Web音遊人(みゅーじん)

寺井尚子インタビュー

こだわりの音とアレンジでスタンダード・ナンバーを一新、ジャズ・バイオリンの魅力が凝縮されたアルバム『The Standard』/寺井尚子インタビュー

まだまだ世界には少ないと感じられるジャズ・バイオリニストだが、だからこそ寺井尚子の存在は輝かしい。2018年にはプロ・デビュー(そしてCDデビュー)から30年という節目を迎えるが、2017年もまた彼女にとっては大切な年になるだろう。3月に『Piazzollamor(ピアソラモール=「ピアソラに愛を込めて」といったタイトル)』というCDをリリースして間もない11月、ジャズのスタンダード・ナンバーを13曲収録したCD『The Standard』をリリースし、ジャズへの愛と感謝を奏でているのだから。

「1917年に初めてとなるジャズのレコードが録音されてから100年。数え切れないほどの曲が生まれ、多くのミュージシャンたちが演奏してきたスタンダード・ナンバーですが、ずっと愛され続けているという“曲の持つ力”を感じながら、自分もその輪の中に加わりたかったのです。これまでのCDでも多くのスタンダードを取り上げましたが、今回は『枯葉』『ゴールデン・イヤリングス』をのぞき、初めて取り上げる曲がほとんど。あまり知られていませんが『デヴィル・メイ・ケア』(ボブ・ドローというヴォーカリストが1950年代に発表した曲)はどうしても入れたかったですし、北島直樹さんによるビッグ・バンド風のアレンジも素敵に仕上がっています」

スタンダード・ナンバーゆえ、演奏はもちろんアレンジもまた個性だといえるが、今回は2003年のアルバムから約13年も寺井尚子サウンドを支えている北島直樹(ピアニスト、コンポーザー)が、全曲のアレンジを担当。1曲目に収録されている『ナイト・アンド・デイ』からすでに、都会的でしゃれた音が流れてくる。
「アルバム制作のときはリハーサルに100時間くらいをかけ、演奏とディスカッションを積み重ねながら形を組み立てていきます。ですからレコーディングの際はほぼワンテイクで録り終えます。自分ならではのサウンド作りには強いこだわりももっています。バイオリンといえば美しい高音のイメージを連想する方も多いでしょうが、私は太くてパワフルな中低音が好きですね。豊かな表現力のある音が理想です。ジャズを志した10代の頃より、それは変わりありません。ライブではPAを使いますけれど、やはり楽器が生み出す生音の素晴らしさをできる限り届けたいですし、そのために音作りのスタッフと試行錯誤して“寺井尚子の音”を作り出しています」

寺井尚子インタビュー

愛奏するバイオリンはイタリア製で、20年以上も使っている楽器。ガット(羊の腸)製の弦を使っており、音色へのこだわりが見てとれる。CD『ザ・スタンダード』では、メロディアスなバラードでも、アップテンポのナンバーでも、その音を堪能できるのは言うまでもない。「私はこの楽器を炎天下の野外ステージでも弾きます。常に持ち歩いて大切にしていますが、甘やかさないようにしてきたのです。楽器がいつの間にかタフに育っていて、いつの頃からか一心同体になりました。今、いちばんいい状態で理想の音を奏でてくれますね」

4歳からクラシックのバイオリンを学び、小学生の頃は「全日本学生音楽コンクール」(通称「毎コン」)にも出場。イツァーク・パールマンやヤッシャ・ハイフェッツらが演奏するレコードを毎日のように聴き、当時から音の個性ということには敏感だったという。14歳のときに腱鞘炎となってひとときレッスンを離れたが、ビル・エバンスの名盤『ワルツ・フォー・デビイ』を聴いてジャズへと転向したのは有名なエピソードだ。 「最初はアドリブの存在も知らず、なんて自由で素敵な演奏をする人たちなんだ!と驚いたほどですが、実は今でも毎日の練習ではパガニーニの曲なども弾いています。演奏、特にアドリブには日常の自分が出ると思いますから、気づかないうちに曲のフレーズを弾いているかもしれませんね」 と、取材の合間に有名な『カプリース第24番』の一節を弾いてくれた。

■アルバムインフォメーション

『The Standard』
The Standard
発売元:ユニバーサル ミュージック
発売日:2017年11月22日
料金:3,240円(税込)
詳細はこちら

 

特集

八代亜紀さん

今月の音遊人

今月の音遊人:八代亜紀さん「人間だって動物だって、音楽がないと生きていけないと思います」

10439views

音楽ライターの眼

息の合った見事なギターコラボに今後も期待/沖仁×大萩康司×小沼ようすけ“TRES III”

771views

v

楽器探訪 Anothertake

弾く人にとっての理想の音を徹底的に追究したサイレントバイオリン™

6794views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

15956views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

9398views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

4059views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

18291views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6984views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22909views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5752views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5471views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26118views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8564views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23462views

音楽ライターの眼

『ヤマハのオト〜奏でる匠のオト〜Ⅲ』アルバムレヴュー

3230views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

4059views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

6119views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

5411views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

8592views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7252views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

3212views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5612views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26118views