今月の音遊人
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オーケストラでわかり合うためには「音楽」という言語で会話することがいちばんの近道です/パーヴォ・ヤルヴィ インタビュー
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2016.10.21
21世紀に入って世界の指揮者&オーケストラ地図が大幅に刷新される中、パーヴォ・ヤルヴィの存在感はますます確かなものとなっている。フランクフルト放送交響楽団やパリ管弦楽団など一流オーケストラのポストを歴任し、一方ではドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンとのCDや来日公演(ベートーヴェン、シューマン、ブラームス)で伝統に縛られない斬新な演奏を聴かせるという活躍ぶり。さらには、2015年9月よりNHK交響楽団の首席指揮者へ就任したことで、日本でも知名度や人気がますます高まった。
「世界的な水準にあるNHK交響楽団から招聘されたことは、とても光栄です。このオーケストラがモーツァルトからマーラーへ至る、ドイツ語圏の音楽を熟知していることは重要ですね。ソニーのRCAレッド・シール・レーベルとのプロジェクトで、彼らとリヒャルト・シュトラウスの作品集を録音しようと思ったのは、まさにドイツ音楽に対する経験と知識をもっていたからなのです。R.シュトラウスの音楽は高いレベルの演奏技術と楽員の積極性が要求されますので、どこのオーケストラでも満足のいく結果が得られるとは限りません。NHK交響楽団と出会えたからこそ、私はR.シュトラウスのシリーズを始められたのです」
さまざまなオーケストラに客演するのは指揮者の運命ともいえるが、指揮台に立って自分をアピールする方法をたずねると、明快な答えを返してくれた。「私もオーケストラのメンバーも音楽という共通の言語をもっているわけですから、それを使わない手はありません。音楽に対して、また個々の曲に対してどういう思いがあるのか、リハーサルではそれをぶつけ合って探るわけです。わかり合うためには音楽で会話をすることがいちばんの近道でしょう」
1962年に北ヨーロッパのエストニア共和国(当時は旧ソビエト連邦の構成国)で生まれ、少年時代に家族そろってアメリカへ移住。本格的に音楽の勉強を始めた。父のネーメ・ヤルヴィ、弟のクリスティアン・ヤルヴィも世界的な指揮者であり、日本のオーケストラにも客演している。
「それぞれ多忙ですからなかなか顔を合わせることができませんけれど、最近はスカイプやSNSという便利なものがあるので、以前より頻繁にコミュニケーションがとれているかもしれません。父は素晴らしい指揮者ですが、アルヴォ・ペルトやエドゥアルド・トゥビン、エリッキ=スヴェン・トゥールといったエストニアの作曲家たちを積極的に紹介していました。私たち兄弟もそれを見ながら育ちましたので、そのミッションを受け継ぎ、可能な限りエストニアの音楽をプログラムに加えています」
たしかにNHK交響楽団のプログラムにもエストニアの音楽が加わり、ヤルヴィ時代の象徴として輝いているようだ。 「音楽監督を務めていたパリ管弦楽団ではペルトの特集を組んだり、新作の委嘱やエストニアへの演奏旅行も行ったりしました。私のルーツを理解してもらうことと同時に、オーケストラにとっても未知の作曲家や音楽と出会えるチャンスを提供しています。エストニアという国の存在を知らない方はまだまだ多いでしょうし、私は言葉を尽くすよりも音楽でエストニアの魂を伝えたいと考えています」
エストニアでは2010年から「パルヌ(Pärnu)音楽祭」を開催。その中には若い世代の音楽家を育てる「ヤルヴィ・アカデミー」も併設されている。音楽を人生のパートナーにする人たちに、どういったアドバイスをしているのだろうか。 「音楽を楽しむ心を忘れてはいけないと思います。これはプロの音楽家や学生に限らず、日常の中で楽しんでいる方も同じでしょう。自分と音楽との良好な関係を見失ってはいけません。長い人生において音楽は素晴らしい友人になってくれるのですから」
今後さらに、パーヴォ・ヤルヴィの名前は日本国内で、また世界各地で称賛の的になるはず。まだこのマエストロのパフォーマンスをご覧になったことがないという方は、ぜひ注目を。
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)NHK交響楽団
『R.シュトラウス:交響詩チクルス』