今月の音遊人
今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」
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今月の音遊人:上原彩子さん「家族ができてから、忙しいけれど気分的に余裕をもって音楽と向き合えるようになりました」
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2022.1.5
チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門で女性初、日本人初の優勝。いまだ塗り替えられていないこの快挙を成し遂げてから20年を迎える上原彩子さん。コンクール本選でも弾いたチャイコフスキーのピアノコンチェルトとの思い出や、3児の母である現在の音楽との向き合い方などについてうかがいました。
弾いた回数も多いのですが、考えてみれば一番多く聴いたのもチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番かなと思います。
私は小学校4年生からヤマハのマスタークラスに通い、モスクワ音楽院の教授だったヴェラ・ゴルノスタエヴァ先生の指導を受けていました。そのころの日本の教育では子どもは古典派のソナタやショパンのエチュード、リストあたりが一般的で、チャイコフスキーを弾かせようという先生はほとんどいませんでした。それを恐れずにやらせていただけたことは、幸せだったと思います。
13歳のとき、ヴェラ先生にピアノ協奏曲第一番を課題としてもらったときは、昔から聴いていた憧れの曲が弾ける!と嬉しくて仕方ありませんでした。ステップアップできたような気がして、ワクワクしながら練習したのを覚えています。
この曲でソリストとしてオーケストラと共演するようになったときも、最初は慣れないので何度も聴きましたね。
小さいころからコンスタントに聴き、弾いている曲ですが、その時々で演奏も変わってきていますし、この曲とともにさまざまな経験をさせていただいている感じです。
物心がつく前からピアノを始めていて、気づけばそれ以外の道がなくなっていたような感じでした。でも、この15年ぐらいで、「音楽」は生活の一部になってきたと思っています。ふだんの生活で感じる喜怒哀楽やいろいろなことが、音楽を通して間接的に外に出ていく。そう感じるようになりましたね。
こうした変化は、家族を持ったことによるものが大きいと思います。以前は、本当にピアノしかやっていませんでした。それはそれで悪いことではないけれど、でも生活のなかでそれ以外にもやらなければならないことがある今は、忙しいけれど逆に気分的に余裕をもって音楽と向き合える感じがあります。音楽から離れる瞬間があるからこそ、その良さが身に染みてわかるということがけっこうあるんですよ。
長い間ピアニストを続けることを考えると、こういうスタンスもいいなと思っています。
同じ苗字の上原ひろみちゃんですね。
私たちクラシックの人間は楽譜があるものを弾くわけで、ある程度制限されているなかでそれぞれ自分がやりたいことをやるという感じですよね。一方でジャズはアドリブがかなり重要な要素なので、そういう意味では音で遊んでいるみたいだなと感じています。
彼女とはほぼ同年代なので、ヤマハのJOC(ジュニアオリジナルコンサート)にも何度か一緒に出たことがあります。その場で音を組み立てながら複数人でリレー演奏する「リレー即興」で、同じテーマで演奏したこともあります。昔から知っていて、すごいなと思いながらいつも拝見していますし、彼女からは刺激を受けています。
上原彩子〔うえはら・あやこ〕
3歳児のコースからヤマハ音楽教室に、1990年よりヤマハマスタークラスに在籍。多くのコンクールで入賞を果たし、2002年、第12回チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門において女性として日本人として史上初の第1位を獲得。国内外にて演奏活動を行い、オーケストラのソリストとしての共演も多い。3枚のCDがワールドワイドで発売されている他『上原彩子のくるみ割り人形』『ラフマニノフ13の前奏曲』『上原彩子のモーツァルト&チャイコフスキー』をリリース。また、2021年12月には自伝的エッセイ『指先から、世界とつながる ~ピアノと私、これまでの歩み~』を出版。東京藝術大学音楽学部早期教育リサーチセンター准教授。
オフィシャルサイト
文/ 福田素子
photo/ 武藤章
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