今月の音遊人
今月の音遊人:小野リサさん「ブラジルの人たちは、まさに『音で遊ぶ人』だと思います」
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3人の名手による、親密で知性的なアンサンブル/吉井瑞穂&北谷直樹 デュオ・コンサート
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2018.11.8
2000年からマーラー室内管弦楽団の首席オーボエ奏者を務め、クラウディオ・アバド、ピエール・ブーレーズ、サイモン・ラトルといった巨匠指揮者たちと名演を重ねてきた世界的演奏家・吉井瑞穂。共演に古楽演奏のスペシャリスト・北谷直樹(チェンバロ)と懸田貴嗣(バロック・チェロ)を迎え、17~18世紀の室内楽曲を披露した。
前半の幕開けは、長らくJ.S.バッハの作と伝えられてきたが、近年はその息子C.P.E.バッハの作品とも言われる「オーボエ・ソナタBWV 1031,H.545」。優美で儚げなシチリアーノ(第2楽章)でおなじみの本作を、吉井は持ち前の甘くふくよかな音色……ではなく、曲想にふさわしい軽やかさで端正に歌い上げてみせる。また、チェンバロがオーボエとチェロの各々とデュオで絡む場面も多く、彼らの親密さと知性の高さがよく伝わってきた。
2曲目は、声楽に傑作が多く、自身が優れたテノール歌手でもあったドイツのC.H.グラウンによる「チェロ・ソナタB:XVH:53」。ここでは懸田と北谷のデュオが、男性の雄弁な歌声を思わせる旋律を力強くしなやかに彫琢。バロック・チェロの温かみ溢れる音色を堪能した。
前半最後の3曲目は、吉井が再び加わり、C.P.E.バッハ「オーボエ・ソナタWq.135,H.549」を演奏。ノスタルジックなアダージョ(第1楽章)の名旋律が印象的だが、この日の白眉は第3楽章の変奏曲。3人はまるで常設のトリオのような自然体と均整美を貫いた理想的なアンサンブルを聴かせてくれた。
休憩を挟んだ後半は、イタリアに生まれ、フランスで活躍したピアーニの「オーボエ・ソナタ第4番」から。演奏前の北谷の説明だと、本日がおそらく日本初演とのこと。荘厳さと軽妙さが交錯する全5楽章の本作を、3人は作品が今生まれたような瑞々しさをたたえながら歌い進んでゆく。中でも、華麗に躍動する最終楽章は、日本初演を祝うのにふさわしい掛け合いだった。
続いては、北谷がソロでクープラン「チェンバロの為の組曲」を演奏。アルマンド、クーラント、サラバンドといった、さまざまな舞曲の巧みな歌い分け。さらに最後の変奏曲で見せた、ジミ・ヘンドリックスのロックギター張りの妖艶な熱気に満ちた圧巻の表現。その色彩豊かな音色と、精巧かつ即興性の高い技術に、改めて心から恐れ入った。
そして、当夜を高らかに締めくくったのが、名オーボエ奏者でもあったイタリアのサンマルティーニが、元々はフルート(リコーダー)のために作曲した「オーボエ・ソナタOp.2-4」。3人は、いわゆるイタリア風の華麗な表現ではなく、明るくシンプルな解釈で全4楽章を織り上げ、結果として実に明るく豊麗なクライマックスを現出。プログラムノートにもあった通り、本作の第3楽章には「愛情を込めて、優しげに」と指定表記されているが、まさに彼らの音楽に対する“愛”と“優しさ”が体現されていた。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。