Web音遊人(みゅーじん)

1980年へのタイムマシン。レッド・クロスのデビュー40周年を記念してEP『レッド・クロス』新装再発

レッド・クロスのファーストEP『レッド・クロス』(1980)が40周年記念エディションとして2020年7月に日本発売される。

1978年に米国カリフォルニア州ホーソンで結成。オルタナティヴ/ギター・ポップ/パンク・ロックなどジャンルに囚われることなく、唯一無二のアイデンティティを持った音楽性を持つ彼らは決してメガヒットは記録していないものの、世界中の熱心なファンにとって“心のナンバー・ワン・バンド”であり続けた。

ベーシストのスティーヴ・マクドナルドはかつてスパークスのツアーに同行したこともあるが、レッド・クロスとしての現時点での最新作『ビヨンド・ザ・ドアー』(2019)ではそのスパークスの「ホェン・ドゥ・アイ・ゲット・トゥ・シング “マイ・ウェイ”」をカヴァー。曲を書いたロン・メイルが「アメイジング(=最高)」と絶賛している。

その『ビヨンド・ザ・ドアー』にはメルヴィンズのデイル・クローヴァーが全面参加、バズ・オズボーンもゲスト参加しているが、スティーヴは現在メルヴィンズのメンバーでもあり、2019年11月の来日公演に同行したのも記憶に新しい。

今回リリースされるのは、バンドにとって初の公式音源となる6曲。

1980年にスプリッティン・ティース、そしてザ・ナンズの後継バンドである391との3バンド・スプリットLP『The Siren』として“ポッシュ・ボーイ・レコーズ”から発表され、同年にレッド・クロスの単体EPとしてリリースされたものだ。これまで何度かジャケットを変えて再発されてきたが、今回はヴォーカル&ギターのジェフ・マクドナルドが当時使っていたアドレス帳と初期のバンドのステージ写真を使っている。

初めてのライヴがブラック・フラッグの前座だったという彼らだが、本EPの音楽性は十代のアドレナリンとテストステロンを持て余したパンク・ロック。後の『サード・アイ』(1990)などで聴かれるソングライティングの妙味はまだ開花していない。当時ジェフが16歳、スティーヴが12歳というから無理もないが、若さに任せて突っ走る「カヴァー・バンド」、リアルな感情が込められた「アイ・ヘイト・マイ・スクール」、イッパシのパンク・ロッカーぶった「スタンディング・イン・フロント・オブ・ポーザー」(声変わり前?のスティーヴがリード・ヴォーカルを取っている)など、台風のように駆け抜けていく。いずれも“荒削り”という表現では足りないラフなものだが、漂白剤をタイトルに冠した「クロロックス・ガールズ」や「アネッツ・ゴット・ザ・ヒッツ」などクッキリした歌メロにはパワー・ポップ的な要素も感じられる。

今回の再発盤では4曲のデモ・トラックを追加。さらに1979年、カリフォルニア州ハーモサ・ビーチのクラブ“ザ・チャーチ”でライヴ録音された「ファン・ウィズ・コニー」を追加した全11曲仕様となっている。

レッド・クロスはデビュー40周年を記念して、7月26日にはロサンゼルスの“リージェント・シアター”でアニヴァーサリー・ライヴを行うことを発表している。創始メンバーのマクドナルド兄弟と現行ラインアップに加えて、歴代メンバーも可能な限り呼ぶとのこと。2020年、新型コロナウイルスが猛威を振るう状況下で、バンド側も「こんなイベントが実現することを想像するのも難しい」と認めているものの、実現に向けてリハーサルを行っていくそうである。

『レッド・クロス』40周年記念エディションは、生涯現役としてマイペースで活動を続けるレッド・クロス(もっと頻繁にアルバムを出してくれたら嬉しいのだが……)の原点を知ることができる、1980年へのタイムマシンだ。

■アルバムインフォメーション

『レッド・クロス』

発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
発売日:2020年7月2日
料金:1,790円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:今井美樹さん「私にとって音楽は、“聴く”というより“浴びる”もの」

7434views

音楽ライターの眼

シューベルト「弦楽五重奏曲」、C調言葉は変幻自在/宮田大と仲間たち~ウェールズ弦楽四重奏団と共に~

7121views

楽器探訪 Anothertake

目指したのは大編成のなかで際立つ音と響き「チャイム YCHシリーズ」

11926views

楽器のあれこれQ&A

目指せ上達!アコースティックギター初心者の練習方法とお悩み解決

102878views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

10892views

オトノ仕事人

あらゆるトラブルに対応できる、優れたリペア技術者を世に送り出す/管楽器のリペア技術者を育てる仕事

7763views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

12772views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5911views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15744views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2308views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5923views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10851views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9224views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10794views

ジョージ・ハリオノ

音楽ライターの眼

チャイコフスキー国際コンクール第2位の若き天才ピアニストが待望のヤマハホール・デビュー!!/ジョージ・ハリオノ ピアノ・リサイタル

1223views

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

オトノ仕事人

一期一会の音楽を生み出すガイド役/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

15899views

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

われら音遊人

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

9283views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュで斬新なデザイン。思わず吹いてみたくなるカジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」の誕生

10989views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

23094views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5923views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

17593views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7331views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32304views