Web音遊人(みゅーじん)

千住真理子インタビュー - Web音遊人

300年という長い眠りから覚めた愛器の声を聴く/千住真理子インタビュー

バイオリニスト千住真理子さんの愛器、ストラディヴァリウス「デュランティ」。1716年に作られ、ローマ法王クレメント14世からフランスのデュランティ伯爵家へと渡り、表舞台に出ることなく「幻のストラディヴァリウス」と言われた。その後もスイスでひっそりと保管され、誕生から300年近くプロ奏者に弾かれることはなかった。そのデュランティが、千住さんの元に思いがけず持ち込まれたのが2002年。一音弾いて、生き物に触れたような感覚に身震いし、楽器のオーラを感じて手離すことができなかったという。
今年300歳を迎えるデュランティを祝福するアルバムのリリースとリサイタルについてお話をうかがった。

デュランティ300歳を記念してリリースされたアルバム『MARIKO plays MOZART』は、デュランティと同年代の音楽家、モーツァルトの作品集だ。
「デュランティと相性のいい曲は何かと考えたとき、この上なく美しいモーツァルトの世界をプレゼントしたいと思いました。この楽器を手にしたときからモーツァルトを弾いてみたいと思っていましたが、当時はまだ楽器が練れていませんでした。4年、5年と弾き込むうちに、まるで冷凍から解けて息を吹き返すかのように楽器がなじんできました。今や私の身体の一部のような存在です」

長い眠りから覚めたデュランティの「嬉しい声」を聴かせたいと千住さんが収録曲に選んだのは、輝く喜びに満ちた『アレルヤ』に始まり、祈りの気持ちを込めた『アヴェ・ベルム・コルプス』に終わる全14曲。ほかに、ピアノ・ソナタや歌劇『フィガロの結婚』のアリア、『バイオリン・ソナタ第28番』など、デュランティの多彩な音色や豊かな表現力をいきいきと伝えるラインナップだ。
「ピアノやオーケストラの曲、歌劇など、バイオリン作品以外の曲もたくさん聴いて、そのときの自分の感性にピンときた曲をピックアップした後、スコアリーディングをしながら長い時間をかけて選びました」
自身の厳選による珠玉のモーツァルトが、デュランティによって新たな魅力を放つ。

共演は、ピアニストで作曲家としても活躍する山洞智氏。今回、ピアノとバイオリンのための編曲も手がけた。「ここからは1オクターブ上で」「ここはフラジオレットで」といった千住さんのアイデアも盛り込まれている。原曲を活かした編曲、ソナタの楽章や大曲からの巧みな抜粋など、どの曲も独立した小品として楽しめるのが特徴だ。

千住真理子インタビュー - Web音遊人

そしてもうひとつの300歳の記念は、2016年7月に開催されるプレミアムな『千住真理子ヴァイオリン・リサイタル』。ピアノに山洞氏、チェロに長谷川陽子氏を迎え、息の合ったアンサンブルを聴かせる。
前半は『MARIKO plays MOZART』収録曲を中心に『子守歌』や『トルコ行進曲』などを、後半に『愛のあいさつ』や『赤とんぼ』、『ツィゴイネルワイゼン』ほかという楽しみなプログラムだ。
「作品の力を借りてデュランティの魅力が引き出されていく瞬間を体感いただきながら、ともに300歳を祝ってくださればと思います。モーツァルトは私たち人間にとって心の癒しにもなります。そんなモーツァルト効果も、デュランティの素晴らしい生の音で楽しんでください」

軽快なメロディに秘められた悲しみや、聴く人の心を映し出すような不思議な魅力にあふれるデュランティ。300年を生きた「わが子」のようなデュランティと一体となり奏でられる渾身の調べは、ホール空間にどんなミラクルを起こすのだろうか。まさに一期一会の貴重なひとときとなりそうだ。

■アルバムインフォメーション

『MARIKO plays MOZART』
発売元:ユニバーサルミュージック
発売日:2016年4月27日
価格:3,240円(税込)
詳細はこちら

■千住真理子ヴァイオリン・リサイタル

日時:2016年7月16日(土)13:30開演
会場:東京オペラシティコンサートホール
料金:5,400円(税込)
詳細はこちら

 

特集

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

今月の音遊人

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

15618views

ロバート・プラント

音楽ライターの眼

レッド・ツェッペリンを超えて、ロバート・プラントが進む“NOW AND ZEN”

561views

楽器探訪 Anothertake

存在感がありながら他の楽器となじむシンフォニックなサウンドが光る、Xeno(ゼノ)トロンボーンの最上位モデル

7262views

楽器のあれこれQ&A

目指せ上達!アコースティックギター初心者の練習方法とお悩み解決

104951views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9890views

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

7175views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

26890views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7834views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

14527views

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

われら音遊人

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

9960views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6890views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11752views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

11176views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

27311views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#021 コルトレーンが“宇宙観の表現”へと駆け上がるタイミングを“味見”してみよう~ジョン・コルトレーン『ソウル・トレーン』編

11188views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

稽古から本番まで指揮者や歌手をフォローし、オペラの音楽を作り上げる/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(前編)

33860views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

9044views

“銘器”のその先へ。次世代のフラグシップ―カスタムユーフォニアム「YEP-843(T)S」

楽器探訪 Anothertake

“銘器”のその先へ。次世代のフラグシップ——カスタムユーフォニアム「YEP-843S/YEP-843TS」

3578views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

16249views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6755views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

9876views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4420views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34881views