Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:上原彩子さん「家族ができてから、忙しいけれど気分的に余裕をもって音楽と向き合えるようになりました」

チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門で女性初、日本人初の優勝。いまだ塗り替えられていないこの快挙を成し遂げてから20年を迎える上原彩子さん。コンクール本選でも弾いたチャイコフスキーのピアノコンチェルトとの思い出や、3児の母である現在の音楽との向き合い方などについてうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

弾いた回数も多いのですが、考えてみれば一番多く聴いたのもチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番かなと思います。
私は小学校4年生からヤマハのマスタークラスに通い、モスクワ音楽院の教授だったヴェラ・ゴルノスタエヴァ先生の指導を受けていました。そのころの日本の教育では子どもは古典派のソナタやショパンのエチュード、リストあたりが一般的で、チャイコフスキーを弾かせようという先生はほとんどいませんでした。それを恐れずにやらせていただけたことは、幸せだったと思います。
13歳のとき、ヴェラ先生にピアノ協奏曲第一番を課題としてもらったときは、昔から聴いていた憧れの曲が弾ける!と嬉しくて仕方ありませんでした。ステップアップできたような気がして、ワクワクしながら練習したのを覚えています。
この曲でソリストとしてオーケストラと共演するようになったときも、最初は慣れないので何度も聴きましたね。
小さいころからコンスタントに聴き、弾いている曲ですが、その時々で演奏も変わってきていますし、この曲とともにさまざまな経験をさせていただいている感じです。

Q2.上原さんにとって「音」や「音楽」とは?

物心がつく前からピアノを始めていて、気づけばそれ以外の道がなくなっていたような感じでした。でも、この15年ぐらいで、「音楽」は生活の一部になってきたと思っています。ふだんの生活で感じる喜怒哀楽やいろいろなことが、音楽を通して間接的に外に出ていく。そう感じるようになりましたね。
こうした変化は、家族を持ったことによるものが大きいと思います。以前は、本当にピアノしかやっていませんでした。それはそれで悪いことではないけれど、でも生活のなかでそれ以外にもやらなければならないことがある今は、忙しいけれど逆に気分的に余裕をもって音楽と向き合える感じがあります。音楽から離れる瞬間があるからこそ、その良さが身に染みてわかるということがけっこうあるんですよ。
長い間ピアニストを続けることを考えると、こういうスタンスもいいなと思っています。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

同じ苗字の上原ひろみちゃんですね。
私たちクラシックの人間は楽譜があるものを弾くわけで、ある程度制限されているなかでそれぞれ自分がやりたいことをやるという感じですよね。一方でジャズはアドリブがかなり重要な要素なので、そういう意味では音で遊んでいるみたいだなと感じています。
彼女とはほぼ同年代なので、ヤマハのJOC(ジュニアオリジナルコンサート)にも何度か一緒に出たことがあります。その場で音を組み立てながら複数人でリレー演奏する「リレー即興」で、同じテーマで演奏したこともあります。昔から知っていて、すごいなと思いながらいつも拝見していますし、彼女からは刺激を受けています。

上原彩子〔うえはら・あやこ〕
3歳児のコースからヤマハ音楽教室に、1990年よりヤマハマスタークラスに在籍。多くのコンクールで入賞を果たし、2002年、第12回チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門において女性として日本人として史上初の第1位を獲得。国内外にて演奏活動を行い、オーケストラのソリストとしての共演も多い。3枚のCDがワールドワイドで発売されている他『上原彩子のくるみ割り人形』『ラフマニノフ13の前奏曲』『上原彩子のモーツァルト&チャイコフスキー』をリリース。また、2021年12月には自伝的エッセイ『指先から、世界とつながる ~ピアノと私、これまでの歩み~』を出版。東京藝術大学音楽学部早期教育リサーチセンター准教授。
オフィシャルサイト

photo/ 武藤章

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」

4344views

バーニー・トーメ

音楽ライターの眼

バーニー・トーメのCD4枚組アンソロジー発売。ハード・ロックとパンクの“カッコ良さ”を体現したギタリスト

1288views

CLP-600シリーズ

楽器探訪 Anothertake

強弱も連打も思いのままに、グランドピアノに迫る弾き心地の電子ピアノ クラビノーバ「CLP-600シリーズ」

45035views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

15958views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

15650views

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

オトノ仕事人

一期一会の音楽を生み出すガイド役/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

15407views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

5507views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6262views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20134views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

8133views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5473views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30896views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

13623views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23463views

音楽ライターの眼

指揮界の革命児、クルレンツィスがベートーヴェン・イヤーに放つ衝撃的な「運命」

4567views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

4061views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

8133views

CLP-600シリーズ

楽器探訪 Anothertake

強弱も連打も思いのままに、グランドピアノに迫る弾き心地の電子ピアノ クラビノーバ「CLP-600シリーズ」

45035views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

13780views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.8 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

初心者も経験者も関係ない、みんなで音を出しているだけで楽しいんです!

5903views

楽器のあれこれQ&A

エレクトーンについて、知っておきたいことや気をつけたいこと

26105views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9055views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10373views