今月の音遊人
今月の音遊人:小沼ようすけさん「本気で挑まなければ音楽の快感と至福は得られない」
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人気と実力を誇る世界的なテノール、ヨナス・カウフマンの魅惑的なウィーンコンサート
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2020.10.27
「デイリー・テレグラフ」に「世界最高のテノール」と称されたドイツ出身のヨナス・カウフマン。端正な容姿と幅広いレパートリーをこなす実力派として知られ、世界のオペラファンをとりこにし、チケットは入手困難なほど。
その彼がウィーン・コンツェルトハウスで行ったコンサートのライヴが、劇場版として登場することになった。ここにはカウフマンが子どものころから親しんでいるというワルツやオペレッタがびっしり詰め込まれ、視聴者を夢の世界へといざなう。
指揮は長年共演を重ねているヨッヘン・リーダーが担当、プラハ交響楽団を巧みにリードし、カウフマンの歌唱にピタリと寄り添う。歌のパートナーはソプラノのレイチェル・ウィリス=ソレンセン。ふたりで数多くのデュオを行い、最後はダンスも披露する。
プログラムはヨハン・シュトラウス2世、カールマン、シュトルツ、ジーツィンスキ―、レハールなどのオペレッタやワルツなど。曲の合間にはカウフマンのインタビューがはさみ込まれ、彼がウィーンの街を散策している様子なども映し出される。ステージでの集中力に富んだ様子とリラックスしたオフステージの表情の両面が味わえ、一瞬たりとも目が離せない映像に仕上がっている。
カウフマンがウィーンで訪れるのは、映画「第3の男」で有名なプラーター公園。観覧車に乗り、ここでも音楽にまつわる話をする。ウィーンのワインの新酒をいち早く提供するパブで知られるグリンツィングではワインをたしなみ、ベートーヴェンをはじめとする多くの楽聖が眠る中央墓地も散策する。こうした観光名所が次々に現れ、あたかもカウフマンと一緒に名所を巡っているようだ。
ヨナス・カウフマンは1969年ミュンヘン生まれ。「バリトンに近い声」といわれるほど暗く重い声が特徴だが、力強さと繊細さの両面を備え、情熱と厳粛さも混在。この映像でもさまざまな曲のなかで表情を幾重にも変容させ、ウィーン音楽ならではのリズムや間(ま)、旋律のうたいまわしを披露、かの地へといざなってくれる。
2013年、ウィーン国立歌劇場で行われたプッチーニの「西部の娘」を聴くことができたが(ミニー役のニーナ・シュテンメと共演、フランツ・ウェルザー=メスト指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団)、カウフマンはディック・ジョンソン役を体当たりの演技を交え、役になりきってうたった。
今回は、「ウィーン、わが夢の街~オペレッタ&ヒット・ソングの魅力」(ソニー)と題し、映画とリンクする曲をうたい上げた新譜もリリースされる。こちらはアダム・フィッシャー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との共演という豪華盤で、カウフマンの成熟した歌声をじっくり堪能することができる。歌詞の特有の発音、各曲を深く愛する心情をその歌声から聴き取りたい。
劇場版『ヨナス・カウフマン ウィーンコンサート』
2020年10月30日(金)から全国順次公開
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アルバム『ウィーン、わが夢の街~オペレッタ&ヒット・ソングの魅力』
発売元:ソニークラシカル
発売日:2020年10月28日
価格:2,600円(税抜)
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伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー