Web音遊人(みゅーじん)

リヒテル(Web音遊人)

ピアノの巨匠、リヒテルが東京・上野に甦る!?人工知能と人間が奏でるコンサートを開催

唯一無二の音色で世界を魅了し、20世紀末にこの世を去ったピアノの巨匠、スヴャトスラフ・リヒテル。世界的な名演奏家集団、ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル(以下、シャルーンアンサンブル)。両者による共演は、間違いなく聴衆の心を激しく揺さぶるだろう。もっとも、リヒテルが時を超えて現代にやって来れば、の話だ。
タイムマシンは存在しないが、この歴史的演奏家と現代の名奏者の共演が、2016年5月19日(木)に東京藝術大学奏楽堂で開催される「音舞の調べ~超越する時間と空間~」で実現する。それを可能にしたのは人工知能だ。

囲碁トップ棋士を打ち負かしたり、クイズ番組で優勝したり。最近、何かと話題の人工知能だが、今回シャルーンアンサンブルと共演するのは、ヤマハが開発に取り組んでいる「人工知能演奏システム」。
「私もオーケストラ歴が40年ほどありベースをやっていますが、練習するときにピアノの演奏もあればいいなと思うことがあるんです。だからロボットが人間と一緒に音楽を奏でる世界は憧れであり、夢のひとつでもありました」人工知能の技術と今回の企画を結びつけた、研究開発統括部の田邑元一(たむらもといち)さんはそう話す。技術を開発した前澤陽(まえざわあきら)さんも、技術者であると同時にバイオリンの名手でもあり、音楽への造詣が深い。

ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル,

ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル

今回の試みでは、リヒテルの生前のライブ演奏をもとに、忠実に演奏表現をデータ化した音源を使用。再生には、リヒテルが愛用したヤマハのコンサートグランドピアノの後継機種をベースにした、自動演奏機能搭載アコースティックピアノ「Disklavier™(ディスクラビア)」が使われる。激しいフォルテッシモや疾走するテンポ感など、リヒテル独特の演奏を高い精度で蘇らせるには最適な一台だという。

もちろん、再現を単に自動演奏するだけではない。注目すべきは、人間と人工知能が「対等に」共演することだ。
「人間同士のアンサンブルでは、奏者たちはお互いに相手を見て、音を聴きながら演奏を合わせますよね。それと同じように『人工知能演奏システム』は、アンサンブルの共演者である人間が演奏する『音』と『ジェスチャー』を認識して理解し、次の瞬間の演奏を予測します。これによって、テンポや音のタイミングを合わせて人間の演奏に歩み寄り、協調した自動演奏を行うことができるんです」(田邑さん)
同時に、ピアニストの動きを映像で伝える機能も備えており、人間は演奏音だけでなく、そのジェスチャー見て合わせることが可能。人工知能と人間による息の合ったアンサンブルが展開される。

人工知能演奏システム Web音遊人

人工知能演奏システムの概要

ご存知のように、アンサンブルはひとりでもメンバーが変わると音楽性は変化する。そのため、今回シャルーンアンサンブルと共演することで、元にしたリヒテルの演奏とは異なる新しい音楽が生み出されることになる。

「公演に先立ってベルリンでリハーサルが行われましたが、シャルーンアンサンブルのメンバーはチャレンジングなこの試みを非常に面白がり、東京での『リヒテルとの再会』を心待ちにしているそうです。新しいことに挑戦するときには、新しいことをしたいと思っている人とやることが重要なんだと実感しました」と田邑さん。

ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル,

ベルリンで行われたリハーサルの様子

「演奏するのは、シューベルトのピアノ五重奏曲『鱒』の第4楽章と第5楽章。人間同士が行っている高度なアンサンブルをシステムの機能を駆使してさりげなくステージ上で実現していますが、今回の演奏を単に新しい試みの実験の場にはしたくないんです。私たちが目指しているのは、人工知能のことはいっさい忘れて、唯一無二の音楽を純粋に楽しんでいただくこと。20世紀を代表するピアノの巨匠と世界最高峰のオーケストラのメンバーが息を合わせて共演するわけですから、これの演奏会の価値はすごいものだと思います」(田邑さん)

新しい音楽を生み出し、未来の演奏会のあり方に影響を与えるほど大きな意味を持つ今回の共演。人工知能と人間が協調し、対等に音楽を奏でる時代の幕開けに胸が踊る。
※「人工知能演奏システム」についてはこちらでもご紹介しています。

■ 音舞の調べ~超越する時間と空間~

日時:2016年5月19日(木)19:00開演(18:00開場、 18:15~ プレトーク)
会場:東京藝術大学奏楽堂(大学構内コンサートホール)
入場料:5,000円(全席指定、税込)
公演の詳細・チケットの購入についてはこちら

特集

今月の音遊人 千住真理子さん

今月の音遊人

今月の音遊人:千住真理子さん「いろいろな空間に飛んでいけるのが音楽なのですね」

8204views

音楽ライターの眼

弛まぬ進化を続ける、3人のAKIRAによるスーパーサウンド/AKIRA’S Special Live Vol.5

3266views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカで音楽好きの子どもを育てる

13868views

サクソフォンの選び方と扱い方について

楽器のあれこれQ&A

これからはじめる方必見!サクソフォンの選び方と扱い方について

54624views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

10567views

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

オトノ仕事人

一期一会の音楽を生み出すガイド役/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

14736views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10091views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7243views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

21881views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

1602views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

4703views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24791views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

9920views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

21881views

J.S.バッハの《コーヒー讃歌》

音楽ライターの眼

ああ、コーヒーのおいしいこと。1000回の接吻よりすばらしく、マスカット酒より甘い…… J.S.バッハ《コーヒー・カンタータ》の誕生秘話

7778views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

11800views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

1879views

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

楽器探訪 Anothertake

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

11328views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

6876views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4409views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

15202views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10491views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29148views