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クラシックマニアのベストセラー作家が25の名曲に真正面から迫った/『クラシック 天才たちの到達点』百田尚樹
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2018.8.31
tagged: ブックレビュー, 百田尚樹, クラシック 天才たちの到達点
百田尚樹というと、『永遠の0(ゼロ)』や『海賊とよばれた男』などのベストセラーを生み出してきた作家だが、知る人ぞ知る筋金入りのクラシックファンでもあるそうだ。これまでに『至高の音楽』『この名曲が凄すぎる』というクラシックエッセイを発表しており、今回紹介する『クラシック 天才たちの到達点』はその第三弾で、完結編となる。
19歳のときにクラシック音楽に開眼し、これまでに購入したレコード、CDは2万枚以上。現在はリスニングルームを兼ねる約36畳の仕事部屋で、日がな一日好きな音楽を聴いているという百田。「私は音楽学者ではないので、音楽は自分の好みで聴く」(本著より)と明言しているように、本著で取り上げている作曲家・楽曲は百田の好みで選ばれたもので、彼の思ったこと、感じたことを軸に話が展開していく。
これだけ聞くと、個人の感想に終始したエッセイと思いがちだが、本著のポイントは、史実や音楽理論などを交えつつ、「なぜこの曲が素晴らしいのか」という客観的な裏付けもされているところ。楽典や音楽史の知識がなければ出来ない楽曲分析や、バイオリン、ピアノなどの楽器の特性の解説、詳細に語られる作曲家の人生やエピソード、各楽曲の名盤(名演)のリストアップの幅広さなどから、百田が“にわかファン”でないことは誰もがわかるだろう。クラシック初心者はもちろん、深い知識を持つ音楽愛好家も、音楽への愛と情熱がほとばしる百田の語りに、ぐいぐい引き込まれてしまうに違いない。
後半の第二部では、完結編の締めとして、作曲家達の最晩年の作品が取り上げられている。クラシック音楽を聴き始めた若いころから、最晩年の作品に惹かれることが多かったという百田は、「最初はとっつきにくい曲に思えても、長く聴き続けると、その深い内容にどんどん魅了されていきます。それらの作品には作曲家の心境や感情が如実に表れているからです」(本著より)と語る。例えばモーツァルトは、生涯で作曲した約700曲のほとんどを第三者の依頼で書いたとされるが、最後に書いた交響曲第39番・第40番・第41番(通称、三大交響曲)や、最後のピアノ協奏曲である第27番については、他の曲とは明らかに異なる世界観があることから、誰のためでもなく、自分自身のために書いたものではないかと百田は推測する。
本著には楽曲の聴きどころを集めたダイジェスト版CDが付いており、視聴する楽曲の幅を広げるのに一役買ってくれる。気になる曲が見つかったら、百田がすすめる音楽家の全曲入りのCDや音源などを購入し、エッセイと照らし合わせながら聴けば、楽曲をより深く味わえるだろう。
百田尚樹のエッセイは、名曲が名曲たる所以を教えてくれるとともに、歌詞はなくとも、楽曲には作曲家の様々なメッセージが込められていることに改めて気付かせてくれる。
『クラシック 天才たちの到達点』
著者:百田尚樹
発売元:PHP研究所
発売日:2018年6月18日
価格:1,950円(税抜)