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楽器と同じ高品質な木材を採用。待望の密閉型ハイエンドヘッドホン「YH-C3000」
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2025.11.5
tagged: ヘッドホン, アルモダイナミックドライバー, YH-C3000
「オルソダイナミックドライバー」を採用したヤマハのフラッグシップヘッドホン「YH-5000SE」が世界中で高く評価された。一方で、「開放型だけではなく密閉型も欲しい」という声が上がった。開放型ヘッドホンはその名の通りハウジング側からも音が漏れる構造だ。このため、屋外や公共スペースなどでの使用では周囲に配慮する必要が出てくる。その点、密閉型ヘッドホンは再生している音楽が外に漏れない構造になっており、屋外などでも気兼ねなく使うことができる。実際、現在人気の高いヘッドホンやイヤホンの多くは密閉型で、気軽にどこでも使えることが支持されている。
そんなニーズに応えるべく、約10年間にわたって開発を続けてきた新しいドライバーを採用したヘッドホン「YH-C3000」が登場した。
「YH-C3000」は、長円形の密閉型ハウジングを備えており、ステップレススライダーや2レイヤーヘッドバンドには「YH-5000SE」と同じ部品を使用し、快適な装着性を実現した。軽量性にもこだわり、密閉型ながらも重量は330gに抑えている。また、製品には3.5mmアンバランスケーブルと6.3mm変換アダプター、クリーニングクロス、キャリーケースが付属するが、別売のオプションとして、「YH-5000SE」用のバランスケーブル「HBC-SC020」「HXC-SC020」などが使用でき、バランス接続も楽しめる。

YH-C3000
「YH-C3000」の木製ハウジングには、ヤマハのピアノなどにも使われる高品質なビーチ材(ブナ材)を採用。軽量で剛性が高く、クセの少ない自然な響きが特徴だという。楽器ブランドとしてさまざまな木材を調達・加工してきたヤマハならではの強みを生かし、楽器用の木材を扱ってきた関連会社にて選定した上質な木材を採用している。ビーチ材のハウジングは手作業で削り、磨き、塗装の工程を重ねた光沢感のあるブラック仕上げとなっている。
ここで気になるのは、なぜピアノブラック仕上げと呼ばないのか?という点。ヤマハのピアノなどにも使われる木材を採用しながら、ピアノブラック仕上げではない。商品イメージとしてはピアノブラック仕上げと呼称したいところではないだろうか。回答は明瞭だ。ピアノブラック仕上げではハウジングが硬くなりすぎてしまうから。ヤマハはグランドピアノの製造も行っているだけに、ピアノブラック仕上げと呼ぶには厳格な規定がある。例えば、塗装の工程を何回以上行うかなども決まっている。ピアノブラック仕上げをすると、皮膜が厚くなり硬くなってしまい、せっかくの木製ハウジングの良さを損なってしまうのだそうだ。
スピーカーにはピアノブラック仕上げのモデルもあると思う人もいるが、スピーカーのエンクロージャーは振動板の面積に対してサイズも大きいので、塗装によって硬くなっても木材の良さを活かせる。しかし、ヘッドホンのハウジングはサイズが小さいため、理想の音質の実現が難しいというわけだ。ウレタン塗装といえども、仕上げは楽器で使用されるのと同じ工程で手作業によって美しく仕上げられているのは同じ。素人目にはピアノブラック仕上げと呼んでもいいとさえ思えるが、あえてそう呼ばないのも、ヤマハならではのこだわりだ。

「YH-C3000」のハウジングは、木材の調達・加工から塗装・研磨に至るまで、長年のモノづくりで培った知識と技術を注ぎ込んでつくられている。
ドライバーの振動板には、新開発の「アルモダイナミックドライバー」を採用。これはイタリアの音楽用語で「調和」を意味する「Armonia」から着想を得た言葉だそうだ。「Armonia」は、英語の「harmony」 に由来し、その語源はギリシャ語の「Harmonia」だ。ちなみに「オルソダイナミック」の「オルソ」も語源は「まっすぐな、正しい」という意味のギリシャ語であり、どちらもヤマハの高性能ドライバーとして親和性のある名称にしている。
振動板は、ザイロン(「NS-5000」など高級スピーカーに採用される音速と内部損失※に優れた化学繊維)、紙、樹脂を混抄した素材で樹脂による軽量発泡層を挟んだような3層構造になっている。これは単一の素材だけでは実現できない硬さ、内部損失、軽さを両立するための手法だ。例えば樹脂は軽量で内部損失もあるが、剛性が足りない。応答性は優れるが、解像度が出しにくい。金属は剛性が高いが重く、内部損失も少ない。解像度は高いが、応答性に劣る。これまでは、硬さ、内部損失、軽さをバランスよく実現するために、理想的な特性を持つ素材を選んでいたが、単一素材では限界がある。そのため、特性の異なる3層を1つの振動板として組み合わせることで、理想的なバランスを追求したものが「アルモダイナミックドライバー」の振動板素材というわけだ。
※内部損失:振動エネルギーを素早く吸収して納めること。これが小さいと素材特有の音が出てしまいやすく、振動して音を出す素材としては使いにくい。

理想的な音質を実現した、ヤマハ独自の「アルモダイナミックドライバー」。①プロテクター ②振動板 ③ボイスコイル ④フレーム ⑤ダンパー ⑥純鉄ポールピース ⑦マグネット ⑧ヨーク ⑨ダンパー。
ドライバーとしては、ポールピースに純鉄を選定している。一般的な鉄よりも純度が高く、磁力を逃がすことなくユニットを駆動できるという。応答性を高めるための選択だ。こうして、長く研究開発を続けてきた新開発の振動板を採用し、楽器メーカーならではのハウジング作りを組み合わせたヤマハらしい密閉型ヘッドホンが誕生した。
密閉型ということもありハウジング周りの見た目は「YH-5000SE」や「YH-4000」とは印象が異なるが、ヘッドバンドやアーム部が共通のため、似通った印象もある。装着も軽い感触でしっかりとホールドされる安定感など、共通したものを感じる。

2層構造のヘッドバンドと滑らかなステップレススライダー(左)。新開発した専用イヤーパッドを付属。耳に触れる部分には肌触りの良さと優れた気密性を兼ね備えた質感の高い国産シルクプロテインレザーを、クッション材には低反発素材を採用。ディープレッドのインナーメッシュが黒鏡面のハウジングと引き立て合う。
その音の印象はまず、密閉型らしい音像の厚みやエネルギー感だ。「YH-5000SE」や「YH-4000」も平面磁界型としてはエネルギー感がしっかりと出るタイプだと思うが、密閉型(音が外に漏れない=音のエネルギーの利用効率が高い)の音の厚みやエネルギー感では確かな違いを感じる。いつも聴くクラシック曲では、楽器の音色の正確さ、テンポ感も忠実度の高いもので音楽の持つダイナミズムや抑揚がしっかりと出る。しかもエネルギーたっぷりの音なので、フォルティッシモの高揚感やダイナミックな音の勢いを強く感じる。「YH-5000SE」や「YH-4000」を試したあとだとよりリズミカルでパワフルな音という印象だ。
低音もかなりパワフルだが、その感触は引き締まっている。量感も豊かだが、ふくらみすぎるようなことはない。むしろタイトで深い低音と感じる人も少なくないだろう。大太鼓がドンと鳴ったときの立ち上がりの反応の良さも早いし、素早い連打もキビキビと正確に鳴る。
感心したのが、マッシブな音像の力強さばかりでなく、音場の広がりや空気感といった繊細な表現でも、丁寧に描いていること。密閉型でも繊細な表現を得意とするヘッドホンは少なくないが、力強さか繊細さかという感じでどちらかに偏ることは多い。だが、「YH-C3000」だと力強さが印象的ではあるものの、音場の広がりや微妙な音の余韻、演奏のニュアンスなどもなかなか豊かに描いていることがわかる。このバランスの良さは見事だ。
米津玄師の『Plazma』を聴くと、ボーカルの声の厚みがしっかりと出て聴き応えも十分。ふくらみ気味なベースやドラムのリズムも切れ味がよく、パワフルでありながら弾むようなグルーヴ感がしっかりと伝わる。LiSAの『残酷な夜に輝け』でも、パワフルに歌い上げるときと、せつせつと語るように歌うときの表情の変化がよく出るので、この曲の持ち味であるダイナミックな曲調の変化が豊かに味わえる。
本機は平面磁界型とは違う密閉・ダイナミック型の良さを存分に引き出しつつ、しかも密閉型では難しかったきめ細やかな表現も追求したものだと感じる。音にあまり色づけをしない傾向やリズムの正確さはHiFi調とも思えるし、ディテール再現も十分だがあまり辛口になりすぎずに、音楽そのものに没頭できる情感や表現力を持つ点は、リスニング用途で使いたい人にも満足度は高いだろう。熟成されたバランスの良さが印象的だ。
価格は30万5800円(希望小売価格/税込)で「YH-5000SE」や「YH-4000」よりも抑えられているし、型番からしても「YH-C3000」で下位モデルのような印象を受けてしまいがちだが、実際に音を聴くと立派に密閉型の最上位モデルと実感できる。密閉型ヘッドホンが好きだという人だけでなく、ぜひとも一度聴いてみてほしいモデルだ。

ヤマハ独自のアルモダイナミックドライバーとビーチ材ハウジングを採用した、密閉型ハイエンドヘッドホン。
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文/ 鳥居一豊
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