今月の音遊人
今月の音遊人:上原彩子さん「家族ができてから、忙しいけれど気分的に余裕をもって音楽と向き合えるようになりました」
8609views

“中世ファンタジー・ドゥーム・メタル”キャッスル・ラット大躍進の2026年
この記事は4分で読めます
115views
2026.1.22
tagged: 音楽ライターの眼, キャッスル・ラット, The Bestiary
1970年代にヘヴィ・メタルの礎を作り、象徴であり続けたオジー・オズボーンが2025年に亡くなったことは、世界の音楽シーンに大きな衝撃をもたらした。かつて全米をはじめとする世界各国のヒット・チャート上位に君臨したヘヴィ・メタルもその“帝王”の死と共に終焉を迎えるか?……とファンを心配させたが、ベテランから若手まで多くのアーティストの活躍により、シーンは変わらぬ活況を呈している。そんな中でブライテスト・ホープのひとつとして注目されているのがキャッスル・ラットだ。
“メディーヴァル(中世)ファンタジー(幻想)ドゥーム・メタル”と呼ばれる彼ら。女性シンガーの“ザ・ラット・クイーン”ことライリー・ピンカートンのヴォーカルとリズム・ギターを軸に、キャンドルマスやソリチュード・イターナス、ホワイル・ヘヴン・ウェプトにも通じるダークでドラマチックな音楽性と、フランク・フラゼッタのイラストレーションを彷彿とさせるヒロイック・ファンタジー的な世界観を提示している。
アシッド・キングやサブローザ、ルシファー、ブルース・ピルズなど、女声ドゥーム・メタルは決して珍しい存在ではないものの、現実に立脚したバンドが多かった。そんな中、キャッスル・ラットはイマジネーションをかき立てるエピック・ドゥーム叙事詩で浮上してきたのだ。
キャッスル・ラットが結成したのは2019年、ニューヨークのブルックリン地区でのこと。現代アメリカのポピュラー・カルチャーの発信源といわれるブルックリンからダウナーなメタルと異世界コスプレで登場した彼らは異彩を放っていたが一周回ってオシャレさんからも人気を博し、デビュー・シングル『Feed The Dream』は50万回の再生を記録。2024年4月には初のフルレンス・アルバム『Into The Realm』を発表、さらに知名度を上げている。
ザ・ラット・クイーンのパワフルでエモーショナルな歌声は鎖帷子ブラと腰布のコスチューム、ステージ上で振るう勇者の剣と共に音楽との相乗効果を起こし、爆発的なエネルギーを生み出す。それに加わるのがザ・カウント(ギター/本名フランコ・ヴィットーレ)、ザ・プレイグ・ドクター(ベース/本名ロニー・ランツォッタIII。現在は二代目チャーリー・ラデル)、ジ・オール・シーイング・ドルイド(ドラムス/本名ジョシュ・ストルミック)という布陣だ。フィラデルフィアの廃教会でわずか2日半をかけてレコーディングされた『Into The Realm』はメタル・マニア層から高い評価を得て、北米各地のクラブ・サーキット、そしてヨーロッパ各地で開催された“デザートフェスト”でのステージによって、彼らの名前は急激にドゥーム・コミュニティに知れ渡るようになった。彼らのライヴではザ・ラット・クイーンに対する悪の“ザ・ラット・リーパレス”(=死神女ネズミ)が登場、戦いを繰り広げることも人気を呼んでいる。
興味深いのは、彼らが比較対象とされるバンドの幅広さだ。メンバー達は「ジューダス・プリーストやアイアン・メイデンから影響を受けた」と語っているが、海外のレビュー記事などではブラック・サバスを筆頭に(この世のあらゆるメタル・バンドが彼らの影響下にあるといえるが)ウィッチファインダー・ジェネラル、ペンタグラム、マニラ・ロードといった“通好み”のアーティストが引き合いに出されている。さらにザ・ラット・クイーンの歌声はジェファーソン・エアプレインのグレイス・スリックとも比較されるなど、あたかもリスナーの数だけキャッスル・ラットというバンドが存在するかのようだ。
そして1年。海外で2025年9月に発表されたセカンド・アルバムが『The Bestiary』である。
約1年半ぶりの新作である本作について、バンドはこのような声明を出している。
「『The Bestiary』は野獣をコンセプトとした書物であり、忘れられし世界の神秘的な生き物たちが綴られている。彼らの末裔を集め、保護するのが“魔術師”だ。それぞれの野獣、そして“魔術師”自身の教訓の物語は、トラディショナル・ヘヴィ・メタルの楽曲と呪文のパワーによって紡がれる」
ストーリーで繋がれてはいないものの、本作の多くの曲は神話上の怪物や人物を題材としている。アルバムの最初と最後を『Phoenix I』『同II』(=不死鳥)で挟み、『Wolf I』『同II』(=狼)『Wizard』(=魔術師)『Unicorn』(=一角獣)などが次々と登場、あたかも“幻獣百科”のようだ。それぞれの楽曲がキャラクターを生かしており、『Dragon』(=ドラゴン)の怒濤の破壊力や『Serene』(=セイレーン)の浮遊感を伴うヴォイスなどは音楽とコンセプトが見事に一体化している。
本作のプロデューサー、ランドール・ダンはサンO)))やBoris、サーストン・ムーア、ウルヴズ・イン・ザ・スローンルームなどを手がけ、ビョークのリミックスも行ってきたことで知られる。彼の生み出す“スタジオで作られたヘヴィネス”でない肉体的な重量感がアルバムに迫力をもたらす。
なお『The Bestiary』の制作費はクラウドファンディングで募り、キャンペーン開始からたった37分で目標金額を達成。リリース後には“ローリング・ストーン”誌の2025年間ベスト・アルバムの11位に選ばれ、エクストリーム・メタル専門誌“デシベル”の表紙に抜擢されるなど、2作目にしてその人気を確立したといっていい。日本においてもトラディショナルなメタル・ファンから新しいもの好きのリスナーまで、さまざまな層から支持を得ている。“メディーヴァル・ファンタジー・ドゥーム・メタル”が2026年、どこまで音楽シーンを揺さぶるか。キャッスル・ラットのさらなる躍進に期待したい。

発売元:Blues Funeral Recordings
現在発売中
価格:2,890円(税込)
詳細はこちら
公式レーベル・サイト
文/ 山崎智之
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
tagged: 音楽ライターの眼, キャッスル・ラット, The Bestiary
ヤマハ音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!