Web音遊人(みゅーじん)

挾間美帆

世界で活躍する作・編曲家、挾間美帆のジャズ室内楽団「m_unit」が5年ぶりのアルバム発売&記念ツアー開催/挾間美帆インタビュー

2012年 に“ジャズ作曲家”として世界デビューを果たした挾間美帆は、作・編曲など数多くの作品を手掛けながら、指揮者やプロデューサーとしても活躍。2022年はデンマークの世界的名門ビックバンド「Danish Radio Big Band」とともに首席指揮者として来日。全国ツアーが話題を呼んだ。そんな彼女が自身のジャズ室内楽団「m_unit」として5年ぶりの新譜『ビヨンド・オービット』をリリース。2023年9月にその発売記念ツアーが東京・文京シビックホールをはじめ、全国で行われる。

m_unitの活動10周年を記念するアルバム『ビヨンド・オービット』

2012年のデビュー・アルバム『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』から3枚目の『ダンサー・イン・ノーホエア』(2018)は“3部作”としての構想のもと制作されたものだった。今回の新譜はどのように作り上げられたのだろうか。
「とにかく“10周年”を記念して生まれたアルバムです。今後はシリーズという形ではなく、それぞれのアルバムで一つの世界観を完成させるようになっていくと思います。何か新しいことをしよう、というよりは、今おもしろいと感じていること、できることを全て出し切ることを念頭に作りました。ただ、演奏者の皆さんからは『曲の書き方が変わった』とか『今までにないことをしているね』と言っていただけたりもしています。聴いてくださる方が新しいものを感じていただければ、それはとても嬉しいことですね」
今回のアルバムで中心となる曲は、規模も大きく、アルバムタイトルと共通する語を含む『エリプティカル・オービット』など3曲から成る『エクソプラネット組曲』である。この曲はもともと2020年に「モントレージャズフェスティバル」の委嘱作品として作ったものだが(フェスティバルは1年延期となったため、初演は2021年)、大幅に改訂をした。
「フェスティバル主催側からの希望は、m_unitのための25~30分の曲ということだけでした。その頃のニューヨークはちょうどロックダウンで部屋から出られない時期で、社会問題も次々起こり、人間同士のかかわりにも不寛容さが目立ち、分断される傾向にありました。それを見ていてつらくなり、人や社会、地球について考えるのをやめてみたんです。そうしたら宇宙に考えが向き、太陽系外惑星(エクソプラネット)の中からおもしろいアイデンティティを持った惑星をテーマにしてみよう!と思い立ったのです」

挾間美帆

『エクソプラネット組曲』以外の曲は2022年以降に新たに書かれたものだという。
「1曲目の『アビーム』とは船の帆に真横から風を受けて進むことで、最もスピードが出る状態を指します。とても速くなるので転覆の危険性もあるのですが、そのギリギリを攻める感じを曲に込めています。2曲目の『ア・モンク・イン・アセンディング・アンド・ディセンディング』はエッシャーのだまし絵に描かれている、上昇と下降を繰り返す階段とそこにいるお坊さんがモチーフ。コード進行などにその回る要素を入れています。『ポートレート・オブ・ゲス』は続くラストの曲につなげるための楽曲として書きました。アルバムとして完成させるために、意表を突くような、断定的でないものを、という考えから生まれた作品です。そして最後の『フロム・ライフ・カムズ・ビューティー』は、資生堂の150周年記念ムービーのために作曲したものですが、2分半ほどの曲を、アルバムのために8分半に拡大しています。通常であれば、もともとの曲の後ろに足すのが通常のやり方ですが、今回はもとの部分を最後にもってくるようにして、前半を足すという形にしました。作曲時には意識はしていませんでしたが、振り返ると新しい挑戦になりましたね」
m_unitのアルバムで“恒例”のカバー曲ももちろん収録されている。今回はアース・ウィンド・アンド・ファイアーの『キャント・ハイド・ラヴ』だ。
「子どもの頃からアース・ウィンド・アンド・ファイアーの楽曲が大好きで、“原点回帰”の意味も込めて選びました。“僕のことが好きなんでしょう?”というかなり強気な歌詞なのです。それに対して“そうよ、隠せないけど悪い?”というようなアンサーソングを書くようなイメージでアレンジしています」

5年ぶりのアルバム曲とともに行われる全国ツアー

m_unitとして久しぶりとなるツアーは、『ビヨンド・オービット』収録曲を中心にした、初のコンサートホールツアーだ。
「これまではライブハウスでの演奏が多かったので、コンサートホールを巡るツアーというのは初めてです。文京シビックホールはコンポーザー・イン・レジデンスを務めているシエナウインドオーケストラの本拠地でなじみのある会場ですが、室内楽オーケストラでこの舞台に立つのは初めてなのでとてもワクワクしています。会場によってさまざまな演奏の違いが生まれてくると思いますし、新しいm_unitのサウンドをお楽しみいただけるはずです。ぜひご期待ください」
挾間が信頼できるアーティストたちと奏でる“いま”だからこそのサウンドを、スケールの大きな響きで楽しめる今回のコンサートホールツアー。圧倒的な感動体験を届けてくれるはずだ。


デビュー10周年 & “ビヨンド・オービット” 発売記念 挾間美帆m unit 日本ツアー 2023

■アルバム『ビヨンド・オービット』

挟間美帆
発売元:ユニバーサル・ミュージック
発売日:2023年9月13日
料金:3,300円(税込)
詳細はこちら

■デビュー10周年&“ビヨンド・オービット”発売記念 挾間美帆m_unit 日本ツアー2023

9月15日(金)那須野が原ハーモニーホール(栃木県大田原市)
9月17日(日)北國新聞赤羽ホール(石川県金沢市)
9月18日(月・祝)刈谷市総合文化センター アイリス(愛知県刈谷市)
9月23日(土・祝)グランシップ 中ホール・大地(静岡県静岡市)
9月24日(日)長岡市立劇場 大ホール(新潟県長岡市)
9月29日(金)文京シビックホール 大ホール(東京都文京区)
9月30日(土)東大阪市文化創造館 Dream House大ホール(大阪府東大阪市)
詳細はこちら

photo/ 阿部雄介

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:藤田真央さん「底辺にある和音の上に内声が乗り、そこにポーンとひとつの音を出す。その響きの融合が理想の音です」

13980views

音楽ライターの眼

スペース・ロックは終わらない。ホークウィンドが最新アルバムと監修コンピレーションを発表

1668views

楽器探訪 Anothertake

新開発の音響システムが表現力のカナメ。管楽器の可能性を広げる「デジタルサックス」

3193views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

5850views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

8446views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

12578views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10114views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6699views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11050views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

948views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8219views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24807views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

10575views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13528views

ニューイヤー・コンサート2018

音楽ライターの眼

ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート2018は、14年ぶりにムーティが指揮台に立つ

7265views

トーマス・ルービッツ

オトノ仕事人

アーティストに寄り添い、ともに楽器の開発やカスタマイズを行うスペシャリスト/金管楽器マイスターの仕事

1189views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

948views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

限りなく高い精度で鍵盤とハンマーの動きを計測するヤマハ独自の自動演奏ピアノの技術

22838views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

17432views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

5725views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

54840views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

5877views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9690views