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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#74 “天才”のきらめきを余すところなく収めたモダンジャズの象徴~バド・パウエル『ザ・シーン・チェンジズ』編
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2025.12.4
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?, バド・パウエル
CDという媒体が普及してからのことだから1980年代後半あたりだと思うのですが、『ジャズ入門』と題した“CDブック”なるものが相次いで発売されていた時期がありました。
それまでも『ジャズ入門』と題した書籍や雑誌の別冊的なムックはありましたが、“CDブック”が画期的だったのは、文字や写真などによる解説を読むだけでなく、曲も一緒に聴けるようになっている点。
早速、ボクもいくつか類書を購入して、いわゆる“ジャズのお勉強”に励んだわけですが、その“常連”のひとつに、本作収録の『クレオパトラの夢』がありました。
こうしたバイアスは、必然的に「ジャズの敷居を高くしていた(つまり、この曲を理解できないとジャズを聴く資格がないという無言の圧力をかけていた)のではないか」と思うところもいまとなってはあるのですが、改めて『クレオパトラの夢』を聴くと、「やっぱりスゴいなぁ」と感心することしきり。
さて、この“クレオパトラ敷居問題”をくぐり抜けた先で、アルバムを再考してみましょうか。
1958年に米ニュージャージー州ハッケンサックのヴァン・ゲルダー・スタジオでレコーディングされた作品です。
オリジナルはLP盤(A面5曲B面4曲の全9曲)でリリースされています。同曲数同曲順や別テイクを追加した10曲でCD化されているほか、カセットテープ版やMP3音源でのリリースもあります。
メンバーは、ピアノがバド・パウエル、ベースがポール・チェンバース、ドラムスがアート・テイラーの、ピアノ・トリオというフォーマット。
収録曲は、全曲がバド・パウエルのオリジナルです。
冒頭で触れたように、本作を“名盤”たらしめているのは『クレオパトラの夢』が収録されているからといっても過言ではないでしょう。
バド・パウエルの才能を高く評価したブルーノート・レコードでは、“ジ・アメイジング”を冠して1952年から彼のリーダー作をシリーズで世に送り出していました。
5作目となる本作でそのシリーズの制作は中断、1966年の彼の死によって再開することは叶わなくなってしまいました。
1924年に米ニューヨークのハーレムで生まれたバド・パウエルは、祖父がギタリスト、父がピアニスト、兄がトランペッター(弟はピアニスト)という家系に育ち、5歳からクラシック・ピアノを学びます。
10歳で当時流行していたスウィングに興味をもち、15歳になると兄のバンドに参加してプロとしてのキャリアをスタート。
20歳になるころには、スウィング・オーケストラのメンバーとして生計を立てる一方で、セロニアス・モンクとの出逢いをきっかけにビバップへ傾倒。
このころから次代の担い手として期待されるようになるのですが、アルコールやドラッグ依存による影響で演奏活動が中断することも重なってしまいます。
入院加療や繰り返すトラブルの合間を縫うようにして、ビバップからハード・バップへの展開を先導してきたのが、1950年代のバド・パウエルでした。
ブルーノート・レコードで先進的な作品を制作してきた彼が、1950年代の終わりにリリースすることになった本作の背景には、言ってみれば彼の実験的なビバップ・アプローチの集大成的な意味と、ポピュラー化が急速に進むマーケットに融合させようという(プロデュース側の)意図があったのではないでしょうか。
そのバランスがとれていたからこそ、本作は“名盤”として広くファンたちに愛されるようになったのだと思うのです。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ/富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook
文/ 富澤えいち
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