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今月の音遊人:八代亜紀さん「人間だって動物だって、音楽がないと生きていけないと思います」
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連載33[ジャズ事始め]オスカー・ピーターソンを完コピしていた佐藤允彦が本人を前に冷や汗を流して学んだこと
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2021.4.5
佐藤允彦がジョージ川口とビッグ4+1(ビッグ・フォー・プラス・ワン)にスカウトされたのは、まだ高校生だった18歳だというから、1950年代の終わりごろのことだ。
このバンド、もともとはドラマーのジョージ川口をリーダーに、テナー・サックスの松本英彦、ピアノの中村八大、ベースの小野満という、人気・実力ともに当時のトップクラスの4人が顔をそろえ、“スーパー・ユニット”として1953年に結成されたビッグ4というバンドだった。
1953年は“戦後日本のジャズ・ブームの頂点”とされる年で、いくつもの大規模なイヴェントが開催され、多くの観客がジャズを求めて会場を埋め尽くしていた。
ビッグ4も、1日で10ステージが予定されていた日もあったというから、その人気ぶりがうかがえるだろう。
しかし好事魔多しで、翌年には松本英彦が体調を崩し、女性ファンからの人気を一手に集めていた小野満は自己バンドを結成するために脱退してしまう。
残ったジョージ川口と中村八大は、あれこれ手を尽くしてバンドの再生を図るも上手くいかず、メンバーも固定化できずに3年を過ごすうちに、ジャズ・ブーム自体が沈静化してしまった。
1958年、ジョージ川口は再びジャズ人気を取り戻そうと、松本英彦、アルト・サックスの渡辺貞夫、ピアノの八木正生、ベースの木村新弥というメンバーでビッグ4+1を結成。が、往時の流行には及ばず、翌1959年に解散してしまう。
佐藤允彦がこのビッグ4+1に関わっていたのは、前稿の引用で宮沢昭と渡辺貞夫の名前が出ていたことから考えると、1957〜59年あたりのことだと思われる。
ブームは去ったから“1日10ステージ”ほどではないが、トップクラスの演奏者が組んだバンドだから、それなりのハードなスケジュールだったはず。
そのスケジュールに穴があかないように控えていたのが、高校生とは思えないテクニックをもった佐藤允彦だったのだろう。
当時の日本は、「ジャズがまだコピー時代だった」(引用:佐藤允彦『すっかり丸くおなりになって…』1997年、メーザー・ハウス刊)から、例えばサックス奏者がチャーリー・パーカーを、ピアノ奏者がバド・パウエルを、歌手がエラ・フィッツジェラルドを真似ているのを恥じることはなく、むしろどれだけ本人っぽく再現できるかが評価されていた。
佐藤もオスカー・ピーターソンを手本とし、そのコピーの完成度は業界に知れ渡るほどだったようで、ある日のこと、オスカー・ピーターソン本人が登場するステージの前座の代役にという声がかかった。
ステージで勝手知ったるオスカー・ピーターソンの演奏を(おそらくレコードと寸分違わずに)弾き続けていると、後ろに気配を感じた。
「後方1m足らずのところに写真でみた通りの顔でピーターソンが立っているではないか。その瞬間の気持をどう表現したらいいだろう。頭蓋骨の中に体中の血が押し上げられ、視野は狭窄し、冷汗が流れ、運指はしどろもどろになり、膝はがくがくし、足は雲を踏んでいるような、──早い話がすっかりアガってしまったのである」(引用:同前)
舞台を下りた佐藤にピーターソンは「なかなかいいね、坊や」と声をかけたそうだが、本人は決定的な間違いを犯していたことに気付く。
どれほどピーターソンのように上手く弾くことができても、本物のピーターソンを前にしたらその上手さは意味がなくなってしまう。ピーターソンだけでなく、誰かの真似をしているかぎり──。
その“気付き”は、ある意味で1960年代の日本のジャズ・シーンの大きな命題となり、佐藤允彦はそれを背負ってアメリカへと飛び立っていったのではないか、という推論は次回。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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