Web音遊人(みゅーじん)

管弦打楽器技術サービス課 楽器修理風景

「習うは一生」を胸に技術を磨き続ける、管弦打楽器技術者の取り組み

長い歴史のなかで、世代を超えて連綿と受け継がれてきたヤマハのものづくりDNA。その本質は、アフターサービスにもしっかりと息づいています。

今回は、管弦打楽器の修理を担当する「カスタマーサポート部・管弦打楽器技術サービス課」の若手技術社員の技術向上への取り組みをご紹介。入社2年目の小桐秀介さんと田中楓恋かれんさん、そして彼らの教育担当を務める角田紗弥子さんと山形紫穂さんにお話を聞きました。

生産工程を学ぶことは修理を極めること

ヤマハの管打楽器のメンテナンスやリペアの窓口となるのは、ヤマハ特約店や購入店。お店に在籍する修理技術者が、お客様の大切な楽器を扱っています。「管弦打楽器技術サービス課」はそうした技術者をサポートするとともに、お店では困難な修理作業を実施。お店を通して全国から送られてくる多種多様な管打楽器の修理を請け負っています。

それだけにスペシャリストとしての高い技術と知識が求められますが、その維持・向上のためにも重要なのが、若手の技術社員の育成です。

そのための取り組みの大きな柱となっているが実習。ヤマハは楽器の製造から販売、アフターサービスまでを行っていますが、職種や担当製品にかかわらず、新入社員は研修時に何らかの工場で生産工程を経験します。その後、「管弦打楽器技術サービス課」に配属された技術社員は数か月間、管楽器の生産工程の実習を行うことになります。

管弦打楽器技術サービス課 楽器修理風景

左から小桐秀介さん、田中楓恋さん、角田紗弥子さん、山形紫穂さん。

小桐さんと田中さんは、新入社員研修において掛川工場でグランドピアノの生産工程を経験。その後、2か月間、管楽器の生産工程の実習に参加しました。

管弦打楽器技術サービス課が行う修理は、タンポなど消耗品の交換からバランス調整、金管楽器のへこみ直しまで多様です。なかでも、修理依頼の割合がさほど多くないために経験値を積むのが難しく、かつ高度な技術を必要とするのが、はんだ付けとバフ研磨。いずれも火を用いたり、回転する研磨機に楽器を当てて磨いたりと危険が伴う作業でもあります。実習では生産工程におけるこのふたつの作業を重点的に行い、スキルを身につけます。

「管のなかにもう1本管が入っているなど、完成品からは見えない部分を実際に目で見ることで新たな視点を持つことができました。今後、修理に活かしていきたいと思います」と小桐さん。

田中さんは、バフ研磨の実習が強く印象に残っているそう。

「最初は研磨機に楽器を当てることが怖かったのですが、ひるんで力を弱くしてしまうときれいに磨けません。実習で基礎を学んだことで、今後もっといろいろな経験を積んでいく必要があると実感しました。実習前とは考え方が変わりました」

オーバーホール修理などは、楽器を可能な限り新品に近づけて最良の状態にする、いわば生産の各工程を部分的に組み合わせたもの。生産工程においては、ひとつの工程に特化したベテランが日々作業にあたっています。自分が目指すべきそうした熟練の技術を目の当たりにすることは、修理をするうえでの大きな収穫となります。

管弦打楽器技術サービス課 楽器修理風景

途絶えることがない実習で得たつながり

実習が終わり、管弦打楽器技術サービス課に正式に着任した後も、生産工場とのやり取りや技術交流は続きます。6年ほど前、自らも管楽器の生産工程実習を経験した角田さんは、その後の交流についてこう語ります。

「修理作業に困った際、実習時の担当者に相談して解決することもあります。ひとつの工程を熟知したベテランのアドバイスによって、的確な修理工程が確立できたり、ほかの修理技術に応用できたり。ときには生産部門に作業を依頼することもありますが、実習時に培ったつながりでコミュニケーションが円滑に進みます。実習は得難い体験でした」

こうした形での技術者育成は、楽器メーカーであるヤマハならではの特長といえそうです。

さらに、管弦打楽器技術サービス課内でももちろん、先輩から後輩への技術継承が積極的に行われています。

「若手が悩むことは、過去に自分たちや先達も悩んだこと。何でも話せる雰囲気づくりと日ごろからのコミュニケーションを大切に考えています」(角田さん)

現在、若手2人は先輩の指導を受けながら、金管楽器のへこみ直しなど初めての作業にも積極的に取り組み、できることが少しずつ増えていることを日々実感しているといいます。

その先輩である山形さんは、さらに未来を見据えていました。

「若手にはどんどん吸収してもらいたいですし、それを次の世代へとしっかり伝えることでお客様にずっと良い品質を提供し続けることを目指しています」

管弦打楽器技術サービス課で一人前の技術社員になるには、どのぐらいの期間がかかるのでしょうか。その質問に「十数年のキャリアを持つ人ですら、まだまだ未熟と考えています」という答えが返ってきました。

管弦打楽器技術サービス課は、「習うは一生」を胸に、常に修理技術を磨き続けています。

特集

今月の音遊人 - 平原綾香さん

今月の音遊人

今月の音遊人:平原綾香さん「未来のことを考えず、純粋に音楽を奏でる人こそ、真の音楽家だと思います」

13903views

音楽ライターの眼

【優待チケット】「奇跡の相性」で結ばれたデュオが追求するオーボエ×ギターの可能性/広田智之&大萩康司インタビュー

2877views

reface

楽器探訪 Anothertake

個性が異なる4機種の特徴、その楽しみ方とは?

7627views

ヤマハ製アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぶ、ヤマハ製アコースティックギター

8724views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4778views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

8279views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14165views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

9305views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12950views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

10699views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6771views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30143views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17256views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

24152views

メタリカ

音楽ライターの眼

メタリカの誇るグラミー賞メタル部門最多受賞

718views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

8279views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5067views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

4641views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

22718views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

4814views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!トランペットをうまく鳴らすコツと練習方法

122027views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8771views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10045views