今月の音遊人
今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」
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今月の音遊人:藤田真央さん「底辺にある和音の上に内声が乗り、そこにポーンとひとつの音を出す。その響きの融合が理想の音です」
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2020.3.2
2019年6月、「第16回チャイコフスキー国際コンクール」ピアノ部門で第2位を獲得し、世界中の注目を集めた藤田真央さん。一方では音楽コンクールを題材にした映画『蜜蜂と遠雷』において、主人公の一人である風間塵(演じるのは鈴鹿央士)の演奏を担当し、20代ならではのフレッシュな音楽を聴かせてくれました。まだまだ自由な感性で広がりを見せてくれそうな俊英に、理想の音などをうかがいました。
おそらくベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番と4番だと思います。まだ小学生の頃でしたが長野に住んでおり、母親が運転する車で東京の音楽教室に通っていました。移動時間は3時間ほどでしたが、車内で必ずといってよいほどウラディーミル・アシュケナージがピアノを弾くこの曲を聴いていたのです。3番と4番がカップリングされているアルバムでしたが、4番の最後までを聴くことなくレッスン会場に着いてしまったこともありましたし、リヒテルが弾くJ.S.バッハの『平均律クラヴィーア曲集』だったこともありました。
うちは音楽一家ではありませんが、兄も(そして母も)同じ音楽教室でピアノを習っていて、家庭の中には常に音楽がありました。幸福だったと思います。父親はポップスや歌謡曲が好きでよく聴いていたので、私は全然世代ではないですけれど、ピンク・レディーやおニャン子クラブの歌まで知っていますよ。そういった家庭環境も今の私に大きな影響を与えていると思います。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲は第3番も第4番もまだ演奏したことがなく(2020年1月インタビュー時)、ベートーヴェン・イヤーの2020年、ようやく第3番を初めて弾きます。私のアプローチはアシュケナージのストレートな演奏と異なりますが、あれだけ繰り返し聴きましたので、無意識に影響を受けているかもしれませんね。
答えが出ないもの、追い求め続けていくもの、だと思います。
音も音楽も、追求すればするほど別の可能性や未知の音を提示してくれますし、ピアニストにとっては演奏するホールや楽器によっても違いますから。私にとって理想の音というのは、底辺に和音があって内声の上にメロディが乗ってという自然な形があり、最初に和音を弾いてから小指でひとつの音をポーンと出したとき、最初の響きと融合した音であること。次の音を忘れるくらい、そのまま時間が止まって欲しいとさえ思える瞬間が理想です。まさに和声、メロディ、リズムの3要素が完璧なバランスでマッチして、それがひとつの世界を作り上げている瞬間です。
最初にイメージしたのは「ピアノで遊ぶ赤ちゃん」なのですが、次に思いついたのは、言葉のセンスとメロディが見事にマッチしているシンガーソングライターですね。和声進行まで考え、「こういう響きだからこういう言葉でこのメロディだ」と、すべてをマッチさせるのはすごい才能だと思います。
それからベートーヴェン。彼はイタリア語が初心者レベルでしか話せないはずなのに、『この暗き墓場に(In Questa tomba oscura)』という素晴らしいイタリア歌曲を書いていて、自分の言葉で一生懸命に伝えようとする姿勢に感動します。だからこそ歌詞の一語一語と和音との結びつきも素晴らしく、ひとつの表現として成立してしまうんでしょうね。
藤田真央〔ふじた・まお〕
1998年東京都生まれ。3歳からピアノを始める。2019年6月チャイコフスキー国際コンクールで第2位を受賞。聴衆から熱狂的に支持され、ネット配信を通じて世界中に注目された。2016年には故中村紘子氏が最後に音楽監督を務めた浜松国際ピアノアカデミーコンクールで第1位、2017年には第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝。 近年の活躍は目覚しく、ロンドンのデビュー公演が『The Times』紙で大絶賛された他、パリ、ニューヨーク、モスクワ、サンクトペテルブルグ、ソウル、ミュンヘンなどでもデビュー。2020年はミュンヘン・フィルとの共演、ヴェルビエ音楽祭への出演などが予定されている。
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