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今月の音遊人:出口大地さん「命を懸けて全力で取り組んだ先でこそ、純粋に音楽を楽しむ心を忘れてはいけない」
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メンバーは替わっても、その演奏の柱は決して揺るがない/タカーチ弦楽四重奏団
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2019.10.16
tagged: バイオリン, チェロ, タカーチ弦楽四重奏団, ビオラ
アメリカのアンサンブル、タカーチ弦楽四重奏団が来日した。創設は1975年だから、すでに結成44年の大ベテラン。長い歴史の中で積み上げてきた名演奏により、常設室内楽団としていまや世界最高峰の一角を占める。1990年代以降、メンバーの入れ替わりもたびたびあった。最近では2018年にハルミ・ローズが第2バイオリンとして新規加入。カルテットの音楽に新たな風を送り込んでいる。
そんな弦楽四重奏団の演奏を2019年9月26日、ヤマハホールで聴いた。以前、彼らの演奏に接したのは第2バイオリン交代前の2016年で、同じくヤマハホールでのこと。今回のコンサートは、ローズ加入後の新生タカーチを知るのにもってこいの条件となった。
プログラムの前半はハイドンの弦楽四重奏曲第39番ハ長調《鳥》Hob.III:39と、ドヴォルザークの同第12番へ長調《アメリカ》作品96。どちらも鳥の鳴き声を思わせる部分を持つ。面白い取り合わせだ。後半はベートヴェンの同第9番ハ長調《ラズモフスキー第3番》作品59-3。ベートーヴェンはハイドンの確立した弦楽四重奏の世界をひたすら拡張し、ドヴォルザークら後輩世代にとっては同ジャンルの高い壁となって立ちふさがった。演目から見えるのは、そんな音楽史の流れだ。
冒頭のハイドンから、タカーチの4人がめっぽう腕っこきであることが分かる。ただ、その手腕の高さが作品の求めるところと一致しない。人間の対話のスタイルを曲に投影するのが18世紀音楽の身上だが、タカーチの演奏はまるで、大げさすぎる役者の芝居のよう。ウィットの利いた日常会話を思わせる部分でも、大仰なセリフ回しが多い。
そんなケレン味のある弾きぶりも、ドヴォルザーク以降は作品の内実にぴたりとはまった。たとえば《アメリカ》の第4楽章。活発でどこかユーモラスな印象もあるロンドと、ゆったりと懐の深い楽想のエピソードとの対比は、思い切って芝居がかった表現をしたほうがいっそう際立つ。そんな曲の性格に、タカーチの演奏が寄り添う。
後半、ベートーヴェンの《ラズモフスキー第3番》では、4人の個性が作品世界と呼応した。たとえば第2楽章。第1バイオリンのドゥシンベルはさまざまな音色を作り、第2バイオリンのローズは多彩な子音を繰り出す。ビオラのウォルサーが緊張感の移り変わりを表現すれば、チェロのフェイェールは空間の広がりを伸び縮みさせる。
こうした奏者の個性によって、ベートーヴェンのポリフォニーがより緊密なものとして聴こえてくる。フーガ風に進む第4楽章。4人の個性の違いが、各声部の性格を描き分けていく。そのコントラストがくっきりとしているので、作曲家の書いた緊迫した対話劇が真に迫ったものとなる。
こうした立体的な演奏は、タカーチの以前からの特徴のひとつ。メンバーが入れ替わってもなお、彼らの演奏の柱は決して揺るがない。老舗弦楽四重奏団の面目躍如である。
澤谷夏樹〔さわたに・なつき〕
慶應義塾大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了。2003年より音楽評論活動を開始。2007年度柴田南雄音楽評論賞奨励賞受賞。2011年度柴田南雄音楽評論賞本賞受賞。著書に『バッハ大解剖!』(監修・著)、『バッハおもしろ雑学事典』(共著)、『「バッハの素顔」展』(共著)。日本音楽学会会員、 国際ジャーナリスト連盟(IFJ)会員。
文/ 澤谷夏樹
photo/ Ayumi Kakamu
tagged: バイオリン, チェロ, タカーチ弦楽四重奏団, ビオラ
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