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歌からも楽器からも『VOICE』を感じてほしい。アルバム『VOICE』で切り拓いた新境地/柏木広樹インタビュー
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2019.11.22
まるで1枚の絵画や絵葉書、あるいは1本の映像作品を見ているような、もっと言えば、世界中を旅しているような気分にさせてくれる音楽。チェリスト/作曲家として各方面からひっぱりだこの柏木広樹が2年ぶりに発表した新作『VOICE』は、そんな彼の魅力が存分に詰め込まれた力作だ。
柏木といえば、2019年公開された映画『雪の華』で、葉加瀬太郎と共に劇中音楽を手がけたことでも話題を呼んだが、本作の『VOICE』というタイトルは、主人公が働くカフェの名前と同じだったので、ひょっとすると関係があるのか?と聞いてみると「あっ、本当だ!いま気がついた!」とのこと。「でも自分は音楽制作の過程で、映像を何度も何度も、もう世界でいちばん見たといっても過言ではないぐらい見たから、無意識に感化されていたのかもしれません」
柏木がこのタイトルを選んだのは、さまざまな「声」が欲しかったから。チェロはよく「人の声にいちばん近い音を出す楽器」と言われるが、加えて人間の「声」も入れていきたいという想いもあった。アルバム冒頭を飾る『アフリカゆき~ドリトル先生より~』では本作のプロデューサーであるピアニスト・光田健一がコーラスで参加するグループ、ザ・ハモーレ・エ・カンターレがトロピカルな香りのする曲調に彩りを加え、奄美民謡の里アンナが参加した『One』では、彼女の歌と柏木のチェロがスリリングに絡み合う。
「アンナさんとは以前から機会があったら共演させていただきたいな、と思っていました。曲は、歌とチェロがまるでツインボーカルのようにメロディを紡いでいく様子を意識して書いています。エキゾチックなアンナさんの歌と、『ド』が付くぐらいの西洋楽器であるチェロが、なんとも不思議なことにボーダレスに融合していく感じを聴いていただけたら、うれしいですね」
声、そして歌というテーマでレコーディングを続ける中、柏木にはひとつの気づきがあったという。
「確かにチェロは人の声に似ているとか、人の声をたくさん入れたいとか言っていたけれど、レコーディングに参加してくれたみなさんそれぞれのやり方で歌っているんですよね。例えば、ゲストで参加してくれた藤原道山くんは尺八で歌っている。そう気づくと、『VOICE』というタイトルにますます愛着が出てきました」
そして、プロデュースを光田健一に依頼したことも、いい結果をもたらした。柏木と光田は毎年2人で全国をツアーして回るなど、盟友、同志といえる存在だ。
「僕はこれまでずっとセルフ・プロデュースでアルバムを作ってきて、前作では半分ほど光田さんにやってもらったのですが、そのときに、どこか自分が開放される感じがしたんですよね。自分のことを客観的に見る難しさを知ったというか。それで今回は全面的にお願いをしました」
柏木のことをよく知る光田だからこそのアドバイスが、レコーディングでの演奏スタイルを変えるきっかけになったという。
「出来のいいものを残そうと考えると、守りに入ってどんどん心が小さくなっていってしまいますよね。そこを光田さんは見逃さない。自分が『上手くいった!』と思って『これでいこうと思うんだけど』と言うと、必ずダメを出されるんです。『だって、歌ってないじゃない。ライブのときはいつも、もっと歌ってるよね?』って。それで自分も『アルバムというパッケージを作ることではなく、歌い切ることが目標だ、自分は歌手なんだ!』と思って演奏に集中できました。多少、粗かったとしても、歌い切ったほうが音楽的な価値は高い。そう思えるようになったのは前作からですね」
さて、本作には、森沢明夫の小説『エミリの小さな包丁』の世界を音で表現した曲、富山の富美菊酒造のテーマソングであり、藤原道山をフィーチャリングした『羽根屋』をなど、歌心満載の楽曲が並ぶ。そして、冒頭に記したとおり、どの曲もその情景が目に浮かぶようだ。そんな曲たちはどのように作られるのだろうか。
「僕は『絵』がないと曲を作れないんですよ。取材に行って、景色を見て、写真を撮って。富山の富美菊酒造さんでは、実際にお酒造りの工程も見せていただきました。そうして自分の中でイメージを作って、それにメロディをつけていく。写真を見ながら、そのときとは違う季節、違う天気を想像するときもあります。この作業は楽しいのですが、どうしても時間はかかってしまいますね」
来年は『VOICE』リリース記念のライブ、そして光田健一とのデュオ・ライブ「二人旅」で全国をツアーする。もちろん「二人旅」でも『VOICE』からの曲を披露する予定だ。
「リリース記念ライブでは、ゲストに注目です。名古屋と大阪は里アンナさん、東京ではザ・ハモーレ・エ・カンターレ、札幌には藤原道山くんが来てくれます。みなさん1曲だけの出演というわけにはいきませんからね、楽しみにしていてください。歌からも楽器からも『VOICE』を感じられるコンサートなるはずです」
『VOICE』
発売元:株式会社ハッツアンリミテッド
発売日:2019年10月2日
価格:3,000円(税抜)
詳細はこちら
・名古屋:1月16日(木)NAGOYA Blue Note
・大阪:1月21日(火)Billboard Live OSAKA
・東京:3月7日(土)渋谷区文化総合センター 大和田さくらホール
・札幌:3月27日(金) 札幌コンサートホール Kitara 小ホール
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