Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:由紀さおりさん「言葉の裏側にある思いを表現したい」

『夜明けのスキャット』の鮮烈なデビューから、2019年で50周年を迎えた由紀さおりさん。2011年にリリースしたアメリカのジャズ・オーケストラPink Martiniとのコラボレーションアルバム『1969』が世界的ヒットとなるなど、国境を超えて人々を魅了しています。昭和、平成、令和という時代を常に第一線で走り続ける由紀さんに、音楽や日本語への思いを語っていただきました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

一番多く歌ったのは『夜明けのスキャット』です。歌うということは同時に聴くことになるわけですから、人生のなかで最も多く聴いたのもやはりこの曲だと思います。
姉と一緒に童謡・唱歌を歌うときと自分で歌謡曲を歌うときとでは、声の出し方、歌い方が違うということを認識させられたのもこの曲でした。歌謡曲のステージや番組の後、姉と一緒に歌うと「低音がちょっと強すぎる」と指摘されたりね。
そして50年歌ってきて思うのは、インターネットが出現して世界が近くなったということです。YouTubeで私が歌っている映像を世界中の人が見ることができますし、それをいいと思って歌ってくださり、その姿を投稿してくださる方いて……それをまた私がキャッチできるということがあるでしょう?先日、トルコのイスタンブールとイスラエルに行ったのですが、イスタンブールで訪れたレストランで『夜明けのスキャット』が流れていて、スタッフの方が私のYouTubeの動画を見せてくださいました(笑)。
アルバム『1969』が生まれたきっかけも、Pink Martiniが私の曲を歌い、YouTubeにアップしていたことです。リーダーのトーマス・ローダンデールさんが、中古レコードショップで私のLPを“ジャケ買い”し、私の声やメロディーを面白く思って、レパートリーに入れてくれていたんです。
アメリカでのコラボもあり、また新たに歌うことが重要な曲になりましたね。ただ、とても大切な曲である一方、過去のこの歌を輝かせるためにも新しい歌を歌いたいとも思いました。その挑戦がアルバム『BEGINNING ~あなたにとって~』です。

Q2.由紀さんにとって「音」や「音楽」とは?

自分が歌うという観点からすると、大切にしているのは「言葉」であり「語感」です。いまは、日本語のボキャブラリーが少なくなっていますし、言葉のアクセントも後打ちでしょう?私の世代にとっては、抵抗感がないというと嘘になります。
そして、いまの音楽はリズムが主体ですよね。創り手の体のなかにリズムがあって、そこに言葉を乗せていくんだろうなというメロディーの創り方です。本来、日本語はリズムではなくて旋律です。また、私は言葉の裏側にある思いを表現したいとずっと思ってきました。ところがいまは、裏側なんかなくて言葉通りですね。「嫌よ嫌よも好きのうち」という都々逸がありましたが、いまは「嫌」は「嫌」なの(笑)。
『BEGINNING ~あなたにとって~』のレコーディングの際、生意気ながら申し上げたのは、バックの音が大きすぎるので少し抑えてほしいということでした。間合いや歌う前の吐息、息声、喘ぎから声の震えまでが私にとっての表現であり、余白の部分を大切にしているからです。
たとえばアメリカでも、日本語が分からない方にもそういったエロキューションというか情感の表現は伝わるんだなと思いましたね。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

とても残念なことに2018年逝去された、ジャズピアニストの佐山雅弘さんを真っ先に思い浮かべます。
とても多彩な音楽活動をされていましたが、10年ほど私のバックバンドのトリオのリーダーを務めてくださいました。彼のピアノは華やかで、毎回同じことはやらないんです。佐山さんと一緒にやる即興は、楽しくてスリリングでした。やっぱり、音楽はどこかスリルがないと、ね。
ステージでは、速さやタイミングを合わせるために「ドンカマ」などのクリック音に合わせて演奏するのが一般的ですが、私はこれを使わないんです。規則正しくて面白くないし、変な間が出来てしまうことがありますから。
佐山さんの演奏は「何が始まるのかしら?」と思っているとちゃんと私の曲につながり、歌い出しの渡し方が絶妙。合いの手の入れ方もとても心地良かったですね。
彼は、あらゆる音楽を愛した人だと思います。歌謡曲を愛してくださったおひとりでもありました。お別れの会には、幅広いジャンルの方が別れを惜しんで来ていらっしゃいましたね。
佐山さんのように幅広い音楽をジャッジし、アレンジできる方がほとんどいなくなってしまったのは残念です。私は彼が弾くバラードが大好きでした。その音は、いまもずっと耳に残っています。

 

由紀さおり〔ゆきさおり〕
歌手、女優。1969年「夜明けのスキャット」でデビュー。女優としても映画、ドラマへ出演、司会、バラエティなど幅広く活躍。2011年秋アメリカのジャズ・オーケストラPink Martiniとのコラボレーションアルバム「1969」をリリース。世界50か国以上で発売、配信され、世界的なヒットとなる。2019年4月から「由紀さおり 50年記念コンサート2019-2020“感謝„」をスタート、全国約20か所で2020年初夏まで開催予定。
オフィシャルサイトはこちら

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:中川晃教さん「『音遊人』のイメージは、雲を突き抜けて、限りなくキレイな空の中、音で遊んでいる人」

7302views

音楽ライターの眼

キャリアの最終章に入ったドミンゴが「音楽の力」で聴き手の心を魅了する

3572views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

13058views

楽器のあれこれQ&A

ドの音が出ない!?リコーダーを上手に吹くためのアドバイスとお手入れ方法

193555views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

19997views

トーマス・ルービッツ

オトノ仕事人

アーティストに寄り添い、ともに楽器の開発やカスタマイズを行うスペシャリスト/金管楽器マイスターの仕事

2255views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

15164views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11172views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

23185views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

6215views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.7

パイドパイパー・ダイアリー

最初のレッスンで学ぶ、あれこれについて

4880views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31382views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

8047views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15391views

ムソルグスキー「展覧会の絵」、創作欲を刺激する余白、ELP版はプログレの大門

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase8)ムソルグスキー「展覧会の絵」、創作欲を刺激する余白、ELP版はプログレの大門

6820views

梶望さん

オトノ仕事人

アーティストの宣伝や販売促進など戦略を企画して指揮する/プロモーターの仕事

11892views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

8536views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカを進化させる「クリップ」が誕生

17602views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

14022views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5896views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バイオリンの購入ポイントと練習のコツ

21274views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

7134views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26347views