Web音遊人(みゅーじん)

だれでも第九

情熱があれば、だれでも音楽家~障がいのある3名のピアニストがオーケストラ、合唱団と共演する『だれでも第九』開催

2023年12月21日(木)に、東京のサントリーホール ブルーローズで『だれでも第九』と銘打ったコンサートが開催される。ハンディキャップを持つ3名のピアニストが「だれでもピアノ」でオーケストラ・合唱団と共演する、今までにない演奏会の幕が上がる。

ピアニスト3人でつなぐ『ベートーヴェン 交響曲第九番』

「だれでもピアノ」は、「ショパンの『ノクターン』を自分の力で演奏したい」という、手や足に障がいを持ったひとりの高校生の夢が元になり2015年に開発された、ヤマハの自動演奏機能付きピアノ「Disklavier™(ディスクラビア)」に演奏追従システムとペダル駆動装置を組み合わせたものである。
ピアノの鍵盤で主旋律を弾くと、それに合わせて伴奏とペダルが自動で追従することで、ハンデや経験などに関わらず奏者のイメージする演奏をアシストする。以来、音楽教育の場やワークショップ、イベントを通じて「障がいの有無や年齢、経験に関わらず、だれもがピアノ演奏を楽しむことができる」という発信を行い、多くの参加者が「ひとりでピアノが弾けた」という達成感を重ねてきた。
この「だれでもピアノ」を用いて、オーケストラ、合唱団とともにベートーヴェンの『交響曲第九番』を披露するコンサートが、今回開催される『だれでも第九』だ。このコンサートには、「ピアノを弾きたい」という強い想いを持ちながらも、障がいのために難しさを抱える3名の演奏者がピアニストとして出演する。
「第三楽章を演奏する古川結莉奈さんは、以前『だれでもピアノ』の遠隔演奏の実験的なイベントに参加した経験があります。第四楽章を演奏する宇佐美希和さんは『だれでもピアノ』の原点ともいえる方で、ピアノで『ノクターン』を弾きたいというご自身の想いが開発のスタートになりました」と語るのは、本コンサートを担当するヤマハの加藤剛士さん。さらに、第一・第二楽章を演奏する東野寛子さんは、今回初めて「だれでもピアノ」をステージで演奏する。
「東野さんからいただいた『このチャンスがなければピアノをあきらめていたかもしれない』という言葉に胸が打たれました。『だれでもピアノ』は障がいの有無に関係なく、どなたも楽しめる楽器ですが、あえて今回はこのピアノの開発の元になった『情熱があっても身体的に難しさのある方をサポートしたい』という想いから、この3名に演奏していただくことを決めました」(加藤さん)

だれでも第九「だれでもピアニスト」の3名(左から、古川結莉奈さん、宇佐美希和さん、東野寛子さん)

ただ、クリアしなければならない課題もあるそうだ。自動伴奏追従機能を持つ「だれでもピアノ」のそもそもの特徴は、自分のペースで安心して演奏や練習ができること。これは、「押されるべき鍵盤(音)が押されなければ演奏が一旦止まる」ということでもあり、オーケストラや合唱との共演時にはコンサート自体のストップにつながる可能性がある。
「特に音楽が身近な方には今回のコンサートの難しさを想像いただけるかもしれません。ピアニストの方々にも大きなプレッシャーがあると思います。けれど、皆さんがこのコンサートへの参加を楽しみにされ、情熱をお持ちなんですよね」(加藤さん)
2023年の夏前から、ピアニストたちの個人練習は始まっているそうだ。加藤さんと同じく、本コンサートを担当するヤマハのひがし奈穂さんは言う。
「今回の演奏はピアニストの皆さまにとって大きなチャレンジであり、日々懸命に練習に励まれています。技術はあくまでそのピアニストの演奏をサポートするものですが、ピアニストの情熱に応えるべく新しい挑戦をしています。コンサート当日に全員がベストを尽くせるように、ピアニスト、指揮者、オーケストラ、合唱団、そしてこのプロジェクトに関わる方々と、まさに試行錯誤、切磋琢磨の毎日です。まだ手探りの部分もありますが、ひとつずつピントが合ってくるような充実感もあります」


『だれでも第九』ティザームービー その情熱が、かつてないシンフォニーをつくる

課題への取り組みが技術革新の礎

初めての試みである『だれでも第九』に向けて、「だれでもピアノ」の技術に加えて、奏者が鍵盤を弾いてから「だれでもピアノ」が発音するまでの遅延を可能な限り小さくする「超・低遅延発音」をはじめとした新技術を開発中だ。その中のある技術は、『だれでも第九』の打ち合わせ段階で出た課題が発端だったという。
「主旋律の中でも、奏者が鍵盤を押さえられない音だけを『だれでもピアノ』が担当してスムーズに自動演奏させたいという難題でした。悩みつつ開発担当に相談したら、『やりましょう!』と。思わず『ほんとに?』と驚きましたが心強かったですね。クリアすべき課題があるからこそ、技術の革新も起こるのだと痛感したできごとです」(加藤さん)

だれもが音楽という喜びを共有できる

『だれでも第九』のステージで3名のピアニストと共演するのは、指揮者の山田和樹さんを音楽監督に擁する横浜シンフォニエッタと東京混声合唱団。このメンバーを注目の若手指揮者である米田覚士さとしさんがまとめる。音楽プロデュースと編曲を務めるのは作曲家で、「だれでもピアノ」をはじめとするインクルーシブアーツ(社会包摂的な芸術)の研究に携わる高橋幸代 ゆきよさんだ。そして、演奏曲はもちろんベートーヴェンの『交響曲第九番』。世界中のだれもが知る楽曲、本曲が持つ力強さと生命力、ベートーヴェン自身が聴覚障がいを乗り越えて作り上げたという背景……まさに「これしかない」という選曲である。
「特に第四楽章『歓喜の歌』の合唱の歌詞が象徴的です。この歌詞が持つメッセージは、音楽はさまざまに異なる人達を結びつける力を持っており、『だれでも』が音楽という喜びを共有できるのだという、私たちが伝えたい想いとも共鳴するものではないかと思っています」(東さん)
本コンサートは会場での鑑賞に加えて、YouTubeによるオンライン生配信も予定されている。当日、会場に足を運べない日本国内の方々はもちろん、海外からの視聴も可能だ。アーカイブ配信の予定もあるが、リアルタイムで『だれでも第九』のステージを共有してほしいと加藤さんは言う。
「当日、最初の一音を出すときの緊張感を想像すると、私たちも『がんばれ!』と応援せずにはいられません。ピアニストたちの熱演と会場全体から生まれるシンフォニーを、ぜひリアルタイムで体感してください」

■だれでも第九

日時:2023年12月21日(木)16:30開演(16:00開場)
会場:サントリーホール ブルーローズ(東京都港区)
鑑賞方法:
①会場での観覧:130名様(無料・抽選)
申し込み:2023年11月20日(月)まで
②公式YouTube生配信の視聴(無料)
③公式YouTubeアーカイブ配信の視聴(ダイジェスト)(無料)
※公式YouTubeの配信、およびアーカイブにつきましては、後日、オフィシャルサイトでURLをご案内します。
オフィシャルサイトはこちら

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