Web音遊人(みゅーじん)

ロニー・モントローズの最後のアルバム『10x10』が遂に発売

ロニー・モントローズの最後のアルバム『10X10』が遂に発売

アメリカン・ハード・ロックのギター・ヒーロー、ロニー・モントローズの遺作『10X10』が2017年11月22日に発売される。

1947年、サンフランシスコに生まれたロニーはギターを習得、ヴァン・モリスンやボズ・スキャッグス、エドガー・ウィンター・グループなどとのセッションを経て1973年に自ら率いるバンド、モントローズを結成する。同年のデビュー・アルバム『ハード☆ショック!』は「ロック・ザ・ネイション」「バッド・モーター・スクーター」「スペイス・ステイション#5」「ロック・キャンディ」など名曲揃いの、アメリカのハード・ロック界に多大な影響を与えた傑作だった。

例を挙げると、レコード・デビュー前のヴァン・ヘイレンはモントローズの「メイク・イット・ラスト」をライヴでカヴァーしていたし、サミー・ヘイガーをバンドに迎え入れたのも、彼が元モントローズのメンバーだったからだといわれる。

アイアン・メイデンも「スペイス・ステイション#5」をカヴァーするなど、ロニーは数多くのミュージシャンからリスペクトされてきた。

ロニーはモントローズ、そしてソロ・キャリア、ガンマなどで活動してきた。1980年代に入ると第一線をMTV向きのグラム・メタルや超絶テクニカル・ギタリストに譲りながらも、彼はマイペースでライヴとアルバム発表を続けている。だが21世紀に入って前立腺ガンを患い、鬱状態になった彼は2012年3月3日、銃で自らの命を絶ったのだった。

アコースティック・ソロ・インストゥルメンタル・アルバム『Bearings』(1999年)とガンマ名義の『Gamma 4』(2000年)以降、新作スタジオ・アルバムを発表してこなかったロニーだが、実は亡くなる10年前から意欲的なプロジェクト・アルバムを企画していた。それが“10人のゲスト・シンガーと全10曲をレコーディングする”という『10X10』だった。

Mr.BIGのエリック・マーティンは筆者(山崎)とのインタビューで、こう語っている。

「10年ぐらい前、ロニーから突然電話があったんだ。まさか自分を誘ってくれるとは思わなかったから、“誰の電話番号を知りたいの?”と訊いた。“いや、君に歌って欲しいんだよ!”と言われて耳を疑ったよ(笑)」

ちなみにロニーは電話魔で、一時期毎週のようにエリックに電話をしてきては3時間ぐらい話し込んでいたそうだ。

アルバムで歌っているのはエリックに加えてサミー・ヘイガー、エドガー・ウィンター、デイヴィ・パティソン(ガンマ)というロニーと縁の深いシンガー。そしてトミー・ショウ(スティクス)、マーク・ファーナー(グランド・ファンク・レイルロード)、グレン・ヒューズ(ディープ・パープル)、ジョー・ボナマッサなどだ。

さらにギターでデイヴ・メニケッティ(Y&T)、フィル・コリン(デフ・レパード)、スティーヴ・ルカサー(ギター)、ブラッド・ウィットフォード(エアロスミス)、キーボードでグレッグ・ローリー(ジャーニー)などがゲスト参加、オールスター・アルバムに仕上げている。

アルバムのベーシック・トラックで演奏したのはリッキー・フィリップス(ベース/ベイビーズ、スティクス他)とエリック・シンガー(ドラムス/KISS、ブラック・サバス他)だ。ロニーの死後、リッキーが遺族の協力を得て、5年の歳月をかけて遂に完成をみることになった。サミー・ヘイガーは真っ先に、旧友のラスト・アルバムを実現させることへの合意を表明したという。

これだけの豪華ゲストを迎えながらも“主役”はあくまでロニーのギターとミュージシャンシップであり、入魂の純正アメリカン・ハード・ロックが全編貫かれている。ガツンと食らわすギター・リフの「ヘヴィ・トラフィック」から、生前の彼と友人だったロビン・トロワーへのトリビュートといえる「アイム・ノット・ライイング」まで、『10X10』は単なる生前の音源の寄せ集めではなく、高い完成度とエネルギーを誇る1枚のアルバムだ。

ロニーは去ってしまったが、彼の生んだ音楽は我々の心の中で鳴り響き続ける。『10X10』は彼がロック史に遺した確固たる足跡を、彼の盟友たちと共に祝福するセレブレーションだ。

■アルバムインフォメーション

『10X10』
10X10
発売元:ワーナーミュージック・ジャパン
発売日:2017年11月22日
料金:2,400円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

今月の音遊人:清水ミチコさん「歌モノのネタができることは自分にとって強みです」

今月の音遊人

今月の音遊人:清水ミチコさん「ピアノをちょっと絶ってみると、どれだけ自分に必要かわかります」

20891views

音楽ライターの眼

渡辺貞夫がバッハの難曲に挑んだ『プレイズ・バッハ』を読み解いてみる

5821views

【楽器探訪 Another Take】ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

楽器探訪 Anothertake

ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

9952views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

747views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

13574views

梶望さん

オトノ仕事人

アーティストの宣伝や販売促進など戦略を企画して指揮する/プロモーターの仕事

11621views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13864views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7658views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10314views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

1880views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7225views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10311views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7426views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20064views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#040 多様化するジャズ・シーンに漕ぎ出すためのロマンと挑戦を詰め込んだ作品~ハービー・ハンコック『処女航海』編

622views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

わかりやすい言葉で、知られざる楽器の魅力を伝えたい/楽器博物館の学芸員の仕事(後編)

8669views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

11069views

【楽器探訪 Another Take】演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

楽器探訪 Anothertake

演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

6321views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14817views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5618views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

21694views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6220views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25584views