をもっと良くすることに時間を使うから、褒めることはしないよ』とよく言っていました。柏木さんも『いい楽器を作るためなのだから、褒めたって仕方がない』と言って、プロならではの視点からさまざまなリクエストを出してくれました。それに応えるのはとても大変でしたが、結果的にすべてのポイントをクリアすることができました。開発期間中は、レッスンの時間にひたすらダメ出しをされながらより良い演奏を目指して頑張っていた青春時代を思い出すようで、清々しく楽しい時間でした」(中山さん)
サウンド面のみならず、ヘッドホンを装着して演奏する際、極力演奏の妨げにならないように両モデルとも機械式のペグを搭載したり、塗装も塗りつぶしではなく木目が見えるように仕上げて質感をアップさせるなど(アンティークダークブラウン)、細かい部分にも配慮されている。カラーリングに関しては、よりステージ映えするパールホワイトも採用されているのが、ロックなどの現場が多い奏者には喜ばれるポイントだろう。
19年ぶりのモデルチェンジによって、“挑戦の結晶”とも呼べる進化を遂げたサイレントチェロを、ぜひ店頭で触って試してもらいたい。

カラーバリエーションは、クラシカルな雰囲気のアンティークダークブラウンに加え、きらびやかな美しさが魅力のパールホワイトもラインアップ。※パールホワイトは特別生産のため、納期を4~5か月いただきます。
サイレントチェロの静音性を保ちつつ、演奏感や響きがアコースティック楽器に限りなく近い楽器です。宅録からステージまで、あらゆるシーンで活躍できる“表現のためのチェロ”を創り上げました。エレクトリック楽器としての可能性を広げるサイレントチェロの新スタンダードです。
文/ 山﨑隆一
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tagged: 楽器探訪, サイレントチェロ, SVC300C, SVC300F
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