Web音遊人(みゅーじん)

大萩康司 瀧本実里

注目の実力派2人の初共演が実現!ギターとフルートが織りなす至福のひとときを堪能!!/大萩康司&瀧本実里 デュオ・コンサート

フランスやイタリアで研鑽を積み、ルネサンスから現代曲まで多彩なレパートリーを持つギタリストの大萩康司。ソロ、室内楽、協奏曲と幅広く取り組む名手が今回共演したのは、2019年の東京音楽コンクール・木管部門を制した若手実力派フルーティスト、瀧本実里。これが初共演となる2人の注目公演を2025年1月18日にヤマハホールで聴いた。

二つの楽器が織りなす対話と調和

幕開けに選ばれたのは、19世紀に活躍した古典派最高峰のギタリストの一人、ジュリアーニの最も規模の大きな作品として知られる『協奏的大二重奏曲(Op.85)』。シンプルで軽快な第1楽章から2人の相性は抜群で、続く第2楽章では大萩の表情豊かな語り口を、瀧本が巧みな刻みや音色で際立ててみせる。その後、躍動感にあふれた第3楽章から華麗な第4楽章へと至る運びでも大変充実した対話が繰り広げられていた。

大萩康司 瀧本実里

2曲目は、20世紀のブラジルでクラシックとポップスの双方に多くの名作を残したニャタリの『ソナチネ』。全3楽章からなるが、緻密な書式の第1楽章は、2人の作品に対する見通しの良さから、のびやかで優雅なひとときを現出。第2楽章は大萩が繊細かつ穏やかな土台を築いた上で、瀧本が情熱的に躍動。そのテンションを維持したまま演奏された第3楽章では、2つの楽器の疾走と調和が最良の形で繰り返されていたと思う。

情熱的な音色とリズムの躍動の数々は映画やオペラのようなスペクタクル!

3曲目はインドが誇る現代最高のシタール奏者で、ノラ・ジョーンズの父としても知られるラヴィ・シャンカールの『魅惑の夜明け』。薄明から日の出までの情景をオリエンタルに綴った傑作で、原曲はフルートとマリンバのために書かれたもの。今回は名編曲として名高いフルート&ギター版による演奏だったが、2つの楽器はまるでシタールのような音色と語り口に様変わりし、静かで長く暗い夜が赤く大きな太陽とともに明けていく様子をみごとに彫琢していた。

大萩康司 瀧本実里

そして今回のトリを飾ったのが、タンゴの革命児ピアソラの『タンゴの歴史』。1900年代には売春宿の気晴らしに過ぎなかったタンゴが、60年代になると作曲者の斬新な手腕によって新しい音楽として覚醒し、現代はそれがクラシックなどにも影響を与えるようになってゆく過程を30年ごとに区切り、全4曲にわたって描いた大作だ。
第1曲『売春宿』の冒頭4つ目の音は、売春宿を摘発する警官の呼笛の音だと言われるが、瀧本はヨーロッパの洗練よりも、南米の空気を優先したと思われる表現を(おそらくだが)好選択。踊られなくなったタンゴはより遅くロマンティックになる時代を描いた『カフェ1930』。伝統の決まり切ったリズムから脱却した旋律や、和声を獲得した新しいタンゴが誕生する第3曲『ナイトクラブ1960』。タンゴの影響力が広がっても、もともとの精神は脈々と息づいていることを訴えた第4曲『現代のコンサート』。

大萩康司 瀧本実里

2人の情熱的な音色とリズムの躍動がおりなす対話は圧巻の一言で、まるで映画やオペラを観るようなスペクタクルに、聴き手は万雷の喝采を贈っていた。
そんな完全燃焼の後にもかかわらず、イベールの『間奏曲』、ロドリーゴの『夜明けのセレナード』という秀麗なアンコールまで披露してくれた2人。一日も早い再共演を待望している。

大萩康司 瀧本実里

 

渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。

photo/ Ayumi Kakamu

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

出口大地

今月の音遊人

今月の音遊人:出口大地さん「命を懸けて全力で取り組んだ先でこそ、純粋に音楽を楽しむ心を忘れてはいけない」

4034views

Yamaha Acoustic Mind 2022

音楽ライターの眼

三人三様の弾き語りが伝えるアコースティックギターの奥深さ/Yamaha Acoustic Mind 2022 ~PREMIUM~

2820views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュなボディにエレクトーンならではの魅力を凝縮!STAGEA(ステージア)「ELB-02」

16781views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

66060views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

11038views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

舞台上の小さなボックスから指揮者や歌手に大きな安心を届ける/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(後編)

15950views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

14804views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8354views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

22293views

われら音遊人:高度&骨太なサウンドにソウルフルな歌声が響く!

われら音遊人

われら音遊人:高度&骨太なサウンドにソウルフルな歌声が響く!

1517views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.8 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

初心者も経験者も関係ない、みんなで音を出しているだけで楽しいんです!

6825views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

12346views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

11038views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

11974views

ジェフ・リンズELO

音楽ライターの眼

ジェフ・リンズELOがライヴ映像作品/CD『ウェンブリー・オア・バスト〜ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム』を発表

4839views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

8591views

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

われら音遊人

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

10514views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュで斬新なデザイン。思わず吹いてみたくなるカジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」の誕生

11747views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

17864views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

7687views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

18751views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4772views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35917views