Web音遊人(みゅーじん)

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.15

これまで14回にわたって、ジャズとデュオの新たな関係性について具体的な作品を取り上げながら考察してみた。

テーマが現在進行形の事象なのであるから、14回のなかで挙げた事例のみで総論を語るのは乱暴にすぎると承知のうえで、その内容をまとめて解説してみたい。

これまで本稿で“新たなデュオ”だと考えたのは、「楽器の表現力や可能性を炙り出す」「インタープレイと作品性を両立させる」「演奏者の共感とその再生」「デュアル・ストーリー」「ポジションの自由化」「倍音」「メロディの輪郭」に関係するものだった。

1990年代以降のジャズ・シーンを俯瞰してみると、楽器そのものに関しては1970年代のアコースティックからエレクトリックへの転換ほど大規模な変化はなかったものの、録音や再生の技術には楽器本体の在り方を変えざるをえないほどの変化があったと言っていいかもしれない。

要するに、演奏側ではなく聴者側の環境(接し方)が変わったために、演奏者の意識も変わらざるをえなかったということ。

そしてこの変化によっても、デュオという1対1の、ある意味でミニマムにして最大の効果を発揮できる音楽的対峙の方法論が備えていた“プリミティヴなダイナミズム”は弱められなかったことに、今回の新デュオ論の核心があると言ってもいいだろう。

つまり、“この楽器はこういう音色だからこの組み合わせが最適”だという“経験則”を超えた部分でサウンドを構築しようと、演奏者たちが先進的な取り組みを始めるなか、デュオだからこその“プリミティヴなダイナミズム”がリスナーに伝わりやすかったのではないか、ということなのだ。

主観的であったこれまでの演奏者と楽器の関係に、リスナーの意識が入ることによって客観性が生まれれば、必然的に方法論も変わってくる。

それによって、これまでインタープレイのような“楽器同士の対峙”だけだったものから、作品性を考える余地や、演奏者の共感を異なるイメージへと転換させる発展性が生まれることになり、ストーリーを多層化するようなアプローチも可能になった。

また、楽器の特性に対する固定観念を薄れさせることによって、演奏中のポジションの自由度も増すことになる。1対1であることや攻守の順番を守ることに固執しなくても済むことは、演奏者の想像力を刺激する大きな要因になったはずだ。

倍音やメロディの輪郭といったアイデアは、従来の制約を前提とした、デュオを破綻させないための“自主規制”からは決して生まれないものだろう。

であるならば、こうしたアイデアの成果がデュオを超えたかたちで具現することで、トリオやクァルテットへと波及し、ビッグバンドでも完成度を高めて披露されるようになるに違いない。

楽しみにその成果を待つとともに、その兆候も追って報告したい。

<了>

ジャズとデュオの新たな関係性を考える<全編>

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」

10389views

音楽ライターの眼

セミヨン・ビシュコフがチェコ・フィルの新たな時代を拓く

5238views

楽器探訪 Anothertake

26年ぶりにラインアップを一新!「長く持っても疲れにくい」を実現し、フラッグシップモデルが加わったバリトンサクソフォン

3662views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

56161views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

10919views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

8316views

サントリーホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

クラシック音楽の殿堂として憧れのホールであり続ける/サントリーホール 大ホール

22650views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

9370views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13990views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

10937views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.7

パイドパイパー・ダイアリー

最初のレッスンで学ぶ、あれこれについて

4719views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25390views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

19563views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22633views

音楽ライターの眼

連載17[ジャズ事始め]上海がアジアにおけるジャズのホット・スポットであった歴史的事実とアジア・ジャズの関係性を解いてみる

3117views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

1879views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6595views

マーチングドラムの必須条件とは?

楽器探訪 Anothertake

マーチングドラムの必須条件とは?

11261views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14243views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

8557views

楽器のあれこれQ&A

目指せ上達!アコースティックギター初心者の練習方法とお悩み解決

99882views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3168views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30364views