デビュー40周年を迎えた斎藤雅広が世に送り出す、舞踊の空気ただようアルバム

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斎藤雅広「ナゼルの夜会」
音楽ライターの眼
デビュー40周年を迎えた斎藤雅広が世に送り出す、舞踊の空気ただようアルバム
2018.3.5
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学生時代に「藝大のホロヴィッツ」の異名を取り、今日まで超絶技巧や難度の高い箇所をものともせずに疾走していく爽快なテクニックを披露し、近年はそこに成熟した表現力と情感豊かな響きを加味した特有のピアニズムを聴かせている斎藤雅広。彼がデビュー40周年を迎え、記念アルバムをリリースした。

オープニングはスクリャービンのはなやかで典雅な「ワルツ 変イ長調」が奏でられ、舞踏会に招かれていくよう。次いで登場するのは、プーランクの「ナゼルの夜会」。この作品は友人たちを素材とした8つの変奏曲からなり、斎藤雅広は各曲を個性あふれる人物像を描き出すように奏で、それぞれが芝居の登場人物のように描かれ、表情豊かに演奏されていく。最後に置かれたのは、シューマンの「謝肉祭」。この作品もさまざまな人物が描かれ、各々の人物が生き生きと奏でられている。

このアルバムは全編に粋で洒脱な舞踊の空気がただよい、聴き手はピアノの調べとともに自分のからだが自然に動いていくのを感じる。リズムを刻み、旋律をうたい、空想の世界へと心は飛翔し、音楽のすばらしさを体感するのである。

斎藤雅広は、以前からエンターテイナー的な演奏を目指している。

「トニー・ベネットが”やりたくてうたっているうちはダメで、やらなくてはならないからうたうんだ”ということばを残していますが、それがぼくの座右の銘なんです。弾かなくてはならないから弾いている。ぼくは元来引っ込み思案な性格のため、若いころに一度ピアノを弾くのをやめようかと悩んだ時期がありますが、先生に”本当にやめられるのか、やめられないだろう”と突き放すようにいわれ、腰がすわったわけです。以後、ピアノが弾けるのであればどんな場所でも演奏するという気持ちになりました。40年間にはさまざまな苦難を経験し、ひとつずつ乗り越えてきましたが、いまはどうしたら聴衆に楽しんでもらえるかを一番に考え、それが問題を乗り越える力となっています」

こう語る彼はテレビ出演も多く、エンターテイナーぶりが幅広いファン層を獲得。室内楽や声楽家との共演も積極的に行い、作・編曲も手がける。休む暇もない超多忙な身だが、ステージでは常に楽しさあふれるピアニズムを披露している。このアルバムでも、聴き手の心にまっすぐに響いてくる率直で自然でひたむきな演奏が印象的だ。

今回、録音が行われたのは銀座にあるヤマハホール。ヤマハのコンサートグランドピアノCFXを使用し、2017年5月 22、23、29日に録音セッションが行われた。「ヤマハのピアノは、演奏者の思いを即座に理解してくれるピアノであり、音色のパレットがとても多いと思います。ピアニストがこう弾きたい、こんな音色がほしいと思って演奏すると、それに応えてくれる許容量の広さがあるのです。私は昔のヤマハホールももちろん知っていますから、いま新たなホールで録音し、そのすばらしい音響に驚くとともに、よくぞここまで、とホールの美しさと響きのよさ、演奏する心地よさに感動しています。これはお世辞でもなんでもありません。ステージで弾いたピアニストとしての本音です」

斎藤雅広は、2017年、フランス・アルザス地方の音楽祭「ムジカルタ」に招かれ、マスタークラスとコンサートを行った。演奏は現地の新聞で大絶賛され、2018年も再び同音楽祭に招かれている。

そうした場での体験が演奏に生かされ、ここに聴く音楽のウイット、ユーモア、エレガンス、シニカルなどの多彩な表情を生み出していく。まさにこのCDは、斎藤雅広の「いま」の心身の充実を映し出したアルパム。馨しき円熟の香りをまとっている。「ナゼルの夜会」は、全曲通して演奏される機会も録音もそう多くはない。貴重な音源である。

■アルバムインフォメーション

『ナゼルの夜会』斎藤雅広
斎藤雅広「ナゼルの夜会」
発売元:ナミ・レコード
発売日:2018年1月25日
料金:2,700円(税込)
詳細はこちら

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

 

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文/ 伊熊よし子