今月の音遊人
今月の音遊人:千住真理子さん「いろいろな空間に飛んでいけるのが音楽なのですね」
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『舟唄』『雨の慕情』など、日本人の心に染みる演歌を歌ってきた八代亜紀が今、悠々とジャンルの壁を超え、ファン層を広げている。2017年秋、小西康陽(元ピチカート・ファイヴ)プロデュースのジャズアルバム第2弾『夜のつづき』を発売。2018年4月にもジャズの殿堂、ブルーノート東京でライブを行った。芸歴48年目を迎えるベテランが新境地に挑む姿は、実に自由で爽快だ。
発端となったのが、2012年に小西プロデュースで出したジャズアルバム『夜のアルバム』。国内の各ジャズチャートを席巻するヒットとなり、世界75か国に配信。翌年にはニューヨークの名門ジャズクラブ「バードランド」でライブを行った。2015年、今度は『哀歌-aiuta-』というタイトルのブルースアルバムを発売。さらに、フジロックフェスティバルなど野外のロックフェスにも参加した。「何万人もの若者がウォーって地響きのような歓声を上げて。フェスは本当に気持ち良くてクセになります」と、笑顔がはじける。
最新作『夜のつづき』は、『夜のアルバム』から5年ぶりとなったジャズアルバム第2弾。「小西さんが5年の間、八代亜紀に歌わせたいものを選曲してくれたそうなの。遊び心がいっぱいあって笑ってしまう曲も多かった」。1曲目、『帰ってくれたら嬉しいわ (You’d Be So Nice To Come Home To)』は、「ユー・ビー・ソウ〜♪」という歌い出しを、小西が「指を~」と音をなぞりつつ意味も成立させる絶妙な日本語詞を書いた。『赤と青のブルース』では、少女のようなキュートな高音を聴かせる。「小西さんが『17歳になったつもりで歌ってください』と言ったけど、せいぜい36歳かな。でも、声音変えるのは時々やるの。お芝居するのが大好きだから」とほほ笑む。ジャズ以外にも、水原弘の『黒い花びら』も。「『どっぷり流行歌で大丈夫?合いますかね?』と最初は心配したんですけど、いいアレンジでね。ロサンゼルスや台湾の公演でも拍手喝采。スタンディングオベーションだったの」
異ジャンルへの挑戦を厭わない姿勢は、そもそも八代の生い立ちにある。音楽の原点は、幼少時に父親に抱かれながら聴いた浪曲。12歳の時、父親がなぜか買ってきた、ジャズシンガーのジュリー・ロンドンのレコードに夢中になり、ジャズの練習に励んだ。歌手としての出発点も16歳の時、銀座のクラブで歌ったジャズだった。「音楽評論家の方に言われたの。浪曲とジャズのミックスが八代演歌だって」
独りよがりにならず聴き手に寄り添い、泣かせる演歌の真骨頂を会得したのも、銀座のクラブシンガー時代だったという。「私は、歌の主人公にはなりきれないの。代弁者なの。感性が強いのかな。経験してないんだけど、魂が受け取るの」。2歳の時、父がラジオで聴いた浪曲での母子の悲しい場面で「かわいそう」と泣いたり、小学校の音楽ではクラシックを聴いた感想に「朝もやの中に橋があってぼやけている。そこで男の人と女の人が抱きしめ合っている」などと書いたり。幼い頃から備わっていた感受性の強さは、親や教師を驚かせていた。だからこそ、八代は自信を持って言い切る。「演歌、歌謡曲、ロック、ジャズ、ブルース、浪曲。音楽は一緒、感情は一緒ですからね」。
従来の八代演歌ファンも、最近はジャズも喜んで聴いてくれるようになったという。「今度は、若者にも演歌っていいよって教えてあげたい。だって、(2013年にライブを行った)バードランドでも『舟唄』で泣いた人がいるのよ」
ジャンルにとらわれず、まさに音楽そのものを楽しんでいる充実感にあふれた笑顔で語ってくれた。
『夜のつづき』
発売元:ユニバーサルミュージック
発売日:2017年10月11日
料金:3,240円(税込)
『夜のアルバム』
発売元:ユニバーサルミュージック
発売日:2012年10月10日
料金:3,240円(税込)