今月の音遊人
今月の音遊人:NOKKOさん「私の歌詞の原点は、ユーミンさんと別冊マーガレット」
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高い歌唱力と表現力で、多彩な楽曲を自分色に染めてしまう森山良子さん。2016年にデビュー50周年を迎え、ますます輝きを増す森山さんが、決して順風満帆ではなかったという音楽人生や、歌に対する思いを語ってくれました。
バーブラ・ストライサンドが歌う『ピープル』でしょうか。バーブラ主演のブロードウェイミュージカル『ファニー・ガール』の代表的なナンバーで、50周年の記念アルバムにも収録した思い出深い曲です。
フォークシンガーとしてデビューした頃の私は、フォークソングのなかにカテゴライズされることに息苦しさを感じていました。そんなとき『ファニー・ガール』の映画版を見て、彼女が泣いたり、笑ったり、怒ったりすることがお芝居を超えたリアルな感情として伝わってきて大きな衝撃を受けました。シンガーとしての圧倒的な表現力に「歌はもっと自由に歌っていいんだ」と気付かされ、それからはバーブラのアルバムばかり聴いていました。
当時は、自分には声を含めて個性がないのでは……というジレンマも抱えていました。そんな閉塞的な状況に風穴を開けてくれたのもバーブラで、オリジナルにおもしろさを加えたり、くだけながらコミカルに歌ったりする今の私のボーカルスタイルは、バーブラが教えてくれたといえますね。
私のボイストレーニングの先生がよくおっしゃいますが、たかが音楽、されど音楽。歌も、たかが歌、されど歌で、いってみれば娯楽ですが、プロのシンガーとしては、どんな小曲であっても、隅から隅まで意識を巡らせながら歌い上げたいと思っています。
私の歌のパートは終わっても、アウトロが終わるまでがその曲であり、すべてが終わるまではお客様に対しておじぎができないんです。ですから、アウトロの途中でお客様から拍手がくると、心の中で「ちょっと待って、まだ曲は終わってないのよ~」と突っ込む自分がいたりして(笑)。舞台に立つ身としては、最後の音が鳴り終わるまで曲の世界に浸っていたいですし、お客様も一緒に浸っていただけたら幸せですね。
めちゃくちゃ楽しい人生を送っている人ですね。いついかなるときも音で自由に遊ぶことができたら、そんな愉快な人生はないと思います。
ただ私自身もそうですが、やっぱり経験を積まないと、音で自由に遊ぶことはなかなかできないものです。ジャンルにもよりますが、テクニックはもちろん、音楽が持つ世界観やフィーリングを感じとる感覚が養われていないと、急に「音で何か遊んでみて」と振られても難しい。もしパッと対応できるとしたら天才だと思います。
音で遊べるようになるには、自由な発想を持って、なんでもおもしろがってやってみることでしょうか。私の経験からすると、最初は到底できないと思えることでも、おもしろがって懸命にやるうちにクリアできるものなんですよね。音楽に限らず、何事も諦めたらそこで終わりですから、自分の可能性を信じて常に前に一歩進もうとすること。いろいろ試行錯誤するうちに自分の中の引き出しが増えていき、いかなるときも音で自由に遊べる人になれるような気がします。
森山良子〔もりやま・りょうこ〕
歌手。1967年、『この広い野原いっぱい』でデビュー。その後、ミリオンセラー『禁じられた恋』をはじめ、『涙そうそう』『さとうきび畑』など、数々のヒット曲を発表し、透明感のある歌声と歌唱力で、名実ともに日本のトップシンガーに。1998年の長野冬季オリンピック開会式式典では、テーマソング『明日こそ、子供たちが…』を歌い、世界中で放映された。2002年、第44回日本レコード大賞では、最優秀歌唱賞、金賞(『さとうきび畑』)、作詞賞(『涙そうそう』)を受賞し、3冠を達成。デビュー50周年を迎えた2016年に記念アルバム『Touch me…』を発表。全国でコンサートツアーも開催。
森山良子オフィシャルサイト http://www.ryoko-moriyama.jp/