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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#77 ジャズ史を塗り替えた名演を気負いなく味わえる“名場面集”~チャーリー・パーカー『チャーリー・パーカー・ストーリー・オン・ダイアルVOL.1』編

ボクの手元にあったのは本作のLP盤だったので、CDがリリースされるのを待ち切れずに手に入れたのだと思います。

それほどチャーリー・パーカーが好きだったのかと問われれば、「いや、そういうわけでもないんだけど……」というのが正直なところ。

要するに、「チャーリー・パーカーを聴かずしてジャズを語るなかれ」といった“呪縛”がまだまだ濃厚だった1980年代半ばにあって、“絶頂期”と評されていた時期の“ジャズの巨人”の代表的な演奏を“つまみ食い”できるコンピレーション・アルバム(編集盤)が出たのですから、飛びついちゃった、というわけ。

では、その“つまみ食い”が現在も通用するのかどうか、再考してみましょう。


The Famous Alto Break

アルバム概要

1946年から47年にかけてアメリカのダイアル・レコードのためにレコーディングされたもののなかから、ピックアップして制作されたコンピレーション・アルバムです。

1946年にダイアル・レコードと1年間の契約を交わしていたチャーリー・パーカーは、合計で89曲を録音。そのなかの数曲がカップリングされSP盤で製品化されました。その音源を1970年代にイギリスのスポット・レコードがLP盤6枚に編集して『チャーリー・パーカー・オン・ダイアル(Vol.1~6)』としてリリース。本作はこれらの音源のうち1946年2月5日、3月28日、7月29日、1947年2月19日と26日の5セッションからピックアップしたものです。

オリジナルは1985年にLP盤(A面10曲B面9曲の全19曲)、翌年にCD盤(同曲数同曲順)がリリースされています。

メンバーは、アルト・サックスがチャーリー・パーカー、トランペットがディジー・ガレスピー/ハワード・マギー/マイルス・デイヴィス、テナー・サックスがラッキー・トンプソン/ワーデル・グレイ、ピアノがドド・マーマロサ/エロール・ガーナー/ジョージ・ハンディ/ジミー・バン、ギターがアーヴィン・ギャリソン/バーニー・ケッセル、ベースがボブ・ケスターソン/レイ・ブラウン/レッド・カレンダー/ヴィック・マクミラン、ドラムスがドン・ラモンド/ハロルド・“ドック”・ウェスト/ロイ・ポーター/スタン・レヴィ、ヴォーカルがアール・コールマンです。

収録曲は、(ジミー・デイヴィス、ロジャー・“ラム”・ラミレス、ジェームズ・シャーマンによる)『ラヴァー・マン』 、(ビリー・リードによる)『ザ・ジプシー』、(マックス・ゴードン、ハリー・ウォーレンによる)『ジス・イズ・オールウェイズ』、(シフティ・ヘンリー、アール・コールマンによる)『ダーク・シャドウズ』、(ハワード・マギーによる)『チアーズ』、ディジー・ガレスピーのオリジナル曲が3曲(一部に共作者あり)のほかはチャーリー・パーカーのオリジナル(一部に共作者あり)で構成されています。

“名盤”の理由

1920年生まれのチャーリー・パーカーは、高校を中退してプロ・ミュージシャンの道へ進み、1939年に地元のカンザス州カンザスシティからニューヨークへ拠点を移すと、自身の音楽的興味を徹底的に追求するようになります。

彼の周囲には、当時流行していたダンスの伴奏としてのポピュラー音楽演奏に明け暮れる毎日に辟易としていた“同志”が集うようになり、そこでのさまざまなアイデア出しや演奏技術の研鑽によって生まれたのが、ビバップでした。

一部のミュージシャンたちのあいだで実験的に展開されているだけだったビバップは次第に評判となり、1944年ごろには表立って興行ができるほど注目を浴びるようになります。

ちょうどそのころ、1942年から続いていたアメリカ音楽家連盟(AFM)のストライキが終結し、加盟するミュージシャンのレコーディングが解禁されます(ビバップの黎明期である1940年代初頭の音源がほとんど残されていないのは、このストライキの影響によるものです)。

当時の最先端と目されたビバップのオリジネーターであるチャーリー・パーカーのもとにはレコーディングのオファーが集中し、片面4~5分のSP盤両面分の音源が一挙に制作されるようになったのが、ちょうど本作の時期だったというわけです。

ダイアル・レコードに残された89曲のなかには、1曲の体をなしていないものや、(麻薬摂取の影響で)体調不良としか思えないヨレヨレの演奏も混じっているのですが、チャーリー・パーカーの絶頂期でもある貴重な時期の“テキスト”として、当初からジャズ・シーンでは別格の扱いを受けていたようです。

その89曲の“文化遺産”をコンパクトに(聴きやすく)まとめた本作は、資料性に鑑賞面での付加価値を与えたことで、チャーリー・パーカーの神話性をさらに高める役割を果たしていると言えるでしょう。

いま聴くべきポイント

本作収録の『ザ・フェイマス・アルト・ブレイク』は、『チュニジアの夜』のファースト・テイクでチャーリー・パーカーのブレイク(間奏)での演奏があまりにもすばらしかったので、その部分だけを切り取ったもの。

また、『ラヴァー・マン』は、アルコールと麻薬を摂取してスタジオに来たチャーリー・パーカーが、ヘロヘロな状態にもかかわらず完奏したエピソードとともに“伝説化した”テイク。

商業音楽として定型化されたジャズのモチーフを使いながら、音楽理論に基づいた即興的なアイデアを瞬時につなぎ合わせることで楽曲を成立させてしまう「パフォーミング・アートの“瞬間”を(たとえバッド・コンディションであっても)記録したもの」として、ダイアル・レコードのセッションはジャズ史に刻まれるべき名演となり、それを収録したアルバムは“名盤”にしかなりえなかったのだと思うのです。

しかし、いくら“貴重”で“希少”な音源であっても、同じ曲の別テイクを何曲も(しかも途中で演奏を止めているものまで)収録している6枚シリーズの“オン・ダイアル”は、あまりにもマニアック……。

その点、LP盤→CD→ストリーミングといった、“現代のコンテンツのパッケージ”として破綻のない本作は、“チャーリー・パーカーというナラティヴ”を改めて考えることのできる極上のテキストになっているのだと思います。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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