今月の音遊人
今月の音遊人:ジェイク・シマブクロさん「音のかけらを組み合わせてどんな音楽を生み出せるのか、冒険して探っていくのは楽しい」
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音楽家としてのキャリアを切り拓く!チャンスをつかんだフレッシュな音楽家たちの「成功の秘訣」
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2020.2.6
tagged: ブックレビュー, レッスン手帳, 音楽で生きていく!10人の音楽家と語るこれからのキャリアデザイン, 青柳いづみこ
10人の音楽家による「成功の秘訣」をまとめた『音楽で生きていく!』は、演奏家、指揮者、作曲家、さらには三弦奏者も含む多彩な顔ぶれの若き音楽家たちのインタビュー集だ。日頃は音楽で思いを伝えている表現者たちが、みずからのキャリアという、音楽誌などであまり語ることのないテーマを、飾ることなく率直に語っていて興味深い。
著者は、文筆家としても知られるピアニスト、青柳いずみこ。これまで多くの著名人のインタビューを手がけ、本音を引き出す手腕への評価も高い。同じ音楽家という目線から柔軟に話題を展開し、ときにはまるでアンサンブルのような掛け合いを生みだす。本書のためにすべて行われたインタビューは、豊かな多様性をもつ青柳にしかできない、一歩も二歩も踏み込んだ臨場感と説得力に満ちている。
登場するのは、脇園彩(メゾソプラノ)、川口成彦(フォルテピアノ)、會田瑞樹(打楽器)、佐藤俊介(バイオリン)、田村響(ピアノ)、村松稔之(カウンターテナー)、本條秀慈郎(三弦)、森円花(作曲)、川瀬賢太郎(指揮)、上野星矢(フルート)。20代後半から30代前半のフレッシュな10人だ。
「新しいことや自分が知らないことを知るのを恐れない、知らない世界に飛び込むことをいとわない、何に対しても開いて向き合う」(脇園)
「自分のまわりのものに対して『なぜか』と問いかけ、自分で答えを出す」(佐藤)
「音楽のためにも芸術のためにも、架け橋をどんどん作っていきたい。芸術性を追求する信念を曲げないからこそ、それができる」(森)
こうした力のこもった言葉の数々は、音楽に限らず、将来の選択に迷っている人たちに大きな力と勇気を与えてくれるだろう。
また、固定観念に縛られることなく、独自の発想で音楽家としてのキャリアを切り拓き、躍動する彼らの姿もストレートに描き出される。
19歳でランパル国際フルート・コンクールに優勝した上野星矢は、2018年にみずからサントリーホールを借り、『Music for Children』と銘打ったリサイタルを開催。小学生から大学生まで、ふだんクラシックのコンサートに行く機会のない若者たち1000人を招待した。企業と個人、それぞれのスポンサー枠で賛同者を集めコンサートは大成功。次の年も成功をおさめ、今後は開催都市を広げていく構想だという。誰かに頼るのではなく、「自分でアイディアを出して、自分の強みを出せるスタイルで活動していく」という言葉に、「音楽で生きていく」という強い信念が感じられる。
「音楽は趣味でやったほうがいい」と言われ、一度は挫折を味わいながらも指揮者になる夢を持ち続けて音楽大学指揮科に進学。東京国際音楽コンクール2位を機にプロとしてのチャンスをつかんだ川瀬賢太郎。大学4年生の中ごろまで悶々と過ごすなか、自己カウンセリングを重ねることで、指揮を師事していた広上淳一にしだいに認められていく。そこに至るまでの日々からは、苦悩の渦中にあってもブレずに自分自身と向き合い続ける姿が映し出され、胸に迫るものがある。
青柳は、こうした音楽家たちの思考が、幼い頃の育った環境によって形成されたという視点も見逃さない。彼らがどのように夢を描き、両親はそのために何を与えたのか。子どもとの接し方や教育環境のあり方、支援の仕方などのくだりは、音楽家を目指すか否かにかかわらず、子育て世代への強いメッセージになっている。
「彼らの話を聞いて、こうやって道を切り開くこともできたのかと、いっとき落ち込んだ」(あとがきより)と記した青柳は、読者にこうも語りかけている。「本書を読む方々には、まだじゅうぶんにチャンスがある。思いがけない視野を開いてくれる彼らの言葉に耳を傾けてみよう」
『〈対談〉音楽で生きていく!10人の音楽家と語るこれからのキャリアデザイン』
著者:青柳いづみこ
発売元:アルテスパブリッシング
発売日:2019年11月12日
価格:2,000円(税抜)
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