Web音遊人(みゅーじん)

そのとき湧き出た感情をシンプルに音にする、二度と同じ弾き語りはありません/大塚 愛インタビュー

ポップ・シーンのフロントラインを走りながら、つねに偽らざる心の内をメロディと言葉に乗せてきたシンガーソングライター、大塚 愛。2020年3月にはライブでのピアノ弾き語り音源を集めた楽譜付きアルバム『Aio Piano Arioso(アイオピアノアリオーソ)』をリリース。さらに最近、アニメの主題歌やヒット曲をピアノでカバーした動画をSNSに投稿して話題を呼んでいる。
▶大塚 愛Twitter  https://twitter.com/ai_otsuka99

「私は短大で保育科を専攻していたのですが、実習で幼稚園に行って、子どもたちの好きな曲をピアノで弾くと、みんながわーっと集まってきて歌ったりジャンプしたりする、あの感じが大好きでした。今でも、ピアノを習っている娘やその友だちが練習している曲を、その場で耳でコピーして弾いてみると“すごーい!”と喜んでもらえたり。そうやって、子どもだけでなく大人も“この曲いいよね!”と盛り上がることができたらいいなと思って投稿しています」

『Aio Piano Arioso』には、これまでのライブの中から、ファン投票によって選ばれた10曲のピアノ弾き語り音源が収録されている。ファン投票ならではのチョイスでシングルのB面曲が入っていたり、野外ライブでは歌のバックで鈴虫が合唱していたり、大塚とファンとのあたたかい思い出がつまった一枚だ。

「私の曲はアッパーなものからバラードまで本当に一貫性がないので、ファンの皆さんの層も、ファンの皆さんが好きな曲もバラバラ、というのが私にとって理想ではあります。ピアノ弾き語りはデビュー当時からやっていますが、“弾き語りで聴くとグッとくるよね”といった感想を多くいただいているのがひとつの結果なのかなと。最近のライブではずっとアッパーな曲で盛り上がっていることが多いので、落ち着いて聴ける時間になっているんじゃないでしょうか」

たしかにバンドや打ち込みのサウンドで作られた曲も、ピアノ弾き語りで歌われるとまったく違う表情が見えてくる。たとえば  『ごめんね。』は原曲ではクールなアレンジだが、弾き語りではよりエモーショナルな部分が際立つ。
「ピアノにアレンジするときはいつも思いつきで、頭の中で鳴った音をピアノでそのまま再現しています。パッとイメージが浮かばない曲は、ピアノで演奏しない方がいい曲なのかなと。逆にイメージさえ浮かべば、どんなにアッパーな曲もピアノに落とし込むことができます。“もっとドラマティックにしよう”“ここでためる感じにしよう”とかは一切考えませんね。そうやってあれこれ計算することに嫌悪感を抱いてしまうんです。ちょっと相手に対して媚びているようで。そのとき湧き出た感情をシンプルに音にする、ウソをつかずに出した方が、自分としては気持ちを込められる。だから、同じ曲でも弾くたびに違います。二度と同じ弾き語りはありません。もっとも、私は飽き性だからというのもありますけれど」

大塚 愛 ai otsuka / ごめんね。(LOVE FANTASTIC TOUR 2014) ライブ映像

大塚にとってピアノとは、自身の内なる世界に浮かんだ表現を、外の世界に伝えるうえで欠かせないツールであると言えるだろう。しかし、そんな彼女もピアノをはじめた当初は、その魅力に気づくことができなかったという。

「4歳からクラシックのピアノを習い、その後、エレクトーンやドラムも入ったグループ活動ではボサノヴァやタンゴなども弾いていました。クラシックがあまりにダメだったのでジャズに行ってみようとしたことも……。子どもの頃はクラシックの面白さが見出せず、曲から情景を思い浮かべることがどうしてもできませんでした。“この曲は、どんな曲なんだろう?”というのがわからないと、当然興味も湧かず、練習も全然しなかった。けれどあるとき、西村由紀江さんの弾くピアノを聴いて、ぱーっと情景が思い浮かんだのです。もともとドラマを見るのが大好きだったので、多くのドラマのサントラを書いている西村さんに学ぶところは多かったですね。“ああ、なるほど。ピアノってこういう風に弾くと面白いんだな”という発見をしてからは、真面目に練習するようになりました」

音楽だけでなく絵の才能にも恵まれ、みずから編集した映像に静謐なインストゥルメンタルのピアノを合わせたショートフィルムをSNSに投稿したりと、新しい顔を次々と私たちに見せてくれる大塚。マルチなクリエイターとして、大人の女性として、そしてシンガーソングライターとして、深みを増していく彼女の今後が楽しみだ。

■アルバムインフォメーション

楽譜付きLIVEピアノ弾き語り作品集
『Aio Piano Arioso(アイオピアノアリオーソ)』

発売元:avex trax
発売日:2020年3月11日
価格:3,600円(税抜)
詳細はこちら

特集

ジェイク・シマブクロ

今月の音遊人

今月の音遊人:ジェイク・シマブクロさん「音のかけらを組み合わせてどんな音楽を生み出せるのか、冒険して探っていくのは楽しい」

8668views

音楽ライターの眼

連載36[ジャズ事始め]アート・ブレイキーの誘いを断わった佐藤允彦の胸に去来していた想いとは?

2395views

マーチングドラムの必須条件とは?

楽器探訪 Anothertake

マーチングドラムの必須条件とは?

10835views

楽器のあれこれQ&A

目指せ上達!アコースティックギター初心者の練習方法とお悩み解決

97023views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12083views

オトノ仕事人

新たな音を生み出して音で空間を表現する/サウンド・スペース・コンポーザーの仕事

6681views

メニコン シアターAoi

ホール自慢を聞きましょう

五感で“みる”ことの素晴らしさを多くの方と共感したい/メニコン シアターAoi

2315views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8385views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

23494views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

4176views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8203views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24773views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

19127views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

18933views

ゲイリー・ムーア

音楽ライターの眼

ゲイリー・ムーアのオフィシャル・バイオグラフィが刊行。もし彼が生きていたら?と妄想を巡らす

1356views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

舞台上の小さなボックスから指揮者や歌手に大きな安心を届ける/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(後編)

13222views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

7978views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

4943views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8091views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.7

パイドパイパー・ダイアリー

最初のレッスンで学ぶ、あれこれについて

4522views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

54749views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7231views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24773views