Web音遊人(みゅーじん)

画家セザンヌと小説家ゾラ ふたりの天才のはげしく心を揺さぶられる友情を描いた映画/セザンヌと過ごした時間

画家セザンヌと小説家ゾラ、ふたりの天才の心がはげしく揺さぶられる友情を描いた映画『セザンヌと過ごした時間』

エミール・ゾラの小説『居酒屋』『ナナ』は高校生のころに読み、こんな世界があるのかと、いまでもそのときの強い印象は忘れることができない。一方、セザンヌの絵画は、欧米の美術館で必ずというほど目にするもので、とりわけ「サント・ヴィクトワール山」のシリーズが有名である。

このふたり、40年という長きに渡り友情で結ばれていたが、それはゾラの成功と一向に評価されないセザンヌとの間で微妙な感情が生まれ、ついに決裂を迎える。

この友情に焦点を当てたのが、『シェフと素顔と、おいしい時間』『モンテーニュ通りのカフェ』のダニエル・トンプソン監督。脚本も担当し、資料を丁寧に紐解き、ふたりの天才の足跡をたどり、彼らの実話に迫った。

映画全体に世界遺産で知られるエクス=アン=プロヴァンスの美しい景観があふれ、現存しているプロヴァンスのセザンヌの別荘やアトリエ代わりに借りたビベミュス石切り場、メダンのゾラの別荘や庭園などが次々に現れ、観るものをその時代へといざなう。

ストーリーは、ふたりの出会いから始まる。いまでは「近代絵画の父」と呼ばれるセザンヌだが、生前はほとんど認められず、不遇の時代を過ごしたことで知られる。

セザンヌは裕福な銀行家の家庭に育ち、南仏エクス=アン=プロヴァンスの明るい陽光のもと、のびのびと育ち、画家になる夢を抱いていた。

セザンヌとまったく異なる境遇に生まれたのがゾラ。母子家庭に育ち、学校でいじめに遭っていた。そのいじめからゾラを救ったのがセザンヌ。以来、ふたりは友情を育み、ゾラは小説家を目指す。

当時のパリに集う画家仲間たちも顔を出し、フランスの美術界の事情が浮き彫りになる。セザンヌはパリで絵を描き、サロンに挑むものの、いつも落選。そうしたなか、ゾラは『居酒屋』が大ベストセラーを記録、一躍時代の寵児となっていく。栄光を手にしたゾラと、次第に心を閉ざしていくセザンヌ。

画家セザンヌと小説家ゾラ ふたりの天才のはげしく心を揺さぶられる友情を描いた映画/セザンヌと過ごした時間

そして1886年、ゾラが発表した小説『制作』が、ふたりの友情に亀裂を生んでしまう。『制作』は、セザンヌをモデルとしたと思われる画家が主人公。長年続いた友情は、この小説で一気にひびが入るという結果となってしまった。

破天荒でいわゆる天才型の感情豊かなセザンヌを演じるのは、『不機嫌なママにメルシィー!』のギョーム・ガリエンヌ。ゾラは抑制した演技を見せる、『戦場のアリア』のギョーム・カネ。ふたりとも役を研究し尽くし、複雑な表情を見せ、作品に重厚さを与えている。

彼らの心情を映し出すように、ゆったりと流れる音楽。なかでも印象的だったのが、最初にゾラがセザンヌの家を訪ね、一緒に遊びにいくシーンに流れる「Efance(子供時代)」と、のちに成長した画家仲間が、みんなでピクニックにいくシーンに登場する「Les Roses de Picardie(ピカルディ―のバラ)」。

ゾラの小説を読み直してみたい、セザンヌのさまざまな絵をもう一度鑑賞したいという思いを喚起させる映画である。


映画『セザンヌと過ごした時間』予告編

■作品紹介

『セザンヌと過ごした時間』フランス(2016年)
2017年9月2日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開
監督:ダニエル・トンプソン
出演:ギョーム・カネ、ギョーム・ガリエンヌ、アリス・ポル、デボラ・フランソワ、サビーヌ・アゼマほか
配給:セテラ・インターナショナル
オフィシャルサイトはこちら

 

特集

髙木凜々子

今月の音遊人

今月の音遊人:髙木凜々子さん「“私だからこそ”という演奏を届けたい」

2559views

音楽ライターの眼

英国ソウル&ブルース・シンガー、クリス・ファーロウの評伝が海外で刊行。その豊潤な軌跡を追跡する

309views

Pacifica

楽器探訪 Anothertake

「自分の音」に向かって没入できる演奏性と表現力/エレキギター「Pacifica」

3847views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

51876views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

5655views

西本龍太朗

オトノ仕事人

アーティスト・聴衆・新聞の交点に立つ/音楽記者の仕事

1014views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20416views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8114views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

11670views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2862views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

7529views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35094views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

13256views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

11670views

音楽ライターの眼

ステージは作曲現場 ジャズを広げる創造力/小曽根真 スペシャル・コンサート

5077views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

弦楽器の“健康診断”から“治療”、健康アドバイスまで/弦楽器の調整や修理をする職人(前編)

15885views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

8413views

楽器探訪 Anothertake

改めて考える エレクトーンってどんな楽器?

143558views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

14345views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

6073views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バイオリンの購入ポイントと練習のコツ

23784views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

7325views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11859views