
今月の音遊人
今月の音遊人:Charさん「いろんな顔を思い出すね、“音で遊んでる”ヤツって。俺は、はみ出すヤツが好きなんだよ」
5263views
歌とともにその土地の風土と新鮮な人間ドラマを伝える「NHKのど自慢」/長寿の歌番組をつくる仕事
この記事は5分で読めます
1680views
2025.5.27
毎週日曜のお昼に生放送されている『NHKのど自慢』は、1946年の放送開始からもうすぐ80年を迎える長寿番組。全国各地の街をまわり、その土地に暮らす人たちの歌声と想いをお茶の間に届けてきた。今回の「オトノ仕事人」では、そんな『NHKのど自慢』の3人のチーフプロデューサーに話を伺った。
『NHKのど自慢』は開催地ごとに出場者を募集し、毎回およそ1,000組の応募の中から、予選会に出る200組程度が選出される。そこから20組程度が本番に出場できるという仕組みだ。番組のチーフプロデューサーを務める佐藤淳一さん、井上繭子さん、相場佳世子さんは、週ごとに異なる開催地から生放送される番組を担当している。
「『のど自慢』が普通の番組と違うのは、担当ディレクターが毎回替わること。開催地のNHK放送局の若手ディレクターが担当することが多いので、ノウハウを持ち合わせたチーフプロデューサーやスタッフが現地に行って、地域局と連携して番組を作っていきます。
日曜の本番に向けた流れとしては、だいたい金曜の午後に現地に入って、会場のセットの準備などをします。司会を務めるアナウンサーも金曜には到着し、担当ディレクターと一緒に街の取材に行きます。
土曜は12時から予選会がはじまり、200組の出場者に1組およそ1分ずつ歌っていただくので、16時半ぐらいまでかかります。その間、アナウンサーと担当ディレクターは舞台袖ですべての出場者に『どんな想いでここに来られたんですか?』『どうしてこの歌にされたのですか?』といったヒアリングをします。そして、その日のうちに本番に進む20組程度を選出させていただいております」(佐藤)
チーフプロデューサーの佐藤淳一さん。
出場する20組が決まってからが、チーフプロデューサーの腕の見せどころだという。
「20組をどのように紹介していったら視聴者の方により楽しんでいただくとともに、出場者の方の魅力を伝えられるか、番組の構成を担当ディレクターと一緒に検討します。ときにはディレクターの感性に任せて見守りつつ、チーフプロデューサーとしては全国放送としてのクオリティをキープするために、音楽ジャンルなどでバランスをとったり、順番でメリハリをつけたりして調整することが大切な仕事になります。それと同時進行で、地域のスタッフが出場者のみなさんに、本番で伝えたいメッセージなどをヒアリングしているので、その話を受けて我々が出場者を紹介するテロップやMCを考えていきます。予選会の日はそういったさまざまな準備があり、終わるのは21時ぐらいですね」(井上)
チーフプロデューサーの井上繭子さん。
そして、いよいよ迎える日曜の本番。出場者にとって一生の思い出となる大舞台を、現場スタッフが力を合わせて盛り上げていく。
「日曜日、スタッフは朝7時に会場入りし、出場者の皆さんと一緒にステージ上で動きの確認をしたり、ゲストのリハーサルをしたりします。12時15分から13時までが本番の生放送。放送終了後には、会場で観覧しているお客さまだけのために、その日のチャンピオンとゲストがそれぞれ1曲ずつ歌う「アトラクション」というイベントを用意しています。その後、会場はお開きになります。
終演後は出場者に集まってもらい、帰りの会のようなものを開き、ひとりずつ感想を言っていただいたりします。また『皆さんはこれから3日間くらい有名人ですから気をつけてくださいね』といったアドバイスをしたりして、14時ぐらいに出場者が解散するという流れです」(佐藤)
ちなみに本番で合格・不合格の判定を知らせる鐘は「チャイム」(チューブラーベル)と呼ばれる楽器。開催地のプロ・オーケストラの奏者などが演奏を担当し、審査結果をイヤホンで聞いて、それに応じた数を鳴らしているとのこと。
取材日は年に一度3月に開催される『NHKのど自慢 チャンピオン大会』の前日。NHKホールでは多数のスタッフが会場作りや進行リハーサルを行っていた。写真は、それぞれの持ち場で準備を進める佐藤さん、井上さん、相場さん。
番組を観たことのある方ならおわかりだろうが、歌のうまさだけではなく、出場者ひとり一人のキャラクターや人生ドラマが歌からにじみ出るところに面白さがある。
「予選会に出場した200組から本番に進む20組に絞るところが、いちばん大変です。時間との闘いでもあります。本当に魅力的な方が多くて、全員に出ていただきたい!と思いながら番組制作に臨んでいます。
『のど自慢』は歌だけでなく、それぞれの開催地に暮らす人たちを代表するような方に出ていただき、その人を通じて土地の風土が伝わるような“人間ドキュメント”を目指している面もあります。例えば、子どもの頃から一緒に『のど自慢』を見ていたおばあちゃんに元気になってほしい、地域を盛り上げたい、全国にアピールしたい……。皆さんいろいろな動機で応募されるわけですが、『なんだかこの人の歌を聴いていると幸せな気分になるな』と思う方は、実際にお話を伺っても素敵で、画面を通しても視聴者の皆さんに伝わるものなんだなと思います」(相場)
チーフプロデューサーの相場佳世子さん。
最後に、『NHKのど自慢』が80年にもわたって愛され続けている理由を聞いた。
「『のど自慢』という番組の枠組みは変わらないけれど、毎週開催地が違って、出場者も違う。同じスタイルを続けている安心感と、毎回違うという新鮮さ、それが一緒になっているところが魅力なのではないでしょうか」(相場)
「私もそう思います。だからこそ、マンネリにならず飽きることがない。同じ歌でも、さまざまな出場者がそれぞれの想いを込めて歌うことで、新たな魅力が生まれるのだと思います」(井上)
「私自身、毎回現場に行って楽しいですし、“こんな人がいるんだ!”という思いもよらない出会いがあります。本番の前夜はドキドキ、ワクワクしてなかなか寝つけないんですよ。番組のモットーである“明るく、楽しく、元気よく”を大切に作っていますので、生放送ならではのハプニングもあたたかく見守っていただけたらうれしいです」(佐藤)
これからも日曜お昼のほっとするひとときとともに、新たな出会いを楽しみたい。
3人にお聞きしました。
Q.子供の頃、なりたかった職業は?
野球をやっていたので、プロ野球選手です。(佐藤)
学校の先生か、ニュースキャスターです。(井上)
動物好きなので、獣医さんです。(相場)
Q.休日の過ごし方は?
野球、サッカー、格闘技など、スポーツ観戦です。(佐藤)
テレビを見ることです。休みの日もずーっと見ています。(井上)
数年前から韓国語の勉強をはじめて、ハマッています。(相場)
Q.よく聴く音楽は?
最近は『のど自慢』で昭和歌謡を歌う方も多いので、現場で耳にしたのをきっかけに聴き直したりしています。(佐藤)
『のど自慢』では幅広いジャンルが歌われるので、演歌からボカロまで幅広く聴いて、はじめて出会う曲がなくなるといいなと思っています。(井上)
私は子どもの影響で、最近はMrs. GREEN APPLEをよく聴いています。(相場)
Q.座右の銘は?
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」(佐藤)
「精神一到何事か成らざらん」(井上)
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」(相場)
放送日時:毎週日曜 12:15〜13:00
放送局:NHK総合、NHKラジオ第1、NHK FM
司会:二宮直輝(アナウンサー)、廣瀬智美(アナウンサー)
オフィシャルサイトはこちら
文/ 原典子
photo/ 阿部雄介
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます
ヤマハ音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!