Web音遊人(みゅーじん)

音遊人レビュー - 自分の音で奏でよう! ~ベルリン・フィルのホルン奏者が語る異端のアンチ・メソッド演奏論~

「その学び方で本当にいいの?」楽器を学ぶ姿勢に一石を投じる書/自分の音で奏でよう!~ベルリン・フィルのホルン奏者が語る異端のアンチ・メソッド演奏論~

「教えられること」と「実際の演奏に必要なこと」が違う。一流のプロ奏者が、自分では実際にやっていないことを教えている……。そんなことを言われたら、楽器を勉強している人は青ざめてしまうかもしれない。ベルリン・フィルで30年以上にわたりホルン奏者を務め、世界各国の若手音楽家の育成に尽力してきた本書の著者、ファーガス・マクウィリアム氏はこうした矛盾を感じ、演奏家としての活動と並行して後進の指導にも携わるなかで「本当に効果的なホルンの学習法」を実現するための戦略と、いろいろな練習法や考え方を比較するための視点を伝えている。そして、伝統的なホルン教授法を再検証する機運を高めたいと本書を著した。

著者はまず、「そもそもホルンを教える必要などないのではないか」と問いかける。子どもが言語を習得していくとき、イントネーションや文法を感覚的につかみ、コミュニケーション能力を身につけていくのと同じように、教師が演奏するのをじっと観察し、その響きに耳を傾け、真似をすればいいというのだ。師の奏でる音から必要な情報はすべて得られるはずだというのだ。
しかし、楽器を習得しようとする人のほとんどは、習うことに疑いを持たない。著者はそのことを「自分の耳で聴くことを封印し、教わるという不利な立場からスタートすることを自分で選択してしまう」と指摘する。
なぜ教わることが不利なのか。教える側は生徒に対して最善を尽くすものだが、それはあくまで個人的、主観的だから限界がある。そこを考えないと、生徒自身が自分をだめにしてしまう、と断ずる。生徒は「自分の進歩に最終的な責任を持たねばならない」という提言は、ホルンに限らず、すべてに通じることでもある。

楽器に向かう姿勢に続き、「相対性ホルン論」というひねりのあるタイトルの第3章では「音楽的な選択と決定は、状況に応じて相対的になされるべき」と力説。たとえば、ホルンらしい魅力ある音色を奏でるうえでの「正しい右手の位置」。「どんな音が必要かによって右手の位置は変わる」が答えであり、「ひとつの正しい右手の位置は存在しない」という。そのうえで、楽器の構え方、いろいろな手の形を試してみる方法などを提示して、心躍る音をつくるのは演奏者の判断だと伝える。
こうした俯瞰的な立場で、アンブシュアや呼吸法、そして「毎日のトレーニングに組み込めば、間違いなく上達が速く、堅実なテクニックを維持できる」という効果的なエクササイズにも触れる。また、現役のベルリン・フィルの団員による「オーディション」の戦術など(第6章)も興味をそそられる。
「自分らしいホルンを吹こう!」と呼びかける著者が、音楽の本質に迫る数々の言葉を通して、音楽を学ぶ、あるいは教える人たちに勇気を与えてくれる1冊だ。

■作品紹介

『自分の音で奏でよう!〜ベルリン・フィルのホルン奏者が語る異端のアンチ・メソッド演奏論〜』
著者:ファーガス・マクウィリアム
発売元:ヤマハミュージックメディア
発売日:2016年1月21日
価格:2,700円(税抜)
詳細、ご購入はヤマハミュージックメディアの本書のページをご覧ください。

 

特集

今月の音遊人 - 平原綾香さん

今月の音遊人

今月の音遊人:平原綾香さん「未来のことを考えず、純粋に音楽を奏でる人こそ、真の音楽家だと思います」

10450views

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 交響曲第5番≪宗教改革≫ イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)パブロ・エラス=カサド(指揮)、フライブルク・バロック・オーケストラ

音楽ライターの眼

新メンデルスゾーン全集に根差した迫力に満ちた「宗教改革」と、研究を重ねた味わい深いヴァイオリン協奏曲

5303views

reface

楽器探訪 Anothertake

コンパクトなボディに優れた操作性が溶け込んだデザイン

4758views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

13040views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

7872views

オトノ仕事人

芸術をとおして社会にイノベーションを起こす/インクルーシブアーツ研究の仕事

5063views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

16668views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

8675views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

16532views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

6594views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

5462views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

25950views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

3430views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

6709views

音楽ライターの眼

連載50[ジャズ事始め]“なぜ日本でジャズなのか?”という問いに対する50回目の回答

718views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

弦楽器の“健康診断”から“治療”、健康アドバイスまで/弦楽器の調整や修理をする職人(前編)

12902views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

3826views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンで初めてオーディオファイル録音機能を装備

11305views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

15530views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

6401views

初心者におすすめのエレキギターとレッスンのコツ!

楽器のあれこれQ&A

初心者におすすめのエレキギターと知っておきたい練習のコツ

15919views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

7605views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

7801views