Web音遊人(みゅーじん)

向谷実

今月の音遊人:向谷実さん「音で遊ぶ人!?それ、まさしく僕でしょ!」

フュージョングループ「カシオペア」のメンバーとして国内外で活躍し、世界中に多くのファンを持つキーボーディスト向谷実さん。2018年10月には、25年ぶりのリーダー作となる『THE GAMES −East meets West 2018−』をリリース。日米のスーパープレイヤーたちの奇跡のコラボレーションを生み出し、東京、大阪、福岡でのライブも大成功へと導いた向谷さんに、音・音楽に寄せる思いをうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

ファンク系のバンド、タワー・オブ・パワーの『イン・ザ・スロット』というアルバムに収録されている『エボニー・ジャム』という曲ですね。とても難しいジャズ・テンションを使っているインストゥルメンタルです。聴き始めたのは高校生くらいの頃です。
この曲は、デヴィッド・ガリバルディという、ドラム奏者にとって神様みたいなプレイヤーのドラムソロで始まります。途中、ソロまわしをするのですが、オルガンを弾いているチェスター・トンプソンの演奏がすごいんです。ベースがカッコよくて、どうやって弾いているのか解析もして、それこそレコード盤が擦り切れるほど、何度も繰り返し聴きました。今でも聴くと興奮しますね。この曲が、今の自分の演奏スタイルやオーケストレーションなどの源になっていると思います。
もし2番目、3番目を挙げるとしたら、やはり大きな影響を受けた映画音楽です。フランシス・レイ、バート・バカラック、パーシー・フェイス・オーケストラ、レイモン・ルフェーブル・グランド・オーケストラといった、どちらかというとアカデミックな音楽です。子どもの頃からずっとピアノを習って、中学1年の頃にショパンの『革命のエチュード』を弾いていたのですが、そんなこともあって音楽のベースにはクラシックもあると思います。自分の音楽スタイルを形成する上で、クラシックにふれたことがとても役立ったので、ピアノをやっていてよかったと思います。ポピュラーをやるとしても、クラシックを知っているかどうかで人生変わると思いますね。

Q2.向谷さんにとって「音」や「音楽」とは?

音楽は「音を楽しむ」と書くのに、長くやっていると「音を学ぶ」の「音学」になってしまいがちです。でも僕はずっと音楽とじゃれ合って、言葉通りに「音を楽しむ感覚」でこれまで音楽と共に歩んで来ました。
ライブやCDなどを通じてお客さんに向けて作品を発表し、音楽活動をやり続ける中で「ひらめき」や「調和」「コミュニケーション」というものを得ることができます。それは音楽の重要な要素の一つでもあり、同時にまた、社会の中で生きていくこととどこか通じているようにも感じます。ですから音楽は人生そのもの。僕はそんな風に生きてきたと思います。
それから、音は人間にとって最も伝わりやすく、普遍的なものなのだと思います。聴覚はほんのわずかなノイズやズレなども敏感に感じ取ります。五感の中で一番シビアな感覚なのが聴覚だと思うんです。だからこそ、音楽は面白くもあり、また生きていく上でなくてはならないものなのではないかと思います。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

「それ、まさしく僕でしょ!」って感じですね(笑)
人って、どこまで生きられるかわかりませんよね。生きていく上でなんらかのマイルストーンを置くのはアリだと思うのですが、そのマイルストーンはいったい何に対するものでしょうか。100kmに対して50km歩けば目標達成なのか、そうではなくて10km地点なのか。あるいは、それは命を全うする日なのか……。みんな、そういうことはあまり普段は意識せずに日常を生きていますよね。
音楽もそうで、ここまで弾いたら全うできる、ということはたぶん一生ないと思うんです。「もっとうまくなりたい」とか「もっといい音楽を作りたい」と思い続けながら生きて、でも最後まで極めることはない。それこそが人生そのもの、ではないかと思います。
音楽と遊ぶという感覚は、どこか自分を客観的に見ているような、ゲーム感覚のようなところがあります。自分で自分に感動したり、人の音に感動したり、どこか客観的に捉えながら、音や音楽とじゃれ合っている人。それが音で遊ぶ人なのではないかと思いますね。で、僕はその一人です(笑)。

向谷実〔むかいや・みのる〕
キーボーディスト。1979年「カシオペア」のメンバーとしてデビュー。日本のフュージョンを代表するグループとして国内外で活躍。ヨーロッパ、東南アジア、アメリカを中心に数多くのライブ、ジャズフェスティバルに出演し多くのファンを持つ。熱狂的な鉄道ファンでもあったことから鉄道乗務員訓練用シミュレータの開発・制作を手がけるに至り、国内外の鉄道会社に採用されている。

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」

9454views

安倍圭子傘寿記念演奏会

音楽ライターの眼

マリンバから生まれる多彩な音と可能性を堪能、多くの奏者が集った記念コンサート/安倍圭子 傘寿記念演奏会

5496views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

限りなく高い精度で鍵盤とハンマーの動きを計測するヤマハ独自の自動演奏ピアノの技術

22485views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

63356views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

10248views

オトノ仕事人

芸術をとおして社会にイノベーションを起こす/インクルーシブアーツ研究の仕事

6335views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

6339views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5152views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

9739views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

11200views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8133views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24638views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

16737views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

21628views

穐吉敏子 Solo Live

音楽ライターの眼

93歳の世界的ジャズピアニストが日本のファンを大いに魅了!/穐吉敏子 Solo Live

1500views

オトノ仕事人

大好きな音楽を自由な発想で探求し、確かな技術を磨き続ける/ピアニストYouTuberの仕事

43640views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

4112views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

4884views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11052views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.8 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

初心者も経験者も関係ない、みんなで音を出しているだけで楽しいんです!

5023views

初心者におすすめのエレキギターとレッスンのコツ!

楽器のあれこれQ&A

初心者におすすめのエレキギターと知っておきたい練習のコツ

21055views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8293views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24638views