今月の音遊人
今月の音遊人:児玉隼人さん「音ひとつで感動させられるプレーヤーになれるように日々練習しています」
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苦難を乗り越えてきたからこそ歌える人生讃歌。辛い出来事も笑顔に変えるアルバム『Hello! Hello!』/岩崎宏美インタビュー
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2017.11.8
tagged: インタビュー, 岩崎宏美, Hello! Hello!
喜びも、悲しみも、また人生。岩崎宏美のニューアルバム『Hello! Hello!』は、どんな人にも前向きに生きる力を与えてくれる一枚だ。高校生でデビューし、歌手人生の前半こそ順風満帆だったが、その後は離婚や子供との別れ、喉のポリープ手術など過酷な運命に翻弄されてきた。それでも今、「修行みたいなものですよね」と、カラッと振り返る彼女。さまざまな経験を経てきたからこその優しさにあふれ、芯の強さが感じられる作品となった。
歌手としての決意に満ちた壮大な40周年記念曲『光の軌跡』、病気と戦う身近な人たちのことを思って自ら詞を書いた『大切な人』など、ここ数年に発表した曲に加え、4つの新曲を収めた。中でも思い入れのある一曲が『シアワセ色』という歌だ。
バックバンドの演奏を収録するためのレコーディングの日、小林麻央さんが亡くなったというニュースを知った。「お会いしたことはないけれど、すごく応援していたのでとてもショックでした。彼女の無念と歌詞がリンクして、その日は麻央さんの顔が頭から離れなかった」と振り返る。そして歌唱を収録する日には、「自分が歌手をやめるときには、この歌を家族に残したい」という気持ちを胸にスタジオに入ったという。「そんな思いで歌った歌は今までなかった。人生、いつ何があるか分からないから」。実感のこもった渾身の歌声を吹き込んだ。
実際、岩崎は何度となく歌手人生の危機に見舞われてきた。40代でポリープ摘出手術を受けたが、実はポリープ自体はミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演するたびにできていたという。「演じたファンティーヌという役は、私の音域より広いのです。地声を求められても無理で、代わりになる歌い方を試行錯誤して見つける中で喉に負担をかけてしまっていたのです」。ポリープでドクターストップがかかった日の壮絶な体験は、ありありと覚えている。「神戸のコンサートの最中、『みなさんこんにちは』と言った時のガラガラ声にお客様全員が気づいたのです。その瞬間、客席がドーンと後ろに下がっていったように見え、私の頭の中は真っ白になって……」
以来、声を維持するために涙ぐましい努力を続けている。喉が疲れたら話すことをやめ筆談に切り替えたり、違和感があったらすぐ耳鼻科に駆け込んだり。その背景にあるのは、ポリープ手術の担当医のこんな言葉だった。「声には寿命があるんだよ」
使えば使うほど消耗してしまう声で勝負し続けなければならない歌手とは、何と過酷な職業だろう。1975年、16歳でデビューし、『ロマンス』『聖母たちのララバイ』など数多くの名曲を歌う岩崎の澄み切った瑞々しい声に国民は魅了された。
若き日の歌声のままでありたいと願うのは、本人なら尚更だろう。「歌をやめてもいいと思うほど新妻業に夢中になっていた」という結婚、そして離婚を経て30代で本格復帰した時、以前と同じように歌いたいという思いが頭にこびりついて、喉を酷使してしまったという。「女性は年を重ねると声は低くなるし、音域が変わってくるのは当然ですけれど、それを認識するまでにはしばらく葛藤があった」
今の歌声はというと……あの頃と変わらず驚くほど瑞々しいのだ。「『ロマンス』は16歳の時の譜面を使っていますよ。でも、前のようにすべて地声では歌えない。声を裏返しているんですけど、何とかそう聴こえないように歌っているだけなんです」。声や肉体のさまざまな衰えを認識しつつ、心の調子を整えて、人生を感じさせる詞の深みのある言葉を伝える。「若い時はそんなこと考えなくても歌えたんですよ。でも今は、考えないと歌えない。気分も、声も、全てこだわらないと」
それでも、「前より歌が好き。楽しい」と語る。「毎回のコンサートの歌の感じ方が自由だから。その日の気分でしゃべることも歌うことも新鮮。パッと舞台が開いて、前の方に座っているお客様の様子を見て、こんな方がいらしているんだ、きっと初めてなのかなあとか、いろんなこと考えながら。この間、アンコールの最後の一曲という時に、入っていらした方がいたんですよ。『今来たんですか?』と、思わず言っちゃった(笑)」
人生の酸いも甘いもかみ分け、決して思い通りにいかないことも知り尽くした今だからこそ、日々、一つ一つの小さな発見に感動できるのだろう。「生きている限り、みんな笑顔で頑張ってもらいたいというのがモットー。歌はそのためのもの。私の歌を聴いて、もう一回前向きになりました、元気をもらいました、恋愛をしていた頃のことを思い出しました、と言ってもらえることがうれしい」。『Hello! Hello!』は、まさにそんな思いが詰まった作品だ。
「レコードの日」である11月3日には、『Hello! Hello!』と、2016年に発表した、ピアニストの国府弘子との共演アルバム『Piano Songs』がアナログ盤となって発売された。「これで育ちましたからね。ものすごく音がいいとみんな言ってくれますよ」と、美しいジャケット写真が一層映える2枚のレコードを手に、笑顔を見せてくれた。
『Hello! Hello!』
発売元:テイチクエンタテインメント
発売日:2017年8月16日
料金:3,000円(税込)
『Hello! Hello!』/『Piano Songs〜Edited for LP〜』(アルバムLP/30cm)
発売元:テイチクエンタテインメント
発売日:2017年11月3日
料金:各3,780円(税込)
文/ 仁川 清
photo/ 宮地たか子
tagged: インタビュー, 岩崎宏美, Hello! Hello!
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