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孤高のバイオリニスト前橋汀子が贈る“ヴァイオリンの名曲でめぐるヨーロッパの旅”/秋のデイライト・コンサートVol.9
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2022.7.20
2022年に演奏活動60周年を迎える、日本を代表するバイオリニスト前橋汀子。クラシック音楽を知らずとも、その名はどこかで耳にしたことがあるだろう。
前橋は20年ほど前から、多忙な演奏活動と並行し、クラシック音楽普及のためのコンサート開催にも情熱を注いでいる。来る2022年11月11日(金)には、東京・池袋の東京芸術劇場のコンサートホールにおいて、その活動の一環である『秋のデイライト・コンサートVol.9』が開催される。映画音楽メドレーも交えたバラエティ豊かな内容で構成された今回の公演について前橋に話を聴いた。
10代で楽壇にデビューして以来、プロの演奏家としての道を一直線に歩み続けてきたバイオリニストの前橋汀子。演奏家としての輝きもさることながら、その凛とした存在感は楽器のジャンルを超え、数多くの後輩音楽家たちにも大きな影響を与えている。その一つのかたちが、年に一度自主的に企画している2つのコンサートシリーズだ。
現在はソロ活動の他にも、カルテット(弦楽四重奏)や数多くのオーケストラとの共演など、様々な演奏活動を展開しているが、中でも20年ほど前から始めたクラシック音楽普及のための『アフタヌーン・コンサート』や『デイライト・コンサート』と題された2つのコンサートシリーズにおいては、より多くのジャンルの演奏家たちや、クラシック音楽界の若き演奏家たちとも積極的にコラボレーションを展開している。長年にわたり、ソロ演奏家としてレコーディングや演奏活動で多忙を極めてきた前橋が、なぜこのような活動に心動かされたのかを尋ねてみた。
「ある日の夕方、我が家を訪れる友人を最寄り駅まで迎えに行ったんです。改札口まで行きましたら、ちょうどラッシュアワーと重なり、疲れた顔をして一心不乱に前を向いて歩く人々が堰を切るように流れ出てきたんですね。その時、『この中でいったい何人の方が生のバイオリンの音を聴いたことがあるのかしら……』という思いがふと頭をよぎりました。そして、このような方々にこそバイオリンの生の音色に触れて欲しいと感じたんです」
年に一度、6月か7月の土日祭日の午後のひとときに開催される『アフタヌーン・コンサート』。自らクラシック音楽の第一線に立ちながらも、「難しそうと思われてしまうクラシック音楽の演奏会を、もっと気軽に楽しめるものにできないか……」と、願い続けてきた前橋の思いそのものが実現したのだ。
チケットの価格は当初3,000円(2022年現在は3,500円)。当時のCD一枚と同じ料金で、「前橋汀子」というビッグネームの演奏会としては、破格の安価でもある。そして、この価格で都内有数の大ホールでの演奏会開催は容易なことではない。いかに前橋の情熱や周囲の理解や協力があってからこそ、いや、前橋がリードするからこそ実現可能だったのだろう。
この一年に一度だけの“とっておき”の企画も地道に回数を重ね、2022年で18回目を迎えた。加えて、『デイライト・コンサート』という名の新たなコンサートシリーズも誕生。こちらは2022年11月11日(金)開催の演奏会で9回目を迎える。このコンサートシリーズでは、親しみやすいクラシックの名曲が前橋と共演者たちによって演奏されるのが恒例だ。『デイライト・コンサート』というタイトルの通り、午前中の11時半から1時間の設定。チケットも2,500円とさらにリーズナブルだ。
「東京芸術劇場のコンサートホールは音響も素晴らしく、1時間というコンパクトな時間の中で様々な曲やバイオリンの音色をお楽しみいただけたらと思い、“ヴァイオリンの名曲でめぐるヨーロッパの旅”というテーマをイメージして曲目を考えてみました」。9回目を迎える今回は、クライスラーのバイオリン作品をはじめ、エルガーの『愛の挨拶』やドヴォルザークの『ユーモレスク』、さらに弦楽カルテットやシンセサイザーを交えてのヴィヴァルディの協奏曲集『四季』から『冬』、そして、映画音楽のメドレーなど、盛りだくさんのプログラムだ。
前橋自身、幼少期から池袋を起点とする私鉄沿線に在住しており、現在のように池袋が東京の文化発信拠点の一つとして発展する以前から、この街の進化と変遷を見続けてきた。だからこそ、この街の劇場で演奏することに深い思い入れがあるのだという。
「池袋駅から地下道を介して演奏会場に直接行けるという立地もすばらしいことと思います。両方向に百貨店もありますし、地下の食品街でお買い物をするついでや、お友達とランチをするついでのような感覚で気楽に演奏会にお越しいただけましたら嬉しいです」
中でも、映画音楽メドレーの演奏で予定されている『ひまわり』のテーマ曲は、どうしても演奏したかったという。「ソフィア・ローレンとマルチェッロ・マストロヤンニのあの不朽の名作『ひまわり』のヘンリー・マンシーニによるテーマ曲ですが、映画が撮影されたあの辺りを実際に訪れたこともあり、とても感慨深いですね」
楽壇デビュー60年を迎え、数々の演奏会や録音に追われる中で、つねに日本のクラシック音楽の未来のために一石を投じ続けるバイオリニスト前橋汀子の情熱と心意気。そのあたたかな思いと言葉の一つひとつに込められた豊かなイマジネーションが、すでにこの一年に一回の“とっておきの”コンサートのプロローグであるかのようにも感じられた。
日時:2022年11月11日(金)11:30開演(10:30開場)
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
料金:2,500円(税込・全席指定)
出演:前橋汀子(バイオリン)、松本和将(ピアノ)、丸山貴幸(シンセサイザー)、弦楽カルテット(森下幸路(コンサートマスター)、平山慎一郎(バイオリン)、小倉萌子(ビオラ)、門脇大樹(チェロ))
曲目:エルガー/愛の挨拶、クライスラー/ウィーン奇想曲、シャミナード(クライスラー編)/スペインのセレナード、クライスラー/中国の太鼓、モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第18番 ト長調 KV.301より、ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」より『冬』、映画音楽メドレー(丸山貴幸編曲)/『ひまわり』『シェルブールの雨傘』『サウンド・オブ・ミュージック』ほか、プロコフィエフ(ハイフェッツ編)/「3つのオレンジへの恋」より行進曲、チャイコフスキー/感傷的なワルツ、ドヴォルザーク(クライスラー編)/ユーモレスク、ブラームス(ヨアヒム編)/ハンガリー舞曲第5番
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文/ 朝岡久美子
photo/ 篠山紀信
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tagged: バイオリン, コンサート, インタビュー, 前橋汀子
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