Web音遊人(みゅーじん)

舞・飛天遊(まい・ひてんゆう)森山開次

AIがダンサーをピアニストにする!?新たな時代の扉を開く一夜限りの公演「舞・飛天遊」

20世紀末にこの世を去ったピアノの巨匠リヒテルを蘇らせ、世界最高峰の合奏団ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル(以下、シャルーンアンサンブル)との共演を果たしたのは2016年のこと。未来の演奏会のあり方を示唆し、人々をあっといわせたその公演を可能にしたのは、ヤマハが開発した「人工知能(AI)演奏システム」だった。
あれから約1年──。ヤマハはその技術をさらに進化させ、今度はAIがダンサーの動きをピアノ演奏で表現し、合奏団とのアンサンブルを行うという。

2017年11月22日、東京藝術大学奏楽堂で開催される『舞・飛天遊(まい・ひてんゆう)』。この日、驚異のダンサーと称され、国際的にも高い評価を得ている森山開次(もりやまかいじ)とシャルーンアンサンブルの共演が実現する。両者のコラボレーションだけでも、画期的な時空間になることは容易に想像できるだろう。しかし今回、森山はAIを通じ自らの体を使ってピアノを演奏し、観客の目と耳を刺激する芸術表現を創生。そして、その音とシャルーンアンサンブルがさらなるアンサンブルを生み出す。
なぜ、そんなことが可能なのか。ヤマハ(株)研究開発統括部の田邑元一(たむらもといち)さんによれば、手の角度や足の動きを検知する伸縮センサー、僧帽筋など特定の筋肉の緊張度合を電位で測る筋電位センサー、動きのスピードを測る加速度センサー、さらに回転も加えたジャイロセンサーの4種類のセンサーで動きを検知し、そのパターンを瞬時に解析。AIはそのパターンに関連づけられた演奏をリアルタイムで創り出し、世界最高峰の再生制度を誇るヤマハの自動演奏機能付きアコースティックピアノ「Disklavier™(ディスクラビア)※」に演奏を指示するという。
※今回のためにコンサート用グランドピアノ「CFX」の「Disklavier™」を特別に用意

舞・飛天遊(まい・ひてんゆう)森山開次

背中、手首、足首にセンサーを装着。森山開次の繊細な動きを人工知能が解析し、ディスクラビアが音を奏でる。

演奏される曲は、松下功の代表作『飛天遊』の舞バージョンである『舞・飛天遊』で、もちろんこれが初演となる。世界的に高い人気を誇るこの和太鼓協奏曲から、今回は和太鼓のパートをすべて抜いた。
「和太鼓のパートを抜いてしまうとまったく違う音楽になります。そこにさらに舞の要素を入れた『舞・飛天遊』という新しい音楽に創り直す必要がありました。まず、この世には存在しない和太鼓なしの『飛天遊』を録音し、その音を使って森山さんに踊ってもらう。その動作と、どのような音を関連付けるか。森山さんから、この体の動きでこの音が鳴るんだったら、こういう演技をしようとフィードバックがあったり。システムのクセを踏まえながら、一緒に改良を繰り返して創り上げていくという感じでした」(田邑さん)。

センサーの実験段階からずっと携わってきた、その森山はこう語る。
「ダンサーは常に音楽家と関わりながら作品を創っています。素晴らしい演奏家がいるのに、敢えて僕が奏でる意味や意義は何だろうと最初は考えました。でも『飛天遊』というすばらしい作品の新しい解釈にチャレンジさせていただけること、シャルーンの方と機械とコラボレーションできること、先が見えないことに挑戦できるという贅沢が詰まっています。AIというものが、僕たちの世界のなかでどういうものになっていくのか。それを生でやってみるのに、今はとてもいい時期だと思うんです」

舞・飛天遊(まい・ひてんゆう)森山開次

この公演では、AIとダンスの動き、そしてシャルーンアンサンブルによる音楽が、呼吸を合わせた演奏を行うことになる。
「これまでヤマハが生み出してきたものは、人間が使う道具。でも楽器を、人間と楽しくコラボレーションするというところまで高めていきたいんです。人間と機械が仲間として共存し、感動をともにつくり出せたらと思っています」(田邑さん)

『舞・飛天遊』公演の前半は、伝統を守りつつ、常に新たな挑戦と改革を続ける唯一無二の演奏団体シャルーンアンサンブルによる演奏。シューベルトとモーツァルトの名曲のエレガントな響きを堪能したい。
「休憩を挟んだ後半は、ダンスと音楽が融合するまったく新しい音楽表現をぜひご覧いただきたいですね。また、森山さんがピアノと一体化したり、パートナーのように対話したり。そういった不思議な世界も見どころです」(田邑さん)
世界が認める才能と最先端科学が共演する一夜限りの公演に期待が高まる。


AIでダンサー森山開次をピアニストに―「舞・飛天遊」技術協力 舞台裏

■ 舞・飛天遊(まい・ひてんゆう)

日時:2017年11月22日(水)19:00開演(18:30開場)
会場:東京藝術大学奏楽堂(東京都台東区上野公園12-8)
入場料:5,000円(税込・全席指定)
出演:森山開次、ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル
曲目:シューベルト『八重奏曲』ヘ長調 D.803/モーツァルト『クラリネット五重奏曲』イ長調 K.581/松下功『舞・飛天遊』(舞バージョン初演)※人工知能(AI)演奏システムを使用するプログラム
詳細はこちら

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:MORISAKI WINさん「音は感情を表すもの。もっと音楽を通じたコミュニケーションをして、世界を見る目を広げたい」

5511views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#017 ジャズをつなぐエッセンスを詰め込んだ“絶好調”のポスト・ビバップ~ハンプトン・ホーズ『ザ・トリオ VOL.1』編

828views

豊かで自然な音と響きを再現するサイレントバイオリン「YSV104」

楽器探訪 Anothertake

アコースティックの豊かで自然な音色に極限まで迫る、サイレントバイオリン™「YSV104」

11531views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

20721views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9282views

オトノ仕事人

プラスマイナス0.05ヘルツまで調整する熟練の技/音叉を作る仕事

27895views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

22732views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8290views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

21623views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

4630views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5582views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9520views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8004views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

18744views

ジャズが“距離感”を重視すべき音楽であることを考えさせたあるデュオのトラウマ

音楽ライターの眼

ジャズが“距離感”を重視すべき音楽であることを考えさせたあるデュオのトラウマ

4260views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

弦楽器の“健康診断”から“治療”、健康アドバイスまで/弦楽器の調整や修理をする職人(前編)

14180views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

7814views

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

楽器探訪 Anothertake

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

11219views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

6762views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

8252views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

63347views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7125views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24632views