今月の音遊人
今月の音遊人:村治佳織さん「自分が出した音によって聴き手の表情が変わったとき、音楽の不思議な力を感じます」
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今月の音遊人:沖仁さん「憧れのスターに告白!その姿を少年時代の自分に見せてあげたい」
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2015.7.1
BOØWY(ボウイ)の『PSYCHOPATH』というアルバムを繰り返し何度も聴きました。ギターを弾き始めた14歳の頃のことです。それまで聴いていた音楽は親の世代の曲。泉谷しげる、RCサクセション、頭脳警察といった日本のロックなんですが、初めてリアルタイムで、自分で見つけたのがBOØWYでした。「自分にもできるかもしれない」と思わせてくれるシンプルさとカッコ良さに惹かれたんだと思います。
ドラム、ベース、ギターをほぼ全曲完全コピーし、ひとりで多重録音して喜んでました。すごく大きな達成感があったし、アーティストになるきっかけになったアルバムでもあります。
デビュー後に布袋寅泰さんとお会いする機会があり、このことを話したんです。かつて憧れたスターにこうして告白している姿を、14歳の自分に見せてあげたいと思いましたね!
風のざわめき、洗濯機の回る音、お湯の沸く音…。そんな生活の中の何気ない音って心地いいなあと思います。でも、最近は街中にいろいろな音楽があふれていますよね。心地いい生活音を音楽でさえぎるのなら、思いの詰まった音楽であってほしいなと思います。
と同時に僕は、音のない、無音の状態もすごく好きです。コンサート中にも、何百人というお客さんが、一瞬、水を打ったようにシーンとなる瞬間があるんです。日本のお客さんって「ブラボー!」みたいなリアクションはあまり大きくはないけれど、ものすごく心に刻みつけて音楽を聴いている気がします。だから静寂も表現手段のひとつではないかと思うんです。
コンサートでの静寂の一瞬は、心がひとつになった感じがして、拍手喝采と同じくらい最高の賛辞じゃないかなと感じます。
フラメンコの聖地ともいえる、スペインのヘレス(ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ)を思い出します。自分の好きなフラメンコを探し続けて、やっとたどり着いた街。この街との出会いが、僕のフラメンコの核になっています。
そこではロマ(移動型民族)の若い男の子たちが夜な夜な集まっては、仲間同士でフラメンコを踊っていました。誰に見せるでもない、純度100%のフラメンコ。それは、彼らにとって最高の遊びであり、アイデンティティであり、誇りそのものなんです。生活は貧しいけれど、自分たちのためだけに弾き、歌い、踊り続け、そこからスターも生まれたりする。彼らはもっともピュアな、まさに音で遊ぶ人たちでした。
沖 仁〔おき・じん〕
2006年、3rdソロアルバムでメジャーデビュー。2010年7月、スペイン三大フラメンコギターコンクールのひとつ「第5回 ムルシア “ニーニョ・リカルド” フラメンコギター国際コンクール」国際部門で日本人初の優勝。現在はソロ活動を中心に、国内外のアーティストとの共演、プロデュース、楽曲提供等を精力的に行っている。
沖仁オフィシャルサイト http://jinoki.net/