Web音遊人(みゅーじん)

音座銀座

佐野史郎と犬塚弘が語る「戦後のジャズと冗談音楽」

佐野史郎さんのホストで「大人な音楽の愉しみ方」を発見する音楽トークイベント「音座銀座(On The Gin Za)」。第8回のスペシャル版は「戦後のジャズと冗談音楽」をテーマに、ヤマハ銀座スタジオ(ヤマハ銀座ビル地下2階)で開催された。
ゲストはジャズベーシストの犬塚弘さん。誕生60周年を迎えた「ハナ肇とクレージーキャッツ」の逸話をはじめ、日本のエンターテインメントが花開いた活気あふれる時代がリアルによみがえった。

「クレージーキャッツのオリジナルメンバーにしてベーシスト、犬塚弘さんです!」。大きな拍手に迎えられて登場した犬塚さんが、突然「ちょっと時間をください」と舞台奥を見上げ、呼びかけた。「ハナ、植木、谷、石橋、安田、桜井さん、降りて来てよ。側に居てくれないと寂しいんだ」。とたんにクレージーの存在感が強烈に漂い、会場では涙する人も。そして静かにトークが始まる。音楽やジャズとの出会い、龝吉(あきよし)敏子、ホーギー・カーマイケルといった世界的なプレイヤーとの数々の出会い、メンバーのエピソードなどなど、戦後の日本へとタイムスリップした気分だ。

「当時は銀座のお店にも生のジャズバンドがいっぱい入ってましたね。譜面などなくて、みんなで練習して覚えてね。アドリブを覚えるのが大変でしたよ。トップのバンドはすごい人たちばっかりで、そういう中で腕を上げていったんです」
「ひとつのことを始めたら徹底的にやらないと気がすまない性格」という犬塚さん。ベースの個人レッスンも受けた。「スパルタでしたね。でも楽譜の読み方も全部そこで覚えました」

音座銀座

昭和29年の終わり頃、ある店の専属バンドにいた犬塚さんは、その店に来ていたハナ肇さんから「バンドを作らないか」と誘われる。「ハナがね、ただまじめに音楽やっても楽しくないから、ちょっと面白いことをやってお客さんを笑わせる方がいいんだ、って言うんです。そう言われてもねえ、俺はミュージシャンだからって、最初は断ったんですが、3か月くどかれて、だんだん気持ちが傾いたんですよ」。
やがて「ハナ肇とクレージーキャッツ」(当初は「ハナ肇とキューバン・キャッツ」)が誕生。集まってみれば、芸大生や大学ジャズバンドの名手、芸術一家の息子など、メンバーは錚々たるもの。こうして一流プレイヤーがまじめに「冗談音楽」を演奏するスタイルができ上がっていった。

ここで、佐野さんは「ちょっと面白いことをやって笑わせるバンド」の原型、スパイク・ジョーンズの『ウィリアム・テル序曲』をかける。擬音やこっけいなアレンジが笑いを誘う。続いて、植木等さんの初レコーディング曲という『炭坑節』、古川ロッパ『明るい日曜日』、さらに「これはかけないと」と『スーダラ節』へ。
「こうして聴いてみると、『スーダラ節』に至るまでのエッセンスがあって、急に『スーダラ節』に行き着いたわけではないんだなということがわかりますね。僕は、『スーダラ節』は一流のジャズメンたちが演奏した、日本語のジャズのはじめだと思うんです」。佐野さんのこの言葉に、多くの人が共感した。

戦後日本のジャズの幕開け。それは、この時間ではとても語り尽くせない。夜ごとに生演奏が行われていた街の光景が浮かぶ名曲、キラ星のようなエピソードの数々は、まさに「ここでしか聴けない」貴重なものばかり。極上の大人の時間だった。
最後に流れたザ・ピーナッツ『スターダスト』で、あの懐かしい『シャボン玉ホリデー』のエンディングさながらに、ちょっと切ない余韻を残して「音座銀座」スペシャル版が幕を閉じた。

音座銀座
「僕がね『谷、あれ吹いてくれよ』と言うと、いつも一言「またかい」って……(谷さんになり切ってトロンボーンを組み立てるジェスチャー、『スターダスト』のメロディを口真似)。それがね、なんていうかハートがあって、すーっとね涙が流れてくるんですよ。で、曲が終わると何も言わずに、谷がただ黙って楽器をしまう。それでね、心が通じ合うですよ。なあ?(と谷さんに呼びかける)」
「いやあ、すごいなあ……。泣けてきちゃうな」(佐野)

 

■第8回 音座銀座 佐野史郎vs犬塚弘「戦後のジャズと冗談音楽」曲リスト

トークショーの中で紹介された曲の一覧表です。こちらのPDFファイルをご覧ください。

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:さだまさしさん「僕にとって音楽は、最高に好きなものであり、最強に嫌いなもの」

11164views

音楽ライターの眼

ローリー・ブロックが偉大なるブルース・ウィメンに捧げるアルバム『プルーヴ・イット・オン・ミー』を発表

3921views

楽器探訪 Anothertake

おしゃれで弾きやすい!新感覚のアコースティックギター「STORIA」

47363views

大人のピアニカ

楽器のあれこれQ&A

「大人のピアニカ」の“大人”な特徴を教えて!

3371views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4821views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

12452views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14270views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5489views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

14013views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

1205views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6161views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10149views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

7771views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13030views

音楽ライターの眼

ベートーヴェン生誕250周年、ソナタ最後の境地/福間洸太朗ピアノ・リサイタル

2439views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

43132views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

3364views

v

楽器探訪 Anothertake

弾く人にとっての理想の音を徹底的に追究したサイレントバイオリン™

6685views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14270views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8207views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

8719views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6942views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30420views