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今月の音遊人:大塚 愛さん「私にとって音は生き物。すべての音が動いています」
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16人の専門家が語るクラシック・コンサートの舞台裏/書籍『新 クラシック・コンサート制作の基礎知識』
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2025.12.22
tagged: ブックレビュー, 新 クラシック・コンサート制作の基礎知識, クラシック, コンサート
ソロリサイタルからアンサンブル、オーケストラ、オペラ、バレエまで、さまざまなステージが出会いと感動を届けるクラシック・コンサート。その本番を迎えるまでにはどのようなステップがあるのだろう。普段は見えないコンサート制作の裏側を知ることができる書籍を紹介しよう。
華やぐ気分を演出したり、癒しのひとときを提供したり。クラシックのステージは夢の舞台を創出する。しかし本番に至るまでには、マーケティング、企画、制作、広報・宣伝、アーティスト・マネジメントを含む公演運営など、数え切れないほどの仕事が存在する。そして、そのノウハウは長年の現場経験を積まなければ学べないものだ。
その基礎を学べるようにまとめられたのが『新 クラシック・コンサート制作の基礎知識』だ。コンサート制作に関わるあらゆる仕事の知見が一冊に濃縮されている。これは、2013年に発刊されて話題となった書の改定版で、新版には、AIをはじめとするIT技術の発展、環境問題やジェンダーへの意識の高まり、パンデミックや大災害への対応など、急速に発展・変化した社会環境が反映されている。コロナ禍で数多くのコンサートが中止や延期になったことは記憶に新しく、世界で起こるさまざまな変化への即応力が求められることがよくわかった。
本書で注目すべきは、執筆者16人の顔ぶれ。全員が日本を代表するホールやマネジメント企業、演奏団体、教育・研究、さらにはデザインや報道といった多彩な分野でリーダーシップをとる専門家たちだ。経験に基づく記述の一つひとつには圧倒的な説得力があり、「音楽の素晴らしさを届ける縁の下の力持ち」として、強い信念を持って音楽と向き合っている姿勢が伝わってくる。
身近なところでは、例えばコンサートの企画。そもそも企画とはどういうことなのかの概論から、企画に伴う実務、いつまでに何をすべきかの流れやスケジュールも、フローチャートなどを使ってわかりやすく示している。企画というと「ひらめき」のように思いがちだが、こうして体系的にまとめられたものを読むと、いかに多角的な視点や背景、理由づけが重要であるかがわかる。また、何を企画するかによって手順や必要事項が大きく異なることも納得できる。
実務面では、契約書の雛形や来日オーケストラの公演手配書、オペラ公演の予算項目表などの書式が、応用できるようなシートの形で掲載されているのも参考になる。その項目を見るだけでも、舞台裏にどれほどの動きがあるのかが想像できる。また、伝えたい情報を効果的に表現するデザイン手法も、実例を挙げて紹介されているので、すぐに活用できそうだ。
公演マーケティングという発想
もうひとつ、マーケティングという視点からの示唆も。「クラシック音楽は質の高い公演を行っていれば理解されるという姿勢では、市場にあふれる大量のコンテンツから取り残されていく恐れがある」と二瓶純一氏(株式会社ジャパン・アーツ代表取締役社長)。そして、「コンサートを持続性のあるコンテンツとして経済的にも成功させる宣伝面のはたらきと、芸術的な価値や成果を伝える広報面のはたらきが、マーケティングの目的である」とも綴られている。
また喜多弘悦氏(株式会社ザ・シンフォニーホール取締役ゼネラルマネージャー、音楽監督)は、「都市の一極集中が進むなか、地方のホール運営やマーケティングは大きな転換期を迎えている」と指摘。「重要なのは、顧客(来場者)を創造することで、そのためには新しいチャレンジが求められる」と論じている。表現方法や広め方、社会とのかかわり方を現代社会にフィットするようにマネジメントするという側面も求められるという。時にはクラシック音楽の枠にとらわれ過ぎずに、柔軟な発想をもつことも大事なのかもしれない。
アーティストと聴衆をつなぐクラシック・コンサート制作の仕事には多様な側面があり、それぞれに重い役割がある。音楽仲間とコンサートを企画する際にも、本書にあるような視点をベースに持っておくと、企画者も来場者も音楽の素晴らしさやコンサートの価値を実感し、より充実したコンサートを生み出せるのではないだろうか。
通読はもちろん、必要な部分をピックアップして参考にするのもおすすめ。
石田麻子氏(昭和音楽大学教授)は「おわりに」で、「筆者それぞれの語り口から、日本ならではのコンサート制作の特性や、国内外のアーティストたちのパフォーマンスを最大限に発揮する手法を、ぜひ学び取っていただきたい」と綴っている。
コンサート制作の業務に携わる人、将来アートマネジメントの仕事をしたいと考えている学生、自主公演を行う音楽愛好家はもちろん、自分は聴くのが専門というファンも、舞台裏での多くの人たちの動きを知れば、クラシック・コンサートの楽しみが増すはず。多くの音楽ファンにぜひ手に取ってほしい一冊だ。
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
発売日:2025年4月25日
料金(税込):2,750円
詳細はこちら
文/ 芹澤一美
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