今月の音遊人
今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」
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パリで学んだ共通のルーツを持つ注目の若手実力派が贈る魅惑の音楽旅行!!/笹沼 樹&秋田勇魚 デュオ・コンサート
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2025.6.16
ミュンヘン国際音楽コンクール第3位や、日本音楽コンクール優勝などを誇る受賞歴多数で、ソロ、室内楽、東京交響楽団の客演首席奏者などとして多彩に活躍する笹沼樹。
一方、アルビ国際ギターコンクールを制するなど、国内外で受賞を重ね、クラシックに留まらないジャンルの垣根を超えた幅広い活動で知られるギタリストの秋田勇魚。
どちらもフランスのパリで研鑽を積んだ共通のルーツを持つ若き実力派が、2025年2月19日の銀座・ヤマハホールを舞台に、スペインや東欧を経て南米を巡る魅惑の音楽旅行を聴いた。
前半の幕開けに選ばれたスペインのグラナドスの歌劇『はかなき人生』よりスペイン舞曲第1番と、続いて演奏された同じ作曲家のスペイン舞曲より『アンダルーサ』は、いずれも笹沼と秋田による編曲。民族色の濃い音楽が躍動的かつ情熱的に奏でられる前者は、チェロとギターの細やかな指回しが秀逸で、リズミカルで情熱豊かな名旋律として知られる後者は、中間部に現れる甘美な歌が巧みなコントラストを造型。その哀愁に満ちたメロディとフラメンコのリズムが、脳裏にアンダルシア地方の風景や人々の思いを美しく映像化してくれた。

この後、明るく弾けるような歌や、恋に悩む憂いといったスペイン気質を鮮やかに描いたファリャの6つのスペイン民謡は、第2曲『アストゥリアス地方の歌』で笹沼が奏でた気品に満ちた悲しみと、第6曲『ポロ』における2人の一糸乱れぬ疾風怒濤がハイライト。
前半最後の曲目となったウルクズノフの『タンゾロジア』は、作曲家の故郷ブルガリアの民族舞曲を土台に静謐かつ切れ味鋭い歌が綴られており、1970年生まれで現代最高の作曲家の一人と言われる彼の魅力に最良のスポットライトをあてることに成功していたと思う。
休憩を挟んだ後半は、エストニアの現代作曲家ペルトがオーストリアに拠点を移す直前の1978年に作曲した『鏡の中の鏡』。この日は、ピアノとチェロまたはヴァイオリンによって演奏さる原曲を、笹沼&秋田がエレガットギター(クラシックギターと同じナイロン弦のアコースティックギターだが、ピックアップが付いていて、生音に近い音を出力できる)とサイレントチェロ用の編曲版として披露。あまりにもシンプルなテーマを繰り返すギターと、宙を舞うように流れゆくチェロの対話は、静かに降り積もる雪のように無限。途中、笹沼が片手でチェロを弾きながら片手でグロッケンを奏でた場面も美しい演奏効果を上げていた。

続くブラジルのニャタリによる『チェロとギターのためのソナタ』以降は、サイレントチェロ&ギターによる演奏(舞台後方に置かれた小さなスピーカーから音を出力)。ポップス(ショーロやサンバ・カンソンなど)とクラシックを自在に往来した彼の作風に心地よく浸りながら、プログラムは佳境へ。
そこには、アルゼンチンのピアソラによる『アヴェ・マリア』『アディオス・ノニーノ』『オブリビオン』の笹沼&秋田による編曲版が並んだ。
『アヴェ・マリア』は、2つの楽器で演奏することで、この作品の魅力かつ難しさである息の長い旋律美と細密な構造美をバランスよく表現。
『アディオス・ノニーノ』と『オブリビオン』は、若き名手ならではの集中力と燃焼度の高さが圧巻だったが、サイレント楽器を使用した演奏効果や編曲の妙もあり、作品の解像度が格段に上がっていたと思う。2021年に生誕100周年を迎えたタンゴの革命児ピアソラが残した傑作たちは、笹沼&秋田のような新たな感性と知性によって、ますますの輝きを放っていくことだろう。
そして最後を飾ったのが、エクアドルのゲバラの幻想曲より『カンタラー』。後半のニャタリ以降、連綿と受け継がれてきた南米の歌心と超絶技巧は最高潮に達し、会場からも大喝采が贈られていた。

渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
文/ 渡辺謙太郎
photo/ Ayumi Kakamu
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tagged: ヤマハホール, 音楽ライターの眼, 秋田勇魚, 笹沼樹
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