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今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」
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映画『金持を喰いちぎれ』/ビートルズ・ストーンズ・モーターヘッドも喰いちぎるダーク・コメディが復活大公開
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2023.7.6
映画『金持を喰いちぎれ』は1987年の初公開以来封印されてきた“幻の”ダーク・コメディ作品だ。
監督のピーター・リチャードソンをはじめ、イギリスのコメディ集団“ザ・コミック・ストリップ”メンバーが総登場。ロック界のスーパースター達を迎えて、タチの悪いギャグの惨劇が繰り広げられる。
ロンドンの高級レストラン“バスターズ”でウェイターとして働くアレックス(ラナ・ペレー)だが、富裕層の客とソリが合わずクビに。その接客態度はかなり問題のあるもので、自業自得でもあるのだが、仲間たちと武装蜂起。内務大臣のノッシャー・パウエル(ノッシャー・パウエル)、謎の男スパイダー(レミー)らを巻き込んで、階級闘争か?単なるテロか?という闘いの火ぶたが切られる。
モンティ・パイソンと並ぶ国民的コメディ・チームとしてイギリスでは義務教育レベルの知名度を誇るザ・コミック・ストリップの劇場映画で、本国では話題を呼んだこの作品。サッチャー政権下での賃金低下・失業率の上昇といった世相を反映したカウンターカルチャー・コメディとして楽しむことが出来るが(差別表現やどぎつい描写、罵倒などに眉を顰める人もいるかも)、本作のもうひとつの注目ポイントはロック・ミュージック界の人気ミュージシャン達が多数出演していることだ。
本作のストーリーで重要な役割を担っているのが、モーターヘッドのレミーだ。映画の全編にわたってアルバム『オーガズマトロン』(1986)からのナンバーが使われ、主題歌として新曲『イート・ザ・リッチ』が書き下ろされている(後にアルバム『ロックンロール』<1987>に収録)のに加え、モーターヘッドが『ドクター・ロック』を演奏するシーンもある。レミー(ベース、ヴォーカル)、フィルシー“アニマル”テイラー(ドラムス)、フィル・キャンベル(ギター)、ワーゼル(ギター)という4人編成は、現在フィルのみが存命という貴重なラインアップだ。
『ハードロック・ハイジャック』(1994)、『ジョン・ウェイン・ボビット・アンカット』(1994)、『悪魔の毒々モンスター/新世紀絶叫バトル』(2000)、『テラーファーマー』(1999)、『トロメオ&ジュリエット』(1996)など数多くの映画に出演しているレミーだが、その多くは自らのキャラを生かしたチョイ役。そんな中で本作はストーリーの本筋に関わり、セリフや演技もある異色作だ。もちろん“レミーらしさ”は失われていないので、モーターヘッドのファンは納得だ。
カメオ出演しているミュージシャンで最大の大物なのがポール・マッカートニーだろう。女王陛下(そっくりさん。似ていない)参加のバッキンガム宮殿の晩餐会で乱闘に巻き込まれて連れ去られるという、王室をおちょくっているともいえる役柄だが、撮影のほんの数ヶ月前に王室主宰の“プリンシズ・トラスト”が開催するチャリティ・コンサートに出演。チャールズ皇太子(現国王)とダイアナ妃(故人)と対面していたりもしている。
ザ・ローリング・ストーンズのベーシスト、ビル・ワイマンがゲスト出演しているのも注目だ。“イート・ザ・リッチ”レストランで「トイレに行ってくる」と席を立ってそのまま……という役柄だが、本作公開直後の1989年には自らが経営するレストラン“スティッキー・フィンガーズ”をオープンさせている。もしかして本作がヒントになっているかも?……とも思えるが、食材には問題がなかったようだ(2021年に閉店)。
前半で大使館を占拠、「自由と権利を!」と主張するテロリストを演じるのはポーグスのシェイン・マガウアンだし、ストラングラーズのヒュー・コーンウェル、デヴィッド・ボウイの元奥方アンジー・ボウイ、サンディ・ショウなども出演。主役のラナ・ペレーはシンガーとしても1986年、「ピストル・イン・マイ・ポケット」が全英チャートのトップ100入りするなど、音楽ファンならさらに楽しめる趣向が凝らされている。
『金持を喰いちぎれ』はイギリス国内で好評価を得て、今日でもカルト的に支持されている作品だが、当時アメリカでは興行的に惨敗。日本では1989年にひっそりと公開されたものの、ひっそり過ぎて映画館に足を運ぶ人がほとんどいなかった。今回のデジタル・リマスター復活公開に際して映画会社が「なぜ今これがリバイバルされるのか、まったく不明!」と高らかに宣言しているほどだが、 2023年だからこそ見えてくるものがある。
1980年代に制作されたせいもあり、主人公アレックスには人種差別的・職業差別的な誹謗が容赦なく浴びせられる。だが男子アランとして生まれ、ラナとして生きることを選んだ彼女のジェンダーに対しては誰もが寛容で、あるがままの彼女を受け入れているのが興味深い。またEat The Richは貧困層が“金持を喰ってやる”と下剋上を比喩する表現だが、本作での使い方はもっとダイレクトな、いわば『推しの子』に近い物かも知れない。
ちなみにモーターヘッドによる主題歌『イート・ザ・リッチ』は極悪ロックンロールに乗せたお下劣なトンチの効いた歌詞が映画のムードを見事に捉えている。映画を見たらもう一度じっくり曲に向き合って、レミーのソングライター巧者ぶりを喰いちぎってみよう!
映画『金持を喰いちぎれ』
7月14日(金)よりシネマート新宿・シネマート心斎橋にてロードショーほか全国順次公開
©1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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tagged: 音楽ライターの眼, モーターヘッド, 金持を喰いちぎれ, レミー
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